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2023.02.03
インタビュー | 山口 征浩×渡邊 信彦
XR(拡張現実技術)がもたらす人類の新たな可能性
「XR」という言葉は、VR(仮想現実)・ AR(拡張現実)・ MR(複合現実)の総称として、未来の社会を語る上で欠かせないキーワードのひとつとなった。このテクノロジーの本質を探求することは、バーチャルと融合する世界の行く末を大きく左右することになるだろう。
「人類の超能力を解放する」という刺激的なミッションのもとXRクリエイティブプラットフォームを展開する株式会社Psychic VR Labは、仮想空間の中に閉じたバーチャルメタバースではなく、現実世界をテクノロジーで拡張させる『リアルメタバース』を、多くのコンテンツホルダーとともに提唱してきた。
今回、現実とバーチャルが重なり合う世界の構築を目ざす同社CEOの山口征浩氏、COOの渡邊信彦氏の2人に、XRの本質について聞いてみた。
株式会社Psychic VR Lab 代表取締役CEO 山口征浩氏
コロナによって加速したバーチャル時代の変遷
―都市連動型コンテンツをはじめ、今年4月からデジタルハリウッドの共同開発のもと「XR(クロスリアリティ)専攻」が開講されました。官民問わずリアルとバーチャルを融合させるプロジェクトが立ち上がってきましたが、XRが世間に浸透してきた感覚はありますか?
山口
ようやくXRが社会の各所で受け入れられてきたと感じています。おそらく背景としては3点あって、まずはコロナ禍を経ていよいよ人が街に戻ってくる中で、「集まる場所」としてXRを活用し、より豊かな体験を提供しようという流れができたこと。次に、ハードウェアが非常に進化して体験しやすくなったこと。そしてさらに、XRの作り手そのものが熟成されてきているということ。最近はXRを具体的に利用する方法や、企業内にXRのチームを組成するといった具体的な話が増えているように感じます。
―御社はどのような思いで、リアルメタバースの開発を手がけられているのでしょうか?
山口
誰もが当たり前に「空間を身にまとう」時代を作りたいと考えています。例えば「ウォークマン」は街中で音楽を身につけるスタイルを、iPhoneはインターネットを身につけるスタイルを作りました。このようなプロダクトは人々のライフスタイルを変え、新しい習慣や方法を作ったと言えますし、XRでも同じことができると考えています。さまざまなクリエイターがXRというキャンバスを通して新しい世界を作っていくことが実現できれば、彼らの感性や表現力をもっと開放できると思っています。
―具体的にはどのようなビジネスモデルで、どの分野に注力されていますでしょうか?
山口
弊社ではXRのクリエイティブプラットフォームである「STYLY(スタイリー)」を通して、インフラとなる各XRデバイスへの配信から、制作に必要なツールの提供や都市における施設や場所のプラットフォーム環境、それを使う人たちを増やす教育、XR施策の企画から制作まで、すべての階層を提供する事業モデルをとっています。垂直に事業を展開しているのは、今までにない新たな市場が生まれる中で、新たな価値を自ら創造し社会に提供するためです。現在は都市連携プラットフォームの強化を行い、地域の活性化に多く利用していただいております。
株式会社Psychic VR Lab 取締役COO 渡邊信彦氏
―仮想空間といえば渡邊さんが関わっていた「セカンドライフ」が思い起こされますが、2007年頃から振り返るとどのような変化がありますか?
渡邊
デバイス面での変化はあったと思います。「セカンドライフ」ではブロックチェーンはまだなかったのですが、「リンデンドル」という独自通貨があり、リンデンドルで土地の売買ができたり、株式市場もありました。会社の登記や今でいうDAO(自立型分散組織)のようなものをワールド内限定で作ることができましたし、今ではスマートコントラクトで実現しているような著作権の処理もできました。もちろんブロックチェーンは無かったので、その所有権はゲーム内限りでしたが、所有したり売買したり、今のところユーザの体験するコンテンツは大きく変わっておらず、最大の変化と言えるのは、やはりヘッドマウント型のディスプレイが小型化して普及したことだと思います。
―その変遷を踏まえた「STYLY」での体験について、詳しく教えてください。
渡邊
2016年頃、iPhoneで撮影した動画をアプリで簡単に編集してアップすることがより簡単になってきた頃でした。その頃は、VRやMRの世界はまだ一般化しておらず、3D作品を公開するにはサーバーを設定したり、様々なデバイスに対応させる必要がありました。そこでVR、MR、ARなどを一元的に管理し、誰もが空間を構築し配信できるような未来を「空間を身にまとう時代」をつくるというコンセプトで立ち上げたのがクリエイティブプラットフォームである「STYLY」です。まだ日常的に使えるデバイスやスマートグラスが出ていませんでしたが、将来的にはアニメ『電脳コイル』の世界で描かれたようなメガネ型デバイスの利用を想定していました。
空間を身にまとい、新しい世界を創造する
「STYLY」イメージ
―現在「STYLY」ではどのような施策を実施されていますか?
渡邊
昨年末に渋谷スクランブル交差点を舞台にリアルメタバースをインストールし、『BOSO TOKYO』『NEO TOKYO PUNKS』『キズナアイ』関連コンテンツとのコラボ企画を実施しました。都市にコンテンツレイヤーをインストールする事例は首都圏だけでなく、熊本、新潟、つくばなど多くの都市で実現しています。そうした企画を実施する上で最も重要だと考えているのが、魅力的なコンテンツかどうかという点、そしてそのコンテンツが持続的に追加改変されていくかどうかということです。一気に熱量の高いコンテンツで、「そこでしか体験できないこと」を提供することで、街に人流を生むことができます。そのコンテンツは地元でメンテできる自由度が必要で、それをつかさどるのがSTYLYなんです。
―自治体や行政との共創事例について聞かせてください。
渡邊
プロや業者がつくったコンテンツだけで人を呼ぶというわけではなく、私たちは「地域のコンテンツはみんなで作ることに意義がある」というスタンスで、XRスクールを地域で開講し、商店街の人や学校の先生や生徒と一緒にXR空間を作っています。新潟では地元のクリエイターたちを巻き込んだり、熊本では高校生がDAOを作り始めたり、その中でさまざまな挑戦がはじまっています。XRの仕組みを使って新しい価値や情報を仮想化させ、そのコミュニティが「自走してXRを使える状態にする」ことも私たちの役割だと考えています。
―現実とテクノロジーの溶け合う状態が、ひとつのモデルケースとして機能するかもしれませんね。
渡邊
そうですね。人々がXRにどのように没入するかを考える上で、ストーリーやワールド建築の技術が必要になります。そこで、実験的な精神で開拓する次世代のアーティストを発掘・育成するためにPARCO、Loftwork、弊社の3社で行っているのが「NEWVIEW(ニュービュー)」というプロジェクトです。
リアルメタバースにおいてリアルな空間に私たちが公開するオフィシャルな空間レイヤーを「METADIMENSIONS(メタディメンションズ)」というブランドで展開しています。バーチャルメタバースでは現実とは別の仮想世界に行くことで体験をつくっていましたが、リアルメタバースでは仮想なオブジェクトを現実世界に重ね合わせる必要があります。つまり、リアルな建物の上に壁紙のように絵柄を重ね合わせて風景を変えたり、好きなブランドで彩られた空間を身にまとって、新しい生活体験を作ったりすることができます。
「NEWVIEW」イメージ
―こうした技術は将来的にどういった体験に進化していくのでしょうか?
渡邊
いずれスマートグラスにもスマホ同様の機能が搭載され、空間をメディア化した日常生活を送ることが可能になると思います。例えば「昨日置いたカギの場所」がわからなくなったり、「待ち合わせに持っていく持ち物」を所持し忘れたときに、スマートグラスがアラートしてくれたりするかもしれません。視力や視界から得られる情報をすべて記録・解析するAIを活かせば、人間が今までできなかった体験を感じさせてくれると思います。そのように人間の能力を拡張することで、記憶力だけでは限りがあることも補完できるようになるでしょう。
新時代は、数百万の世界が並行して創造される
―改めて、未来のバーチャル空間はどのような体験になると思われますか?
山口
私たちは、体験を3つのレイヤーで整理しています。最初のレイヤーは、表現者が作り、使い手に届けるというものです。STYLYというツールを提供して様々なアーティストに使っていただき、ユーザーが表現者の作品を体験できます。次に、ユーザーが主体的に周りの空間を変えるレイヤーです。音楽やARフィルターを使って、自分が見る景色を誰もが自由に変えることができます。最後は拡張のレイヤーです。リアルメタバースから情報を得たり、自分のアバターを操作することで自分の能力そのものを拡張することができます。
―XRで得られる体験の本質とは、どのようにお考えでしょうか?
山口
XRを使うことでその人の世界が変わること、ですね。XRでは臨場感を伴って空を飛ぶこともできますが、これは本質ではないと考えています。そのような経験を通して、人々が自分自身や他人との向き合い方、能力を拡張することを私は期待しています。デバイスが進化することで想像もつかないようなものが生み出されると思っていますが、そのような世界を作るのはもっと若い人たちの仕事です。私たちはプラットフォームを提供する会社として、クリエイターの創造する力をサポートすることを目的としています。STYLY上で、アーティストやクリエイター、ビジネスマンが新たなユースケースや価値を創造することを望んでいます。
―今後、どのような方々と共創していきたいとお考えですか?
山口
リアルな場所での体験を拡大するために、不動産デベロッパーや商業施設との連携強化を検討しています。最新のデバイスは従来よりも高い体験を提供できるようになりました。今までスマホで数分間のコンテンツを楽しんでいた状態に対して、今後は、現実とバーチャルが重なり合った数時間の体験ができるようになっていくでしょう。また、昨年は私達の実施するファッション/カルチャー/アート分野のXRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS」のテーマを「Create a Melting Reality(溶け合う現実を創造せよ)」に設定し、リアルメタバースで実現される未来のあり方をクリエイターたちとともに考えました。
―最後に、山口さんご自身が体験してみたい世界を教えていただけますか?
山口
現在、メタバースという言葉で表現される新たな世界創造のムーブメントが、XRのみならずWeb3を含めた異なるディメンション(次元)で同時に起きていると捉えています。テクノロジーの進化だけでなく社会システムの整備にも後押しされ、このムーブメントは更に加速するものだと思います。私たちは事業を通して、"空間を身にまとう時代"を自身の手でつくりあげて新たな価値を創造し、社会に提供していきたいと思います。
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METADIMENSIONS
Interview&text:荒井 亮 Photo:松岡真吾