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2025.01.22

コラム

働く人の「心」を中心にした、工場のあり方

タイトル

当記事は知財ハンター、加藤 なつみnote(2024年12月掲載)より再編集されたものです。

Text:Natsumi / 感性工学デザイン(知財ハンター)

感性工学という人の感性(=心)を中心にしたものづくりを専門とする私が、プロデューサとして約3年以上伴走しているプロジェクトがあります。それが、静岡県掛川市にある板金工場・コプレックの「工場を、誇ろう。」プロジェクトです。

工場に関わる人はもちろん、工場を持たない人も、他業界の経営者や企業カルチャーを担う人に読んでいただけると嬉しいです。

「工場を、誇ろう。」プロジェクトとは

コプレックは精密板金加工を得意とする、創業67年、従業員約70名の板金工場で、代表の小林さんは親から継いだ3代目の社長です。

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この活動の最終目的は、コプレック一社ではなく、「ものをつくる人のプライドを高め、掛川から製造業全体の地位をポジティブに上げていく」という、産業業界の変革にあります。これは、コプレック社長の小林さんのある想いからスタートしました。

「働くひとの人生の大半を過ごす工場が、こんなに暗くてよいのだろうか?」

これを聞いた時、衝撃を受けたことを今でもよく覚えています。日本のものづくりを支えてきた工場が、なぜかオフィスワークと比べて価値が軽く扱われているのではないか、工場の人たちへの扱いのひどさや地位の低さを、小林さんはずっと課題に感じていました。いつの間にか当たり前になってしまっているこの状況を、何とか変えていくことはできないだろうか…。

もともとはWebサイトリニューアルの相談をいただいて始まった関係から、産業のスタンダードを更新していくプロジェクトへと大きく変わっていきました。

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本プロジェクトは徐々に広まり、日経BtoBクロストレンドマーケティング大賞の初代大賞・GOOD DESIGN賞2024を受賞したり、さまざまなメディアに取り上げていただくことで、世間からの追い風を受け始めています。

ここで特筆したいのが、日経のアワードでは社内に対するBtoBという観点を評価されたこと、GOOD DESIGN賞では空間デザインやプロダクト単体ではなく、「活動」カテゴリで受賞したことです。

3 右がコプレック代表・小林さん

GOOD DESIGN賞 受賞ページ

小林さんは約十年以上、コツコツと改善と継続を繰り返し、活動を積み上げてきました。コプレックの工場には、小林さんの想いが隅々に行き渡っています。

4 全社員支給の骨伝導イヤホンとipadでのコミュニケーション

5 業務に関係のないことでも自由に使って良いファブリケーション機材

6 本格的なマシンの揃った社内ジム

7 ランチや昼寝、BBQができる屋上スペース

何より、コプレックの工場は驚くほど整理整頓が行き届いており、常に綺麗な状態が保たれています。

8 隅々まで清掃が行き届いた工場。毎日20分の環境整備により、常に自分たちが働く環境のアップデートがなされている

9 自作の収納スペース。ファブリケーション機材で自主的に制作されたもの

10 清掃用の窓のナンバリング。実は階段にも一段ずつナンバリングしてある

コプレックがずっと大事にしている価値観として、
・誰がきても絶句される工場にする
・家族や恋人がきても恥ずかしくない工場にする

ということです。

これは会社主体ではなく、働く人それぞれが自分たちのものさしで、主体的に行動することができる点が魅力的なのではないかと思います。

コプレックの環境改善の指針には、身体的な快適さや効率化アップの側面だけではなく、必ず働く人が楽しく仕事できるか、仕事に誇りを持てるか、という観点があります。これがそれぞれの主体性を引き出し、自然と働く環境の改善がなされ、効率も上がり、モチベーションが上がることで仕事の質も上がり、結果的に会社の利益につながっていくという好循環が生まれます。

代表の小林さんはどんな時も、社員がどんな時に嬉しいと思うか、やる気が出るか、誇りを持てるか、常に働く人の心にフォーカスしています。

「状態」のコーポレートビジョン

そんな小林さんの想いをストレートに表現した「工場を、誇ろう。」というコーポレートビジョン。このビジョンは、「誇ろう」という「状態(being)」を示しています。

工場で働く人が、作る人が、どんな状態であるか、その人の心のあり方を一番大切にしている会社でないと、このようなビジョンは設定できません。コプレックでなければ、小林さんでなければ設定できなかった、強く太い言葉です。

図1

「誇れる工場」のデザイン

このビジョンを体現する工場空間をデザインしました。元々コプレックにあった整理整頓の文化を生かし、「色の整頓」を行いました。

またデザインシステムを構築し、他の企業も真似したりアップデートできるように、一冊のガイドライン(YELLOW BOOK)としてまとめて、共感してくれた方々に配布しています。

12 デザインシステム

13 工場空間の色の整理整頓

IMG 4099 出来上がった新工場

15 デザインガイドライン・YELLOW BOOK

働く社員は「ブルー」とし、ユニフォームや名刺、社員の羅針盤となるような社員手帳・BLUE BOOKは、全てブルーで表現しました。

これらは全て、「持っている人がかっこよくて持ち運びたいと思えるか」「働く人の仕事のかっこよさが、背中から伝わるか」「つい人に渡したいと思いたくなる名刺か」、そんなことを考えてデザインをしました。

16 社員手帳・BLUE BOOK

17 新ユニフォーム

また、「WHAT'S YOUR PRIDE?」をテーマとした、働く人の誇りにフォーカスしたコーポレートムービーも制作しました。

これらの活動を全て行った上で、当初依頼を受けていたwebサイトのリニューアルを行いました。これは海外の著名なアワード・AwwwardsでHonorable Mentionを受賞しています。

COPREC(Awwwards受賞ページ)

働く人の人生は、会社の「外」にもある

わたしたちが伴走しているのはここ数年の話であり、小林さんは10年以上、工場の環境を良くしていくための取り組みを続けてきました。それが会社のカルチャーとして浸透しているからこそ、デザインという形でらしさを表出することができ、本質的なところが世の中に徐々に届き始めているという実感があります。

小林さんとお話をしていてよく感じることは、働く人の仕事以外の時間について、働く人の周辺にいる家族や友達など大切な人について考えることが、いかに重要かということです。

思えば、自分が「誇らしいな」「嬉しいな」と感じられるのは、家族や友達、大切な人に仕事の話をして、かっこいいねと言われたり、褒められたりするときではないでしょうか。

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例えばユニフォームをデザインする際は、「これだったら会社からそのまま友達とご飯に行けるよね」「家を出る時に家族からかっこいいと思ってもらえるんじゃないか」など、そんなことを話し合いながら制作をしました。地元のメディアに取り上げていただく際も「これを見たらきっとご家族や親族が喜ぶよね」とそんな会話をしていました。

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仕事は、その人の人生の多くの時間を費やすものであり、職場はその人が人生で多くを過ごす場所であると言えます。だからこそ会社は「その人の人生を彩るためには、何ができるか」を考えることが大切であると、活動を通じて小林さんから教わりました。

人のやる気がわく瞬間、嬉しいと感じる瞬間、誇りに思う瞬間など、目には見えません。目に見えないからこそ、自分ならどう感じるか、こういうシチュエーションだとどう思うか、その人の仕事以外の「生活」のことまで考え、そして小さな取り組みの積み重ねを行うことで、初めて会社の文化として根付いていきます。

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ユニフォームに袖を通すとき、
作業着のまま帰宅するとき、
人前に出るとき、
友達と仕事の話をするとき、
家族に行ってきますと言って家を出るとき。

どんな瞬間も、働く人のプライドに、仕事や会社は関わっています。
そこにいる自分や作っているものがかっこいいと思える、好きだと思える、誇りを持って仕事に取り組むことができる。

それが、人が最大の資本である会社にとって一番大切な要素ではないでしょうか。

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製造業ってかっこいいと言われる社会を目指して。
コプレックは一製造企業の枠を超えて、
工場で働くひとの誇りを製造する企業でありたい。

コプレック 工場を、誇ろう。


コプレックがつくっているのは、板金製品だけではありません。
工場で働く人の暮らし、誇らしいという気持ち、世の中の動き始めたムーブメントもつくっています。

工場で働く全ての人が、工場で働いていると、胸を張って言えるように。
次世代のスタンダードをつくるこの活動の本質は、常に主語を働く人や働く人の家族として、徹底的にその人の「心」に寄り添っている点にあります。
これは工場だけの話では決してなく、他の業界においても同様のことが考えられるのではないでしょうか。

ぜひプロジェクトに共感してくれた人は、一緒に業界を変える変革者として飛び込んできてくれると嬉しいです。

まとめ

以下の記事も併せてご覧ください。

COPREC ウェブサイト

https://www.coprec.co.jp/


▼日経BtoBクロストレンドマーケティング大賞

『日経BtoBクロストレンドマーケティング大賞』 プレゼンテーション


▼日経X TREND記事

静岡の町工場に学ぶ「リブランディング」成功法則 求職者3.5倍の裏側


▼Podcast『Project Design Room』(小林さん出演)

「工場を誇ろう」掛川から製造業を更新する<プロジェクトの秘訣を探る Project Design Room>


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