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2023.12.01
知財ニュース
国立天文台、アルマ望遠鏡による最高解像度での観測に成功─“視力1万2000”達成を発表
国立天文台(NAOJ)は、アルマ望遠鏡(電波望遠鏡で構成される電波干渉計)で、パラボラアンテナ間の距離が最長となる配置と最高の観測周波数を用いた試験観測に成功し、年老いた星からガスが流れ出す様子が、これまでで最も高い解像度で捉えることができたと発表した。5ミリ秒角の最高解像度を達成し、この解像度を活用すれば、地球軌道の大きさまで分解できる原始惑星系の個数が飛躍的に増えるとのことだ。
アルマ望遠鏡は、66台の電波望遠鏡で構成される電波干渉計だ。干渉計では、望遠鏡の配置が広いほど、また観測周波数が高いほど、得られる解像度は高くなる。アルマ望遠鏡では、望遠鏡どうしの間を最大で16キロメートルまで離すことが可能で、また最も高い観測周波数帯は、バンド10と呼ばれる787-950ギガヘルツとなっている。しかしこの配置および周波数での観測は、気象条件や観測誤差の補正が非常に困難で、これまで実現することができなかった。
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
チリの合同アルマ観測所、国立天文台、米国国立電波天文台、欧州南天天文台の天文学者を中心とした最適化・性能拡張チームは、観測誤差の補正のための較正(こうせい)天体と観測目標の天体とを別のバンドで交互に観測する「バンド・トゥ・バンド観測誤差補正法(B2B法)」という手法で、最高解像度での観測に挑んだ。B2B法は、1990年代に国立天文台野辺山宇宙電波観測所で開発を開始したもので、アルマ望遠鏡でも活用できるように実装されてきた。チームは、目標天体と較正天体の観測を素早く切り替えるなどのさまざまな最適化を進め、応用試験を繰り返してきた。そして今回、年老いた恒星「うさぎ座R星」の電波画像を5ミリ秒角の解像度で得ることに成功した。
アルマ望遠鏡は宇宙空間に漂う塵やガス、ガスのなかに含まれるアミノ酸などの有機物をとらえることもできる。© National Astronomical Observatory of Japan
今回の試験観測では、恒星からガスが流れ出し、リング状の構造を作り出している姿が明瞭に捉えられた。このような高解像度が要求される観測対象として、今回の試験で観測されたような寿命を迎えつつある恒星以外に、惑星系の誕生の現場となる原始惑星系円盤が挙げられる。地球軌道の大きさまで見分けられる原始惑星系は、従来の解像度では5天体ほどに限られていた。5ミリ秒角まで見分けられるようになれば、その数は数百天体にまで飛躍的に増加する。原始惑星系円盤を高い解像度で多数観測することで、惑星系の多様性の起源の理解につながるとしている。
Top Image : © 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台