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2022.07.28
コラム | 地財探訪
伝統鋳物「南部鉄器」を知財文献から紐解いてみた【地財探訪 No.4】
本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)
(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)
例えば昭和時代に出願された特許等の情報には、職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、数百年の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。
地財探訪第4弾は岩手県「南部鉄器(なんぶてっき)」。
歴史を振り返りながら、釜師による職人技術を知財文献からも拝見していく。(過去のコラム:第1弾 青森県「津軽塗」、第2弾 沖縄県「琉球びんがた」、第3弾 秋田県「大館曲げわっぱ」)
01 南部鉄器の概要
「南部鉄器」とは、岩手県の盛岡市・奥州市にて作られる鉄鋳物の総称であり、そのルーツは2通りある。盛岡の鉄器は、17世紀始めに京都から招いた釜師らによって武器や茶釜が作られたことが始まりとされる。一方、奥州の鉄器は、平安時代末期に藤原清衡が鉄器職人を招いて武具等を作らせたことが始まりとされる。
明治時代には、後の大正天皇が南部鉄器の制作現場を訪れたことをきっかけとし、全国的にその存在が知られることとなった。
代表的な南部鉄器として鉄瓶がある。職人によって様々な形状に施される「アラレ」と呼ばれる紋様が特徴的。把持部分である鉉(つる)にも職人技術が詰まっており、例えばその曲線によって鉄瓶全体としての優美な調和を実現している。
水沢鋳物工業協同組合 HP より引用
南部鉄器には、鉄瓶の他にも、フライパン、急須、鍋、風鈴等の製品があり、多くの工房にて今も新たな製品が生み出されている。近年では海外における人気が増しており、名実ともに日本を代表する工芸品と言えよう。
なお、「南部鉄器」は経済産業大臣指定の伝統的工芸品として昭和50年2月17日に指定されており、2008年には地域団体商標としても登録されている。(商標登録第5102662号)
02 南部鉄器の特徴
南部鉄器で沸かしたお湯は鉄分が豊富
手入れをすれば何世代にも渡って愛用可能
その意匠性により鉄が柔らかに魅せられ、質実剛健さも兼ね備える
商標登録第5102662号 南部鉄器(なんぶてっき)特許庁 HP より
03 知財出願情報からみる南部鉄器
特開平06-254667:鋳物内面の被覆層形成方法
出願日:1993.1.27 出願人:岩手県、株式会社ペン岩手工場 J-PlatPat リンク
特開平6-254667
こちらは南部鉄器に限らず、鋳物を鋳造する一般的工程が示された図面である。鋳型3と中子2の隙間に溶湯(溶けた鉄等)を流し込み、その後冷えて固まった後に離型するというものである。
実公昭62-14996:電磁調理器用タコ焼き鍋
出願日:1984.2.2 考案者:及川 源悦郎 氏 J-PlatPat リンク
実公昭62-14996
及源鋳造株式会社4代目社長である及川源悦郎氏による、たこ焼き鍋に関する考案である。今も販売されている商品と同様のデザインが図面に示されている。タコ焼き孔1と接触部面3の裏側面に熱伝導壁4を設けることで、最小限の接触面により最も熱効果の良い構造であるとのこと。
<参考>
たこ焼角形16穴 OIGEN(オイゲン)の公式オンラインショップ -愉しむをたのしむ
実全平1-31040:焼き棒可変の肉焼き器
出願日:1987.8.19 考案者:及川 源悦郎 氏 J-PlatPat リンク
実全平1-31040
こちらも及川氏による考案であり、断面が三角形の焼き棒1を移動・回転可能とすることにより、平板状・網状・突端状等に置き換えることができる肉焼き器である。伝統的な鉄瓶以外にも種々の商品開発を検討されていたことがわかる。
意匠登録第1163892号:両手なべ
出願日:2001.12.28 創作者:柳 宗理 氏 J-PlatPat リンク
意匠登録第1163892号
こちらは「バタフライスツール」などで知られるプロダクトデザイナー柳宗理氏による意匠登録である。南部鉄器にて両手鍋をデザインしている。
意匠登録第1171110号:かま
出願日:2002.7.9 創作者:岩清水 晃 氏 J-PlatPat リンク
意匠登録第1171110号
2022年に創業120周年を迎える株式会社岩鋳による、炊飯釜についての意匠登録。現在も購入可能であり、アウトドアシーンにおいても大活躍しそうな一品である。
<参考>
ご飯鍋 3合炊 台所用品 IWACHU Online Shop
特許第6292992号:鍋
出願日:2014.6.18 権利者:及源鋳造株式会社 J-PlatPat リンク
特許第6292992号
本発明は、通気孔21を有する鍋に関するものである。当接部20がガスコンロKのセンサSに接触しつつ、その周囲に通気孔21を設けている。パン焼き用の鍋を想定しているが、しゃぶしゃぶ用などの多用途にも使用できる。
<参考>
タミパンクラシック OIGEN(オイゲン)の公式オンラインショップ -愉しむをたのしむ
意匠登録第1576470号:湯沸かし器
出願日:2016.9.27 権利者:株式会社及富 J-PlatPat リンク
意匠登録第1576470号
株式会社及富による、突起部を有する湯沸かし器についての意匠登録。突起部によって、湯沸かし器を揺動可能に台座へ載置することができるという創作である。
特許第6633509号:中空部を有する鋳造製品
出願日:2016.12.28 権利者:株式会社及富 J-PlatPat リンク
特許第6633509号
株式会社及富による発明。内表面にレリーフ模様14c等を有する一方、外表面にはその模様に追随した形状が表れないという内容の特許である。本発明により、軽量化しつつも強度や耐熱性を有し、外観の意匠性を損なわない鋳造製品の製造が実現される。
04 特許情報からみる南部鉄器の周辺技術
最後に、鋳物/鋳造に関して大学から出願された発明を紹介する。いずれも最先端の研究成果が活用され、よりよい鋳造を実現するものである。
【島根大学】特開2020-185573:自動材料選択装置及び自動材料選択プログラム
特開2020-185573
予め用意した学習済モデルに基づいて、鋳造時の溶解物についての物性値を予測するという内容である。島根大学白井助教とオーエム金属工業によって発明された。本発明により、目標物性値の組み合わせの検討が可能となるだけでなく、条件を充足させるための添加剤等の追加材料を自動選択することが可能となる。
<参考>
白井匡人 助教とオーエム金属工業(松江市)の共同研究成果が日刊工業新聞へ掲載されました|国立大学法人島根大学
【山梨大学】特開2020-52129:注湯のシミュレータ及び注湯のトレーニング方法
特開2020-52129
山梨大学野田教授による発明。注湯の技能を安全かつ効率的にトレーニングするためのシミュレータについての発明である。例えば約1,500℃にもなる鉄を鋳型へ流す注湯作業は非常に危険であり、未熟者による注湯は製品の不良率向上にも繋がってしまう。そこで本発明は、ハンドル1のトルク情報等に基づく仮想液体の軌跡を示す表示23等をモニター20に表示することで、注湯のシミュレーションを行えることとした。
<参考>
山梨大学工学部機械工学科 動的システムデザイン研究室(野田研究室)
【あとがき】南部鉄器を紐解いてみて
岩手を代表する工芸品「南部鉄器」について、その歴史を学びながら知財権の情報を調べてみました。質実剛健であり且つ柔らかさも備える南部鉄器に魅了されつつ、パン焼き用の鍋(特許第6292992号)や、外観の意匠性を損なわずに内表面のみ模様等を施す技術(特許第6633509号)が印象的でした。数百年もの歴史がある伝統的工芸品に関し、新たな視点が掛け合わされることで新製品開発&特許化に至る、という素晴らしい事例かと思います。
伝統的工芸品は、その機能的価値だけでなく、歴史を通じた情緒的な価値がある唯一無二のもの。それは、その地域や日本にとって代替できぬ「地財」であり、後世へと伝えていきたいものです。
参考情報
水沢鋳物工業協同組合|まいにち、鉄器。
南部鉄器協同組合
南部鉄器 鉉鍛冶 菊池 翔|明日への扉 by アットホーム
南部鉄器とは 岩手が世界に誇る、鉄鋳物の伝統|中川政七商店の読みもの
ライティング:知財ライターUchida
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