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2023.03.08
知財ニュース
米Blue Origin、月の土の模擬物質から太陽電池のプロトタイプを開発─月面での持続可能な電力供給に期待
Amazonの創設者兼会長であるジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙企業Blue Originは2023年2月10日、月の土の模擬物質から太陽電池のプロトタイプを完成させたことを発表した。
米航空宇宙局(NASA)による有人宇宙飛行プロジェクト「アルテミス計画」では、月面へのヒトの輸送のみならず、月面拠点の建設や長期滞在を目指している。しかし、この達成には現地の資源を利用した十分な電力の確保が必要であることから、Blue Originでは2021年から、月の模擬物質を原料とした太陽電池と送電線の開発を推進してきた。
同社の研究チームは、太陽電池の開発に当たり、月面のレゴリス(塵や土、砂利などの天体表層の堆積層)から太陽電池や電線の材料を抽出し月面の電力システムを作る「Blue Alchemist」技術を開発。月面にある素材だけで太陽光パネルの製造ができるかをテストするため、月のレゴリスと化学的・鉱物学的に同等とされる模擬物質を独自に開発し、この模擬物質を溶融レゴリス電解(高温で溶融し電気分解)して、鉄、シリコン、アルミニウムを抽出した。なお、シリコンは太陽電池製造に必要な99.999%以上の純度に精製できたという。
また同社は、過酷な月の放射線から太陽電池を守る保護ガラスや、大量の電気を高電圧で送る送電線も、溶融電気分解によって生まれた素材から製造可能としている。特に、シリコンの融解と太陽電池を作る薄層の堆積は寿命が長く、保護ガラスを使用することで、太陽電池の数日の寿命を10年以上に延伸できるとしている。
なお、有毒で爆発性のある化学物質が用いられる地球上でのシリコンの精製とは異なり、太陽光と抽出されたシリコンのみを使用するため、環境に優しい製法になっている。また、シリコンの生成過程では鉄、ケイ素、アルミニウムから分離された酸素が副産物として得られ、生命維持やロケット燃料へ活用できるとのこと。
同社の技術は、CO2排出量ゼロ、水必要なし、有毒成分やその他の化学物質なしで太陽電池を製造するため、地球に直接利益をもたらす可能性を秘めていると期待されている。
Top Image : © Blue Origin