No.1075
2025.10.03
電気の力で食事の塩味・うま味を増強するカップ型デバイス
エレキソルト カップ

概要
「エレキソルト カップ」とは、微弱な電流で食事の塩味やうま味を増強する、カップ形状の食器型デバイス。カップ内部の電極から人体に影響しないごく微弱な電流を流し、味の成分の動きをコントロールして味の感じ方を変化させる。味わいをふくらませることで、塩分を控えた食事(減塩食)の物足りなさを解消し、取り組みの継続や健康維持をサポートする。先行発売した「エレキソルト スプーン」の展開後に寄せられた、スプーン以外の形態を求める声やスプーンを使わずに汁物を食べるニーズを受け、新たに開発。美容機器の製造技術などを用いて、電流の安定性を高め、食器洗浄機対応も可能にして、日常使いしやすいデバイスを構築した。塩味・うま味に留まらず、多様な味覚領域を見据えた技術開発を推進しており、食の可能性を拡げるデバイスとして、国内外での幅広い展開が期待されている。
なぜ生まれたのか?
塩分のとり過ぎは高血圧など生活習慣病を引き起こすことから、WHO(世界保健機関)は1日の摂取量を5g未満に抑えるよう勧めている。対して、日本人の1日あたりの平均食塩摂取量は、20歳以上の男性10.7g/女性9.1g(厚生労働省、令和5年「国民健康・栄養調査」)。直近10年間で大きな増減はなく、WHOが推奨する量の倍近くの値で推移しており、諸外国と比べても高い水準にある。
近年では疾患を抱える人だけでなく、健康志向の高まりから減塩食を取り入れる人が増えているが、味の薄さなどが原因で継続を断念するケースも少なくない。そうした背景を踏まえ、キリンと明治大学 宮下芳明研究室は2019年から電流で味を変化させる「電気味覚」の共同研究を開始。「電流波形」の技術を開発し、プロトタイピングや臨床実験などを経て、2024年5月にスプーン型デバイス「エレキソルト スプーン」を発売した。
「エレキソルト スプーン」は販売開始後、約7カ月で予定台数の7倍を超える注文数を獲得。国内で7つの賞を受賞し、世界最大級のテクノロジー見本市「CES」の「Innovation Awards 2025」でも受賞製品に選ばれるなど、国内外で高い評価を得た。
「エレキソルト カップ」は既存製品の技術をベースに、美容機器を手掛けるヤーマンと共同で開発。2025年9月9日より販売を開始している。
なぜできるのか?
独自開発の「電流波形」技術
陰極・陽極の波形を組み合わせた独自の「電流波形」技術を用いている。キリンと明治大学 宮下研究室が共同開発した技術で、塩味のもととなる塩化ナトリウムやうま味のもととなるグルタミン酸ナトリウムなどが持つイオンの動きをコントロールできる。電極を搭載したデバイスと食品を介して舌周辺に微弱な電流を流し、イオンを舌に引き寄せて味わいの変化をもたらす。開発中に行った臨床試験では、減塩食の塩味を約1.5倍に増強する効果を確認。食塩を30%減らした場合でも、通常の食事と同等の味わいが得られる。
美容機器の電気設計・防水技術の活用
ヤーマンとキリン パッケージイノベーション研究所の技術を掛け合わせてデバイスを構築した。ヤーマンの「イオン導入美顔器」の中核技術である「手元電極」「作用電極」の設計技術・知見の活用と、キリンの機器開発や評価技術の応用で、電流の安定性や機器の耐久性・耐熱性などを向上。光美容器やヘッドスパマシンなどの防水構造技術も用い、食器洗浄機・乾燥機の対応を可能にした。液体ベースの食事に適しており、スープ・味噌汁といった汁物をはじめ、そばやラーメンなどの麺類にも対応する。
日常生活に溶け込むデバイス設計
日常使いしやすい設計・構造と食卓に馴染むデザインを追求した。電源オン・オフや強度レベルの切り替えは、カップ側面のスイッチで直感的に操作可能。電流強度は3段階で好みに合わせて設定でき、食事の際はカップの取っ手を持ちながら液体や麺を口に含むだけと、自然な動作で味わいを増強できる。約0.5秒かけてゆっくり味わうことで、より高い効果を得られる。デバイスを制御する底蓋部分と食事を入れるカップは着脱可能で、カップ部分は普通の食器と同様に洗って乾かせる。また公式サイトで減塩レシピを公開しており、手軽に利用を始められる。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
・特許第7704793号 / 特開2023-28676
・特許第7402356号 etc.
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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