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2026.06.22

idea Landscape

AIは5万回ボケてくれる──カプコンが仕掛ける 「ワクワク」起点の知財デザイン

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知財×クリエイティブ×AIによるアイデア共創プラットフォーム「idea Landscape(アイディアランドスケープ)」は、2025年2月の前身「ideaflow(アイデアフロー)」の一般公開に先駆け、特許を保有する企業や大学を対象にベータ版の提供を行ってきた。本連載では、実際にidea Landscapeを活用している企業の担当者にインタビューを実施。導入前の課題からUI/UXの操作感、社内の変化、新規ビジネスへの期待感などを語っていただく。

第4回に登場するのは、株式会社カプコンの知財デザイナー・奥山幹樹さん。2023年には知財図鑑・編集長の荒井亮との対談記事「知財は企業のブランド価値を上げられる ― カプコンが目指す次世代型知財部のあり方」にも出演するなど、知財図鑑とは立ち上げ当初からの“盟友”だ。実はidea Landscapeは、奥山さんの「カプコン版・知財図鑑を社内につくりたい」という構想とも響き合いながら、開発のごく初期から伴走してもらった経緯がある。

「守りの知財部」から一歩踏み出し、知財を起点に社内の“ワクワク(熱狂)”をデザインする──。そんな独自の哲学を持つ奥山さんは、idea Landscapeをどのように使いこなしているのだろうか。

背景と課題

  • 「守り」中心の知財部には、社内に発想の“ワクワク”を生み出す仕組みがなかった

  • 特許情報が専門用語のままで、開発者や企画者には「読めない・伝わらない」状態だった

  • アイデア出しは個人の経験や発想力に依存し、発想にブレーキをかけていた

実践と効果

  • 特許の要約・翻訳をAIで内製化し、外注コストをかけずに知財コンテンツを社内へ蓄積

  • 5万件規模のアイデアを「気づきのきっかけ」として活用し、人間が発想・発明・出願へと展開

  • 他社・異分野との掛け合わせで新たなアイデアと出会いが生まれた

直接アイデアを出すよりも、社内に“ワクワクする空気感”をつくる

―あらためて、奥山さんの社内での役割を教えていただけますか。

奥山:知的財産部の部長をしています。部の中にはチームが4つあって、大きく2つの役割に分かれています。ひとつは、出願・調査・侵害対策といった、特許・商標・著作権の権利をしっかり守る、一般的な知財の仕事。もうひとつが、その“プラスアルファ”として、会社の成長のために知財で何ができるかを考えるチームです。これは数年前に立ち上げました。

肩書きは部長ですが、知財をどうデザインして未来社会をつくるか、そして世界中に“ワクワク”と"新たな知財"をつくるかの知財デザインを考えていて、「知財デザイナー」としての役割を担っています。

―“ワクワク”という言葉が、知財部の方から出てくるのが新鮮です。

奥山:そこが出発点なんですよ(笑)。僕の場合はまず「ワクワク」が中心軸にある。自分自身も楽しく仕事したい。世界中にワクワクする場をたくさん作りたい。カプコンのビジョンである「最高のコンテンツで世界中の人々を夢中にさせる企業」を達成するため、知的財産部として何ができるかを考えた時に、社員から直接的にアイデアを出すことに関与するより、社内に“ワクワクする空気感”をつくることで間接的に関与する方が大事だと思っている。ワクワクすることで自ずとアイデアを考え、そのアイデアを誰かに話して発展していく。そのようなきっかけをつくるのが知財をデザインする上で重要だと思っています。

―知財図鑑との出会いも、その文脈だったんですね。

奥山:そうなんです。知財図鑑を見たときに、めちゃくちゃワクワクしました。「知的財産業界に足りなかったのはこれだ!」と。「守り」を目的とする知的財産戦略に対して足りなかったものにようやく出会えた感覚でした。

それで「カプコン版の知財図鑑をつくりたい」と思って、ワクワクするコンテンツを社内のイントラサイトにどんどん載せはじめたんです。最初は知財図鑑風の記事をライターさんに発注していたんですが、「これ、AIでできるんじゃないか?」と考えていた矢先に、ideaflow / idea Landscapeの開発が進んでいった。だから僕にとっては、開発の初期から意見交換させて頂いていたツールなんです。

logoデータ PPZY2W9PI5H0L4D8 株式会社カプコンの知財デザイナー・奥山幹樹さん(©CAPCOM)

idea Landscapeは「ビジュアル大喜利」ができる

―idea Landscapeの具体的な使い方として、まず挙がるのは?

奥山:ひとつは「特許の要約・翻訳」ですね。最近はゲーム業界の特許を、自社だけでなく他社のものも含めて、要約させています。特許って、専門的な“特許用語”で書かれていて一般には読めない。だから一般用語に翻訳してあげないといけないんですが、それをidea flowでやって、翻訳した1本1本を記事としてイントラサイトに全部載せているんです。以前は社内で一般用語に翻訳したり、外注していたものが、今はidea flowで一発でできる。これはすごく大きなメリットでした。

―もうひとつの使い方が、アイデア創出ですね。

奥山:はい。ただ、AIが出したアイデアをそのまま実行したり権利化したりするわけではありません。あくまで、人がAIのアイデアを見て何かを感じ、気づきを得て、人がアイデアを考える──その“きっかけづくり”に使っていますね。5万件のidea Landscapeのマップの中から「ひとつの分野を選んで見てみよう」と、毎月テーマを決めながら眺めています。

nomic-capcom 260610 Nomic Atlas|数万件にのぼるテキストや画像データをマップ化し、類似性やクラスタ構造を視覚的に把握できるツール

―膨大なアイデアと、どのように向き合うんでしょう。

奥山:よく陥りがちなのが、1個のアイデアを真面目に読んで、そこから何かを考えようとすること。一つのアイデアや一つの特許に固執しすぎちゃうんですよね。そうじゃなくて、何でもないようなアイデアでもそのアイデアを要素分解して、その要素分解したものを自分の知識としてインプットし、それらを組み合わせて発想をするのが大事なんです。

たとえば、AIが「農業」のアイデアを出してくることがあります。「農業とゲームは関係ない」と思わずに、このアイデアを要素分解して農業じゃないアイデアを考えたっていい。それに、普段ゲーム業界が触れない「農業」をAIが考えてくれたことで、「農業とは何か」「農業の課題とは何か」「食事とは何か」「なぜ”食を囲む”というのか」と、どんどん“問い”が立てられる。問いと要素分解をしていくと、単に"農業ゲーム"のアイデアを思いつくだけでなく、「食とゲームって似てるんじゃないか?」「”食を囲む”ようにゲームも同じ空間でコミュニケーションをとるツールではないか」「食事しながらゲームができるように、コントローラーを持ったまま食べられるアイデアを考えよう!」などとつながって、気づきが人の感性を刺激するんです。

―「なんで?」を何度でも問える。若手の方にとっても、仮説検証のトレーニングになる感じがしますね。

奥山:人の発言に対して「なんで?なんで?なんで?」「それ必要?意味ある?」と何度も聞いたらムカつかれるし、否定された気持ちにもなるじゃないですか。でも、AIなら何度でも聞ける。「なんで」を繰り返すことで物事の本質が見えてくるし、人が気づきを得たことをAIに「もしかして、本質はこうなんじゃない?」聞くと、本質的に共通していることを返してくれるから、このAIとのやり取りが高揚感を生み、つまりワクワクをどんどん高めてくれるんですよ。

―出てくるアイデアがビジュアル(絵)なのもポイントだと感じます。

奥山:そう、ビジュアルで大喜利ができるんです(笑)。たとえば、フロントガラスのない変な車の絵が出てくる。「この絵は、破綻してるんじゃない?」と思ってしまうと勿体ない。ここで、「なんで車にはフロントガラスがあるんやろ?」「フロントガラスがない車だと何が起きるか」と問える。「虫が目に入る」「目が乾く」「じゃあ自動で目薬さしたらええやん」みたいなアイデアが、AIのボケに対して人がボケを被せるようにどんどん出てくる。人の常識や先入観を、AIが破ってくれるんです。

大阪では「アホ」って褒め言葉です。「アホやなあ」は「めっちゃ面白いこと言うやん」という意味。AIは、こっちがしんどくなるくらいボケてくる。お笑いと一緒で、ボケだけじゃ面白くなくって、ツッコミがいるから面白い。ツッコミがいることでボケを価値あるものにできる。だから人間の仕事は、その膨大なAIのボケに、いかにツッコむかなんです。

知財部の仕事を「誇れるもの」にしたい

―膨大なボケとツッコミを経て、それが発明や出願にもつながると。

奥山:人同士でアイデアを出し合うときも、アイデアに対して否定的な目線で見ないこと。また一つのアイデアに対してその時に真剣に議論せず次々にアイデアを披露した方が良い時がある。ある程度固まったアイデアに真剣に向き合うことで思考が狭くなるため、いくつか出たアイデアを要素分解しておくと、最後に「これとこれを組み合わせたら面白いアイデアになるんじゃない?」となります。idea Landscapeは、人の知的活動を活発化させる“ワクワク”を提供してくれているんです。

―もしかすると、関西の方のほうがAIとの付き合い方が上手いのかもしれませんね(笑)。奥山さん自身は、AIを使う前から同じようなことをやっていたとか?

奥山:そうなんですよ。AIが一般的になる前に僕がやっていたのはまさに大喜利でした。たとえば、「ハンバーガーガチャ」という思いつきのネーミングから各々アイデアを考えてみるとか。文字通り「ハンバーガーの種類をガチャで決めるアイデア」を思いつく人も多数いると思いますが、「具材をガチャで決めるハンバーガー」や「ガチャに外れればケチャップが噴き出して手がべちゃべちゃになるハンバーガー」など、これを3人に振れば、3通りのアイデア(ボケ)が返ってくる。そのアイデアを解釈してまた別のアイデア(ボケ)を被せていけば、6個、12個、36個⋯⋯と、最終的にはハンバーガーが全く関係ないアイデアへと広がっていく。やっていることは今と変わらないんですが、AIがあることで、その質量と効率が桁違いになった。ひとりで一生懸命ひねり出したら1個しか出ないアイデアが、一気に何百倍にも広がったんです。

―最後に、カプコン知財部の未来について。奥山さんはどんな絵を描いていますか。

奥山:僕は、知財部の仕事を「誇れるもの」にしたいです。知財部は直接的にはものづくりはしませんが、アイデアそのものを考えたり、ワクワクする場やアイデアが生まれる文化をつくっていける。知財部が、"知財"を通して社内の組織の“横”をつなぎ、経営との“縦”をつなぐハブになる。知財デザインをすることで、「守り」だけでなく知財デザインのエコシステムの中に守りと攻めがある、と考える機会を持てたのは本当に大きかった。

知財図鑑との出会いから、idea Landscapeが生まれ、今の動きがある。無駄なことはひとつもない。それらをいかに自分の栄養にして繋げてアイデアの化学反応を起こすか──。ここから先も「ワクワク」を起点に、いろんな人を巻き込んでいきたいですね。

聞き手:知財図鑑 編集部
※掲載内容は取材当時のものとなります


奥山 幹樹
株式会社カプコン 知財デザイナー
1979年大阪府生まれ。立命館大学理工学部ロボティクス学科卒。新卒で入社した製造メーカーで知財全般を担当。その後、株式会社カプコンにて特許を担当し、現職に至る。ワクワクを起点に知財の新たな価値の創造を目指す。
https://www.capcom.co.jp/

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