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2023.06.09
知財ニュース
香港の研究チーム、においを嗅げる指先サイズのウェアラブルVR装置を開発─記憶の呼び戻しや教育に応用も
香港城市大学らの研究チームは、小型で身に着けることができ、VRでにおいを生み出すウェアラブルVR装置を開発したと発表した。VRゲームでの活用や、4D映画、匂いで記憶を刺激することで記憶障害の治療などに活用が期待されている。
この装置は、ワイヤレスでラベンダーやケーキ、ドリアンなどの複数のにおいを感じられるもの。小型の「におい発生装置」が2個ついた鼻下に貼るタイプと、9個ついたマスクタイプがあり、装置に無線通信で信号が送られると、におい発生装置のワックスが加熱され、わずか1.44秒ほどで特定のにおいが放出されるという。
さらに加熱温度によって匂いの強弱も変えられるため、VR空間での遠近に従って香りの強さを出し分ける立体的な演出も可能とのこと。
研究チームはこのデバイスを11人のボランティアでテストし、パイナップル、グレープ、レモン、イチゴ、ドリアンなどの果物、緑茶、ミルク、コーヒーミルクなどの飲料、パンケーキ、白米といった食べ物など合計30種類の香りが出せることを実証した。
においで危険を察知したり記憶を呼び覚ましたりと、人間にとって重要な五感の一つである嗅覚。しかし、従来のVRの嗅覚技術は、ボトルから香水を噴霧する大型タイプや有線式のヘッドセットが主流で実用性に限界があり、 VR開発では視覚や聴覚、触覚に比べて嗅覚装置は遅れをとってきた。そこで研究チームは、指先にのるぐらい小さな「におい発生器」を基本にした装置を開発した。
同研究チームによれば、VRの嗅覚技術はVRへの没入感の向上だけでなく、医療や教育にも応用できる可能性があるとのこと。また、匂いが特定の感情や記憶を刺激することを利用して、香りで感情をコントロールしたり、健忘症患者が記憶を取り戻すための治療にも応用できると期待している。研究チームからはバーチャルな植物学の授業などの教育分野での活用も提案されており、今後の応用に期待が高まる。
科学誌「Nature Communications」掲載論文はこちら
Top Image : © Xinge Yu