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2023.12.18

インタビュー | せきぐちあいみ

今こそ問う、メタバースとは何か? ─ VRアーティスト・せきぐちあいみが捉えている姿とその可能性

せきぐちさん

全世界で現実世界の活動が制限された数年間で、仮想空間「メタバース」の注目度が一気に高まった。リアルへの回帰が進む中で、それは下火になったと見る向きもある。だが、VRアーティストのせきぐちあいみ氏は、「まだこれから発展する」と語る。

彼女は、VR元年とされる2016年からVRでのアート活動を開始。17年には世界初のVR個展を開催している。21年には、Forbes JAPAN(フォーブスジャパン)の「影響力のある日本人トップ100」に選ばれ、現在は日本を含む世界10カ国で活躍。23年10月には、ドバイ文化庁主催のイベントで没入型ドーム「Al Wasl Plaza」にてライブペインティングのパフォーマンスを行うなど、活動の領域を大きく飛躍させている。せきぐち氏が捉えているメタバースとは。また、その魅力はどこにあるのか。アート活動や実体験を通じて見えた、現在のメタバースの姿とこれからの可能性について話を伺った。

これまでにない体験で、「人を別世界に連れていける」

―メタバースのお話に入る前に改めて、せきぐちさんがどのような活動をされているか、お伺いできますか。

せきぐち

私は、デジタル空間の中に3Dで360度に広がる絵を描くアーティストをしています。絵を鑑賞してもらうというよりは、その世界にみんなに来てもらって、一緒に体験してもらうことを大切にしています。とはいえ、今はまだみんなが仮想空間に入るのは難しい。なので、主にはライブペインティングという形でVRアートが出来上がっていく様子を見せて、疑似的な体験を届けています。

私をVRアート内に合成した2D動画も配信していて、1番見てもらう機会が多いのはそれですね。21年には初のNFTアート作品が約1,300万円で落札されましたが、これまで作品を販売する手段がなかなか見出せなかったデジタルアーティストにとってはとても大きな転機でした。

chizai interview 4 せきぐちあいみ/VRアーティスト。VR空間に3Dのアートを描くアーティストとして、世界10カ国で活躍中。

―ライブペインティングは世界的にも多くのプレイヤーがいますが、リアルタイムであそこまで書き込めるのは、せきぐちさん以外にあまり見かけないように感じます。

せきぐち

ありがとうございます。もちろんアートの尺度は多様にあって、素晴らしいパフォーマーがたくさんいらっしゃいますが、ありがたいことに世界中の方からお声をいただいています。元々、舞台やダンスパフォーマンスをしていたので、自分で構成を作ってそこにVRでの見せ方を加えています。振動を抑えるため、頭の軸はぶらさずに大きく動くとか、地味な練習を重ねて、数分で驚いてもらえるようなパフォーマンスに力を入れています。

見せ方は、プラットフォームやデバイス、メディアなどで変えています。例えば、ヘッドセットを装着して見る時と、SNSなどの2Dで見る時だと、大きさ・見える範囲や奥行きの感じ方が変わりますよね。カメラなどの位置、見る人の目線も違うので、そこも大事にしています。その辺りは想像しただけでは気づけない部分だと思っていて、これまで実際にいろいろと試して、知見をためてきた部分かなと感じています。

―活動の幅も広い印象です。パフォーマンスだけでなく、他にもいろんな取り組みをされていますよね。

せきぐち

そうですね、例えば、鳥取砂丘で行われたARによる月面体験イベント「月面極地探査実験A」に参画しています。眼鏡型のARデバイスを被ると、夜の鳥取砂丘に“2050年の未来の月面都市”が広がって、月面ミッションを体験できるというもので、そのCGコンテンツ制作を担当しました。21年11月から開始しましたが、コロナ禍ということもあり少人数での実証実験になってしまいました。ARでの取り組みはまたここから改めて広めていきたいと思っています。

ミラーワールド的なものとしては、神奈川県鎌倉市の「銭洗弁財天 宇賀福神社」をフォトグラメトリでVR空間に再現して、3Dアートを加えた展示を行いました。ソーシャルVRアプリ「VRChat」内に、龍 lileaさんとコラボして「Zeniarai Benzaiten Shrine」というワールドをつくり、その中に見えない神様を、私が3Dアートで描いています。単なる現実世界の再現だと現地に行けばいいということになるので、ミラーワールドにバーチャルの要素を足して構築しています。

※せきぐちさんが神様を描いたミラーワールドの銭洗弁財天

―せきぐちさんの活動の中心は、VRに入って体験するフルイマーシブな世界かと思いますが、ARによる拡張体験、SNSなどでのライトな展開、バーチャルに現実世界を再現するミラーワールドと、本当に活動の幅が広いですね。メタバース自体も広い概念ですが、せきぐちさんが考えるメタバースとは何ですか。

せきぐち

メタバースは、3D・2Dを問わず「デジタル上の空間すべて」を指すと思っています。2Dでは該当しないという意見もありますが、活用事例も多々あるので、それはそれでいいかと。それよりも、「人とつながる場所」という要素が大事かな。オフライン状態でつくったVR空間は、オンラインにつなげて開放して、みんなと一緒に同じ体験をできるようになると一気にメタバース感が出るんです。相互作用が起きる場所でもありますね。

ただ、言葉にはあまり依存しない方がいいとも思っています。VRやMR、メタバース周辺の技術・仕組みはシームレスに進化しているから、言葉もあっという間に無くなっていくかなと。Appleが発売予定のXRヘッドセット「Apple Vision Pro」では、意図的にメタバースという言葉を使っていませんよね。会議やプロジェクトを進める上では、定義が必要かもしれないですが、それに固執しない方がいいと思います。

加えて、コロナ禍でメタバースという言葉が飛び交って、少しオワコン感が出ましたよね。メディアやインターネット上での注目度が下がっただけですが、古いイメージを持つ言葉になってしまった。本当は、まだまだこれから発展する領域です。

―言葉やイメージではなく、本質的に捉える必要がありそうです。せきぐちさんは、メタバースのどの辺りに魅力を感じていますか。

せきぐち

魅力は何よりも、「人を別世界に連れていける」ことです。単に鑑賞してもらうのではなく、VRの世界で体感してもらいながら、感性や刺激を届けることができる。人の人生に新しい体験を与えられるなんて、すごく光栄なことです。それは平らな画面ではできないことで、ここにしかない魅力です。アートに関わらず、VRを含むメタバースの大きな可能性だと感じています。

可能性をより拡げるには、デバイスの進化・普及が欠かせないですね。ヘッドセットで言えば、外界から遮断してVRに完全没入するディスプレイや、現実世界にデジタル映像を重ねる透過型タイプ、カメラで外を撮影して映像化しデジタル映像と合わせるビデオシースルータイプがあります。ビデオシースルーはこれまで、カメラ画質が悪い・画像が遅延するなどでクオリティが低かったんですが、最近それも進化しています。先程のApple Vision Proは、ビデオシースルータイプでさらに画質のクオリティが上がり、現実とバーチャルの融合・シームレス化が進むと期待しています。

ただ、それも現時点ではまだ大きくて厚みがあり、発展途上だとは思います。さらに薄くなって、高い機能性を持ちながら眼鏡型になった時に、スマホ以上に爆発的に広まると思っています。姿勢を変えず、眼鏡デバイス越しに全機能を操作できたら最高じゃないですか。少し先の未来の暮らしとか、その辺りを想像するだけでも魅力的ですよね。

バーチャルとリアルを作用させつつ、敢えてつながない部分もつくる

ロシアせきぐちさん ロシアで開催された技能五輪でのせきぐちさんによるライブパフォーマンスの様子

―デバイスの話も出ましたが、ユーザーとして体験されていることも多いかと思います。使うサイドから見るメタバースは、どんな場所ですか?

せきぐち

まず1つは、落ち着いて制作できる場所です。私は今、ドバイや日本などいろんな国や地域を転々として活動しています。滞在するホテルも様々で、このホテルは落ち着けるけど、ここは落ち着かないなどがあります。そんな場合でも、VRに入ってしまえば、いつもの自分の場所で集中できる空間に行ける。異なる環境に行っても、同じVR空間で制作できるのは大きいです。

ソーシャルVRとか、みんなで会う際は、楽しく集まれる空間でしょうか。バーチャルなので、何も無い空間で会っても同じように話せるんですけど、カフェとかバーっぽいところとか、気分が盛り上がる場所に行きますね。女性数人で集まることが多くて、お酒を飲めない率が高いのに、バーチャルではあえて3Dのビールジョッキが出てくるバーに行って、みんなでそれを持って写真撮ったりもします。リアルではお酒飲まないのに面白いですよね。そこで真面目な会議をする人は少ないかもしれないですが、みんなで集まって一緒にいろんな気分を楽しめる場所だと思います。

―メタバースでの接客体験については、どのように見ていますか?

せきぐち

バーチャル店舗を出しているアパレルやスナックなどを体験しましたが、接客については今、全体的に探っている部分という印象です。店員さんが中の人として入っているパターンもあれば、AIでどうにかできないかを模索しているところもあって、多分まだ答えが出ていない気がしています。試しに入った感触では、コミュニケーションが長いスナックとかになると、現段階の私たちは人間の方がいいと感じると思います。ただ、AIの設定が作りこまれてキャラクターが確立されれば、AIでも人気が集まるのかもしれないですね。

―確かに、AIの進化や活用の方向性でも変わっていきそうですね。メタバースで買うものや、今マーケットが出来ていると感じるものは?

せきぐち

今は圧倒的に、3Dデータ・コンテンツが売れています。例えば、アバター系の3Dの持ち物ですね。それで生計を立てるクリエイターも誕生しています。販売イベントとかも開催されていて、私も購入することがあります。

NFTは2021年頃から急激に熱を帯びて、高額アートや投機的な印象がついてやや下火感が出ていますが、それは早すぎただけで、一時期の熱で終わるようなものではないと考えています。これからは、デバイスの進化や普及に伴って、みんながデジタルの中に空間やもう1つの人格を持つことが当たり前になっていく。そうした時に、唯一無二の価値や本物の証明が必要です。高額アートなどは残るにしても、今後は低価格なものもNFT化されて、もっとナチュラルな存在になっていくと思います。

懸念としては、マーケット活発化に伴う広告の増加が気になります。現実世界では広告が溢れていて、私たちも慣れすぎていますが、やっぱり不快なんですよね。京都とかパリでは景観を守るために広告を減らしていますが、そういう空間は目にも心にもいい。メタバース空間では、邪魔しない広告であってほしいです。

―メタバースと現実世界は、相互作用させる部分と分けて考えるべきところがありそうです。ユーザーとして、それぞれに何を求めていますか?

せきぐち

私の場合は全く別物です。メタバースでは、これまでにない新しい体験と、世界規模でのコミュニケーションを求めています。いろんなコンテンツがありますが未体験のものを選んで、誰かと一緒に行って体験しています。現実世界ではリアルでしか味わえないものを求めていて、例えば、自然豊かなところや石庭などに行って、心や肌で感じることを大事にしています。

それぞれに求めるものは違いますが、両方の良さを活かしたい。メタバースに限らず、AIなど様々なテクノロジーを取り入れながら現実世界を楽しむことで、人生を未来の暮らしをより豊かにできると思っています。

ライブペインティングのパフォーマンスにも、情緒や温もりのような、現実でしか得られないものを入れたいと考えて、試行錯誤しています。デジタル空間の中に、生身の動く自分が介入することで、閉じた空間が一気に広がる感があるんですよ。まだ実験中ですが、その辺りにもすごく可能性を感じています。

―現実世界にうまく作用させることで、メタバースはさらに領域を広げそうですね。

せきぐち

特に、医療・介護分野には可能性が広がっていると思います。障がいや高齢で身体に制限があって出かけられない人が、VRでいろんな場所に行ったり、一緒に走ったりできます。介護施設へ訪問した時に、あまり動けなくて外出が難しいおじいさんやおばあさんが、VR体験をすごく喜んでくれました。お金が生まれるとかではないかもしれないですが、疑似的にでも豊かな体験を提供できるし、人間にとって素晴らしいことかなと思っています。

新たな領域を生み出すために、挑戦し続ける

めたばせきぐちさん メタバース空間におけるせきぐちさんの作品

―Z世代とメタバースとの親和性については、どのように考えていますか?

せきぐち

Z世代が利用しているメタバースは、現時点ではゲームがメインだと思います。FortniteとかMMO(Massively Multiplayer Online)などのゲームですね。デバイスが高価ということもあり、VRChatなどにはあまりいない印象です。もちろん、その中で中学生や高校生に出会うこともありますが、Z世代が固まって根付いている場所は、まだゲームだけかと。ただゲームは、流行って収束するを繰り返していて、継続させる・居続けてもらうのが難しいと感じています。

一方で、単発で終わりそうなものでも、先々を見据えて取り組めば、ノウハウは得られます。例えば、この体験は意外とメタバースと合わないとか、このUI使いづらいとか。それはつくって見えてくることなので、短期的な効果になりそうでも、先行的に取り組むのはありだと思います。

別の話になりますが、Z世代では、デジタルデータがやり取りされることへの抵抗感がやわらぐかもしれないです。今の日本はデータ流用に敏感というか、プライバシーの保護意識が強いと感じます。ドバイはそこら中に監視カメラがあって全部管理されていますが、だからこそ治安がよくて、みんなが安心していられるんです。日本は安全な国だからかもしれませんが、監視カメラへの抵抗感も強い。Z世代が中心の社会では、データ管理されることが当たり前になって、そこに新たな世界が生まれるかもしれません。

―新たなメタバースを生み出す上で、必要な要素はありますか?

せきぐち

挑戦することでしょうか。これまで体験したメタバースの中で印象深いのは、新たな挑戦をしているものが多いですね。例えば、大学生がつくったメタバースで、犬がやってきて噛みつくんですけど、それと同時に、リアルで冷たい電極と熱い電極が身体に当たるんです。人間は冷たい・熱いを同時に感じると、痛みと錯覚するらしく、噛まれるタイミングでそれを体感する仕組みです。危ないという意見ももちろんありました。ただその中でわかることも多くて、活用できる範囲と、取り締まる部分が見えたりもする。危なすぎないチャレンジ要素はあっていいと思っています。

―せきぐちさんも積極的に新たな挑戦をされています。

せきぐち

そうですね、今年からドバイの滞在期間を延ばしつつ、日本やその他の国を転々とする生活をしています。日本の活動よりも他国に行く時間を増やしていて、それは生身の身体がどこにあっても、メタバースでつながれることを活かして生きてみたいと思ったことがきっかけです。正直、経済的に十分な状態ではなかったりしますが、アーティストなら挑戦していくことの方が大事だと思っています。

ドバイは特に、メタバースに限らず、テクノロジーを取り入れる意識が高いと感じます。Al Wasl Plaza もそうですが、VRアーティストとして活動しやすい環境があります。資金的な余裕もあると思いますが、ドバイは王族がリーダーシップをとっていることもあり、短期的な成果よりも、長期的な視点で社会・世界を見て、テクノロジーを取り入れる判断をしていると感じます。周囲が砂漠なので、地球環境への意識も高い。そういう未来を見据えた人たちと出会えると、一緒に未来を創るような素敵なことができます。もちろん日本を含め、世界中に未来を創っている人たちがいるので、これからもいろんな地を開拓していきたいですね。

どばいせきぐちさん せきぐちさんがパフォーマンスをしたドバイの世界最大のインタラクティブイマーシブドーム

せきぐちあいみさん各種リンク

公式サイト:https://aimimusou.com/

Twitter:https://twitter.com/sekiguchiaimi

instagram:https://www.instagram.com/vr_aimi

YouTube:https://www.youtube.com/user/aiminp

TEXT:Akira Sanbe / PHOTO:Adit

せきぐちあいみ

せきぐちあいみ

VRアーティスト

2016年からVR空間に3Dの絵を描くアーティストとして活動。アート制作やライブペイントオファーを世界各国から受ける。(USA,Saudi Arabia,Germany, France, Russia, UAE, Singapore, Thailand, and Malaysia.)VRアート体験を通じて人の想像力を解放することに生きる喜びを感じる。2021年3月NFTアートの初作品が約1300万円で落札され話題となる。2021年「Forbes Japan 100」に選出。

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