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2022.01.27

コラム | 特許図面図鑑

【特許図面図鑑 No.10】図面で垣間見る日本の歴史③~昭和初期~

特許図面図鑑 10

ユニークで奥深い「特許図面」の世界を紹介するこのコラム。今回は「図面で垣間見る日本の歴史」シリーズ第三弾、昭和初期です。(過去のコラム:①明治期、②大正期


第一次世界大戦が終わり、「昭和金融恐慌(1927年)」や「世界恐慌(1929年)」に見舞われた昭和初期。産業界ではどの様な特許が出願されていたでしょうか。

早速見ていきましょう。

01 電池筐(第72030号)

発明者:松下 幸之助 氏
出願日:1926.3.24(大正15年)、特許日:1927.5.24(昭和2年)

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特許第72030号 J-PlatPat リンク

松下幸之助氏による、自身第一号となる特許です。「経営の神様」と称される同氏は、自身が生み出した技術アイデアについて、特許出願や実用新案登録出願を積極的に行ってきました。前回の大正期コラムにて紹介した特許権買取エピソードと合わせて、知的財産制度を自ら巧みに活用した経営者であると言えるかもしれません。(参考:「35. 特許第1号を出願 1926年(大正15年)」Panasonic HP)

02 水陸両用装輪装軌併用前進後退同速自動車(第72281号)

発明者:今村 貞治 氏
権利者:陸軍大臣
出願日:1927.3.30(昭和2年)、特許日:1927.6.14(昭和2年)

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特許第72281号 J-PlatPat リンク

陸軍大臣が特許権者である本件。水陸両用の車両に関する特許です。クワガタの角のようなプロペラー1を備えています。特許明細書によれば、「敵前の運行等に最も効果ある装甲車」とのこと。

軍用殊に敵前の運行等に最も効果ある装甲車、貨車等となるものなり。
(特許第72281号より)

なお、陸軍からは『「チョコレート」又ハ「チョコレート」類似食品ノ製造方法』(特許第159138号, J-PlatPatリンク)なる特許も出願されています。貴重な栄養源として開発したのかもしれませんね。発明者は、最終階級が陸軍主計少将であり農学博士の川島四郎氏(Wikipedia)です。

03 「ピアノ」ニ於ケル絃緊締用「ピン」取付装置(第104957号)

発明者:河合 小市 氏
出願日:1933.6.1(昭和8年)、特許日:1934.2.14(昭和9年)

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特許第104957号 J-PlatPat リンク

河合楽器製作所の創始者・河合小市氏による発明です。1919年には『「タイプライター」式原音譜穿孔機(特許第35597号)』を出願していた同氏(大正期コラム)。1927年に河合楽器研究所を設立後、その才能を活かしてピアノ作りに励んでいたようです。

河合小市は、まぎれもなく天才肌の人でした。初期の頃は、自らのさまざまな発明品の設計図を、製図の知識も機器もなしに、鉛筆ともの差しだけで精密に書き上げていました。
(『浜松偉人伝「河合小市」』浜松・浜名湖だいすきネット)

本図面も、鉛筆と物差しだけで自ら書き上げたものかもしれませんね。

04 自動車(第111481号)

発明者:マクス・ワーグネル 氏
権利者:ダイムラー・ベンツ・アクチエンゲゼルシヤフト
出願日:1933.4.27(昭和8年)、特許日:1935.3.22(昭和10年)

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特許第111481号 J-PlatPat リンク

これはわかりやすい図面ですね。横揺れを軽減させるべく「螺旋発條h1,h2」を有する点にポイントがあるようです。当時は今ほど道路が舗装されておらず、揺れ対策に関する技術が求められていたのでしょう。

車輛ノ曲線運動及地面ノ凹凸ニ困リテ主ニ疾走中起ル横搖ヲ可及的減少セシメントスルニアリ
(特許第111481号「発明ノ性質及目的ノ要領」より)

なお Wikipedia によれば、「1931年に東京市が舗装率55%超えを記念して道路祭を開くなど、徐々に舗装が進められていた(舗装 -Wikipedia)」とのこと。

05 自動食器洗滌器(第115966号)

発明者:陶山 吉喬 氏
権利者:陸軍大臣
出願日:1935.9.18(昭和10年)、特許日:1936.5.29(昭和11年)

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特許第115966号 J-PlatPat リンク

こちらは再び「権利者:陸軍大臣」の特許であり、「ブラシ11」が付いた小盤が回転することで食器を自動洗浄するという発明です。武器や車両等の軍備だけでなく、食器洗い機についても特許権で保護していたのですね。発明者である陶山吉喬氏は陸軍軍医監であり、実際の洗浄機は1時間で1,800枚もの食器を自動洗浄可能とのことです。(参考:「軍医の食事 ―雑誌『糧友』にみる戦時期の兵食―」政治学研究60号(2019))

以上、実業家や陸軍による特許など、昭和初期に登録された5件の特許を紹介しました。昭和初期は戦争と産業発達とが入り混じった複雑な時代であったことが想像できますね。

次回は「高度経済成長期」を取り上げます。どうぞお楽しみに。

(参考情報)
・「発明に見る日本の生活文化史」シリーズ | ネオテクノロジー
昔の特許文献の探し方と戦前の暗号関係の特許(付:戦前の中間処理実例) | Webページ

ライティング:知財ライターUchida
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