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2024.10.18
知財ニュース
北京大学、iPS細胞を使用し、1型糖尿病の患者が自身の体内でインスリンを生産することに成功
北京大学の研究チームは、1型糖尿病の治療で患者自身の「iPS細胞」を使用し、患者の体内でインスリンを生成する細胞を培養、移植することで患者が自身の体内でインスリンを生産することに成功したと発表した。
iPS細胞の技術は京都大学の山中伸弥氏が開発したもので、その後の研究で免疫抑制剤を必要としない治療が期待されている。
糖尿病は、世界中で約5億人が罹患しており、糖尿病患者の中で1型糖尿病は、免疫系が膵臓のインスリンを生成する細胞「膵島」を攻撃し、インスリンをほとんど生成することができなくなる。治療で膵島移植はできるが、需要を満たすだけのドナーがおらず、移植を受ける患者はドナーの組織が拒絶反応を起こすことを防ぐために免疫抑制剤を使わなければならないのだという。
体内のあらゆる組織を増殖させるのに利用できる幹細胞は、研究室で無期限に培養できるため、膵臓組織の無限の供給源となる可能性があるとされている。また、研究者らは、患者自身の細胞から作られた組織を使用することで、免疫抑制剤の必要性を回避できるとも期待している。
北京大学の細胞生物学者Deng Hongkui氏の研究チームは、1型糖尿病患者3人から細胞を抽出し、体内のあらゆる細胞に形成できる多能性状態に戻した。この再プログラム化技術は、京都大学の山中伸弥氏によって開発されたips細胞の技術で、Deng氏の研究チームはその技術を改良。研究チームは細胞を小分子にさらし、プロセスをより細かく制御できるようにした。研究者らはその後、化学的に誘導された多能性幹(iPS)細胞を使用して膵島の3Dクラスターを生成した。
2023年6月に、女性患者の腹筋に約150万個の膵島に相当する膵島を注入。注入から2か月半後、女性は補充をしなくても生きていけるだけのインスリンを生産できるようになり、そのレベルを1年以上維持している。血糖値の危険な急上昇や急降下は起こらず、1日の98%以上は目標範囲内の血糖値にとどまっていた。
フロリダ州マイアミ大学の内分泌学者で1型糖尿病を研究しているジェイ・スカイラー氏は、この女性患者の細胞が最大5年間インスリンを生成し続けることを確認してから「治癒」と判断したいと考えているとのこと。
今回手術を受けた女性は以前の肝臓移植ですでに免疫抑制剤を投与されていたため、拒絶反応のリスクが軽減したかどうかを評価できなかったとのこと。体が細胞を「異物」とみなさないため移植を拒絶しなかったとしても、1型糖尿病患者は自己免疫疾患を患っているため、体が膵島を攻撃するリスクは依然としてあるのだという。
Deng氏は、他の2人の被験者の結果も「非常に良好」であり、この2人の患者は11月に1年目を迎える予定で、その後、さらに10人か20人に試験を拡大したいと考えているとのことだ。
京都大学の糖尿病研究者、矢部大介氏は、ドナーのiPS細胞から生成した膵島細胞を使用して治験を開始する予定だ。最初の被験者は2025年初めに移植を受ける予定だとしている。
Top Image : © 北京 大学