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2023.09.04

知財ニュース

英バイオテックEtcembly、生成AIを用いたがん免疫治療法を開始─親和性の高いTCR候補を11カ月で検索・設計

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英バイオテックのスタートアップ企業である「Etcembly」は現地時間8月23日、生成AIを用いて設計した、新しいがんの免疫療法を開始すると発表した。

がん治療の1つとして、異物から身体を守るリンパ球の一種「T細胞」を用いる方法がある。疾患の原因となっている細胞や病原体に、異物を駆除するT細胞(免疫細胞)を近づけ、原因を取り除いて治療する。そのT細胞を活性化させる役割を担うのがTCR(T細胞受容体)だ。

同社は生成AIを用いて、治療薬となるTCR候補の検索や設計などを実施。従来の方法では2年以上かかっていたものを、11カ月で実現した。

ET_sub 「EMLy」で予測されたTCR構造(モデル)と、実際の結晶構造(クリスタル)は高い一致性を示しており、この精密なモデリングにより、高親和性変異体の迅速な作製が可能になる。

Etcemblyは、がん免疫療法の最適化やタイムラインの圧縮、パーソナライズした治療法の設計などを目指し、AIプラットフォーム「EMLy」を独自開発。TCRの複雑なパターンを見つけるために機械学習・最適化を行っている。

同社は主な免疫療法として「ETC-101」を展開。健康な組織には存在しないが、がん細胞に存在する特有のタンパク質である「PRAME」(腫瘍抗原)を標的とする。EMLyに実装された大規模言語モデル(LLM)を用いて、何億ものTCR配列の解析を実施。短期間で、これまでの受容体よりも100万倍におよぶ高い親和性を持つ、TCR・新薬候補の予測・設計・検証を実現している。

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Etcemblyは2020年に設立。次世代の免疫療法の設計を目指し、TCRと生成AIを融合させたアプローチで開発を推進してきた。その取り組みは評価されており、AI スタートアップ支援プログラム「Nvidia Inception」にも名を連ねている。

同社は、今後展開する療法で標的となるがん細胞の種類を拡げ、また時間の短縮も図るという。TCRによる免疫療法はその効果が認められながらも、構造・仕組みの複雑さなどが活用の足かせとなっていた。生成AIを用いた新たな免疫療法が、がん治療の在り方を大きく変えていきそうだ。

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「Etcembly」公式サイト

Top Image : © Etcembly

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