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2023.06.07
知財ニュース
海面上昇に適応する海上都市 「Dogen City」が始動─2024年に浜名湖で実験、2030年以降、1万人収容の海上都市建設へ
海上建築スタートアップの株式会社N-ARKは6月7日、気候変動に適応する海上都市「Dogen City(同源都市)」の事業構想を発表した。清水建設とともに建築物の浮体技術を検証し、来年3月、海水から食物を育てる海上ファーム「Green Ocean」を浜名湖に建設予定。2030年以降、海上都市Dogen Cityの建設を目指す。
海上都市「Dogen City」は、気候変動により併発する海面上昇、水害塩害、水不足、農業壊滅などの危機に適応する自立分散型の都市。地球の70%を占める海を生存圏・経済圏として捉え、気候変動に対して回復力・復元力・弾性を持った海上都市を創り出し、世界的危機の解決を目指す。
コンセプトは、医食住を「同源」に融合させる事。直径1.58km、周囲約4kmの大きさの海上都市で、1万人ほどの住民を収容。インフラ機能は都市レベルながら、住みやすさは小さな村のような快適性を備える。
Dogen Cityは、以下3つのインフラから構成される。
1.リング:
上下水道/エネルギー/データケーブルなどの生活インフラと公共住宅を備え、居住可能なゾーンを実現する。船のような形状で内湾を保護し、津波を防ぐ役割も果たす。
2.海中エッジデータセンター:
海中で冷却されることで、エネルギー消費を抑えながら、都市運営OSやヘルスケアデータ分析、創薬シミュレーションなどの高付加価値サービスを提供する。
3.浮体建築:
内湾で自由に移動できる浮体建築。土地制約を受けず、都市機能を柔軟に組み替えることが可能。
居住可能なゾーン「リング」断面図
「リング」と呼ばれる、水面上に環状に構成される浮遊する都市構造により、生活インフラと公共住宅を兼ね備え、海上に居住可能なゾーンを実現する。船のような形状で内湾を保護することができ、津波からも居住空間を防ぐ。
Dogen Cityは、平時には海上未病都市として機能し、自然災害時にはスタンドアローン(孤立しても機能するさま)でも機能する持続可能な都市として設計される。また、海上の立地を活かし、ロケット移動サービス離着陸地として、宇宙と海と地上を結ぶ新規観光産業が展開される。
Dogen Cityは生活圏データの管理と分析を行い、住民は、リングデバイス、血液採取、ゲノム分析から、日常的に遠隔医療を受けられる。医療データやゲノムデータと組み合わせ、個人の健康状態をより正確に評価し、創薬シミュレーションや遠隔ロボット手術などの先端医療も受けることができる都市となる。
またヘルスケアのほかにも、海水農業と複合養殖で生まれる食材や料理、海水温泉を組み合わせたメディカルツーリズムも提供する。自然災害の被災者や気候難民の受け入れや高度教育も行う。
生活圏データを基にした遠隔医療による未病社会の実現
医食同源を体現する料理体験と食物生産基盤
地震、水害、津波など自然災害の避難地としての対応
今後は、海水を栄養源として食物を育てる海上ファーム「Green Ocean」の実証実験機を、2024年3月の浜名湖花博の時期に建設を目指すという。「Green Ocean」は、海上では塩性農業技術による食糧生産を、海面下は藻類等の栽培によって海中環境の改善を行う。気候変動時代のファーストステップとして実証実験していくという。
毎年の台風と豪雨だけでなく海面も上昇しており、2030年までにも東京湾、大阪湾、伊勢湾周辺で大きな水没のリスクが予測されている気候変動。同社では、2050年までに2億人を超えるとされる気候難民の受け入れまで応用できる「海上不動産」の実現に取り組んでいくとしている。
Top Image : © 株式会社 N-ARK
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