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2026.03.27

インタビュー | 加藤 優

AIが届かない領域─【AIの余白と人類の進化】 vol.03

aiai Banner vol.3 260310

人類と人工知能がともに迎える「良いシンギュラリティ」の実現をめざす「ai-ai〈アイアイ〉」は、「Good Singularity(良い技術的特異点)」を迎えるためのリサーチとして連載企画「AIの余白と人類の進化」を始めます。

人工知能の余白と人類の進化を模索する――ai-ai は、人工知能と共に良いシンギュラリティを迎えるため、生成AI領域に特化した専門チームとして設立されました。
本企画では、人工知能の余白と人類の進化について、新しい視点を提案・実践している若手研究者やアーティスト、デザイナーの知見を借りることで、AIの異なる可能性やその実践のあり方を探ります。

第3回目のゲストは、テクノロジーによる手触りのあるものづくりを追求するエンジニア/クリエイターであり株式会社dot-hzm 代表取締役の加藤優さん。聞き手はai-aiチームより、Konel CTO / テクニカルディレクターの荻野靖洋と永田一樹が務めます。

AIとの出会い

──はじめに、加藤さんがどんな活動をされているのかお伺いできますか。

加藤

今はdot-hzm(ドットヒズミ)という会社の代表取締役をやっています。大学1年生からプログラミングを始め、最初はスタートアップでソフトウェア開発に従事していました。しかし次第に技術を早く正確に使うことよりも、技術をどう面白く使うかという「幅」のほうに興味がでてきました。

2Q9A3841 2 加藤優|株式会社dot-hzm 代表取締役。東京都出身。大学在学中よりスタートアップから上場企業までソフトウェアエンジニアとして新規事業に携わる。建築設計事務所でのリノベーション設計・AIシステム開発、ファッションスクール coconogaccoを経て、2024年にデザインスタジオ dot-hzm を創業。2025年、ロンドン・コベントガーデンにて作品を発表。GOOD DESIGN NEW HOPE AWARD、Tech Direction Award、未踏スーパークリエータなど受賞多数。

加藤

ちょうどそのタイミングでAIで生成した絵画がオークションで落札されたというニュースを目にしたんです。それまで、AIは画像認識などの実用的な使い方がメインだと認識していたんですが、人間とは全く異なるアプローチで作品が生み出される点に、面白さと幅を感じて。そこからAIについて勉強するようになりました。この時メインだった技術が、GAN(敵対的生成ネットワーク)と呼ばれるもので、僕のルーツですね。もはや懐かしいけど(笑)。

そうしてAIに触り始め、大学院に入って最初に作ったのが、「まちに擬態したいAI」というプロジェクトです。2022年の10月に発表したもので、ChatGPTはないけど、MidjourneyやStable Diffusionが出たぐらいのタイミングですね。対話モデルはまだ精度は高くないけど、なんとなく返答してくれる、ぐらいのタイミングでした。

まちに擬態したいAI 《まちに擬態したいAI》

加藤

このプロジェクトでは、まだ限られた場所にしかないAIがまちに置かれていた時、人間がどういう反応をするか、どういうコミュニケーションを取るのか、ということを実験しました。

賢く全部を知っているAIではなく、何も知らないAIがそのまちらしさを聞き、コミュニケーションを取ることで、まちついてAIが学び段々と馴染んでいくという設計です。墨田区の京島にある空き地にこのAIを置いたので、全然AIなどを知らない人たちが多く、興味深いコミュニケーショが生まれていました。このAIは1ヶ月間置き続けました。

──1ヶ月間、長いですね。どのように運用していたんでしょうか?

加藤

雨の日はパラソルみたいなのをつけながら、自分たちも一緒に一ヶ月間を過ごしました。ほぼ張り込みですね。このフォルムについても、全部まちの人とコミュニケーションしながら集めていくっていうプロセスを経ていて。そのまちに「まちに擬態したいAI」を置く、というプロジェクトでした。

AIの発展と不確実性

加藤

このプロジェクトの後から急激にAIの精度があがり、AIについて考え直すようになりました。触りはじめた当初は、完璧なものが出力されないことによる「歪さ」に惹かれていて。一方で精度が上がり完璧に近いものを出してくるAIに、自身の向き合おうとしていたAIへの認識が崩れていく感覚がありました。

そこで、AIだけでなくそこに新しく何かを掛け合わせたいと考えるようになりました。「AIでやったら絶対面白いね」というものよりも「AIを組み合わせたらどうなるんだろう?」という興味ですね。

──確かに今の発展したAIは、かつてのAIとは全く別物ですね。

加藤

正直、AIが大学院の2年間でここまで変化するとは思いませんでした。しかし精度が上がってきていることへの感動はあるものの、枠組みごと変わったなとは思えなくて。自分は今のAIを「つるっとしてる」と感じているんですが、本当はもっとザラザラしてる手触り感のあるものが好きで。ノイズでよくわかんないし歪で理解できないけど、とりあえず出ちゃっているしどうしよう、みたいな(笑)。

そうした不確実性や未知なるものとしてのAIが好きだったから、まだそれが残っている領域を目指しているのだと思います。テクノロジーが浸透していない分野に身を置けば、もっとAIを面白く思えるんじゃないかと。

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──面白いですね。AIがまだ届いていない領域で、AIの不確実性を楽しむという。

加藤

画面の中で成立し完結するものであれば、今のAIは一定のレベルを出力できます。でも不確実性のあるもの、例えば粘土や刺繍の糸などのマテリアルと絡めると、AI側がいくら完璧であっても出来上がるのは予想できないものになるんですね。

インプットをAI的な形にして、アウトプットを不確実性のあるものにするか、それともインプットを不確実性のあるものにしてAIを使うか。そうするとまだまだ面白いものが出てきます。一方で、どちらもAIっぽいものを使ってしまうと、あんまり楽しくないなと感じてしまいます。

AIを悩ませる

──とても興味深いです。具体的なプロダクトなどはあるんでしょうか?

加藤

2022年から服のアップサイクルとしてAIがデザインした服を買える、というプロジェクトをやっていました。少し前の展示では、いろんな質感や色があるタイルを並べてAIに認識させ、そこから服を生成させるというプロジェクトをやりました。服の画像を3Dに生成させているんですが、入力のタイルが予測の難しい要素になっていて、AIを悩ませたいと思って作ったプロジェクトです。

FromObjects1

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──なるほど、AIを悩ませるからこそ、まだ誰も見たことのないデザインが生まれると。

加藤

あと最近行った展示では、AIのデザインを刺繍する、というのも行いました。

ベクターデータ(※点・線・面を数式で表現し拡大・縮小しても劣化しないデータ)を生成するAIがあって、それをいろいろ応用できないかなと考えた時に、刺繍と相性がいいなと思ったんですね。それで刺繍のデザインが作れるAIと、実際に刺繍するまでの一連の体験を作りました。

刺繍AI

加藤

体験の流れとしては、服を預かり刺繍のプロンプトを書いてもらって、その場で刺繍してお渡しします。AIは色の少ないグラフィックデザインのデータで学習した、Stable Diffusionのモデルを使いました。オペレーションも大変なんですが、何より刺繍は一発勝負で、失敗してもやめられないんですよね。ワッペンとかにしたら簡単なんですが⋯⋯。

──実際に刺繍になると手触り感が出て、全く違う感覚になりますね。

加藤

実際にマテリアルとして出力されることで、AIの「歪さ」のようなものがうまく活かされていると思います。

自分たちの会社の名前が「dot-hzm(ドットヒズミ)」というのですが、この名前の由来には、もともとAIが作ったデザインの「歪み」に興味があったということがあります。予測できなさとか、よくわからないけどなんか良いと思えるところから「ヒズミ」にしました。あとはドット絵みたいに、手触り感があるテクノロジーや距離感が近いテクノロジーの掛け合わせをしたいというところで、「ドットヒズミ」という名前にしています。

テクノロジーの届いていない領域

──手触り感とテクノロジー、とても興味深いです。他のプロダクトなどもあるのでしょうか?

加藤

Tech Direction Awardsというアワードで入選した、指輪のプロジェクト「清澄製銀」があります。

これまで3Dプリンターをずっと使っていて、それで何かプロダクトを作りたいと思ったんですね。それと、自分が去年婚約したタイミングで婚約指輪を作ることになり「指輪ってどう作られるんだろう」というところに興味が湧いて。そこからリサーチし始めたところ銀粘土という素材に出会い、3Dプリンターを組み合わせれば面白いのではないかと思いました。

加藤

指輪という職人が必要な領域に対し、テクノロジーを使って新たな選択肢を作れるのではないか、という予感がありました。また、個人的に手触り感のあるフィジカルなものを作りたいという思いもありました。

これは新作で、少し前にロンドンで展示した時に作ったものです。金属の表面にガラスの粉を乗せて焼く、七宝焼きという手法を取り入れて制作しています。

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──心地よい歪さがあり、不思議と自然のもののような印象を受けますね。

加藤

普通の3Dプリンターであれば出力された段階で固まるので下の層に作用することはないんですが、粘土はすぐに固まるわけではなく押しつぶしていくので、そこに自然な不確実性があります。予測できなさがこの揺らぎを生んでいるのかなと。
ロンドンでの展示は「コード・アンド・クラフト」という企画で、3Dプリンターで粘土を扱っている人はいたのですが、銀粘土を使っている人はいなくて。そういう意味でもけっこう注目されました。

──ひとつ作るのに、時間はどれぐらいかかるのでしょうか?

加藤

乾燥と焼く時間で大体20〜30分なんですが、サイズや付け心地を担保するための調整がありそこで時間がかかります。また、その最後の調整は人力でやっています。

──最後に手作業が入るのが面白いですね。他には最近どんなことに興味があるんですか?

加藤

今は職人のノウハウをどうやったらAIに継承できるか、ということを考えています。
職人の数は年々減っていて、これまで培われてきた暗黙知のようなものが、属人的なままだと失われてしまう。そこで、職人のノウハウをAIに落とし込むプロジェクトなども行っています。

──技術継承はとても深刻な問題ですよね。DXなどもなかなか進んでいない印象があります。

加藤

そうですね。自分たちが「テクノロジーやITの人」という立場を一回捨て、その分野に入り込み、本当にその分野の人の目線に立った上で、どのように技術が使えるか考える必要があるのだと思います。実際に指輪も、職人に作り方を教えてもらい自分たちで作れるようになりました。

──なるほど。AI技術が民主化し新しい領域にAIが導入されていますが、その最たる例を実践していると感じます。

加藤

工芸やクラフトの暗黙知というか、その人しか持ってない経験からくる知識は絶対にその場所にしかないんですよね。インターネットには落ちていない。なので、そういった知がどれくらいシステムに落とし込めるか分からない中でなんとか挑戦してみる、みたいな。けっこう博打です(笑)。

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──インターネットには落ちていない、というのはすごく重要な気がします。

加藤

AIに聞いても出てこないことを会いに行き直接聞いて、自分たちも手を動かしてみる、ということが必要なのだと思います。ティム・インゴルドというイギリスの人類学者がいるんですが、フィールドワークをする時にただその場に入り込むんじゃなくて、作る行為を通じて自分自身が変容したり、それによって周りとの関係性がどう変わるかを観察しているんですね。

AIが生まれたことで、テクノロジーを知らなくても面白い使い方が考えられて、いろんな人が参入できるようになってきた感覚があります。「テクノロジーを使ってるっぽいもの」を提案する人は増えたんじゃないかなと。そういうAIが発展した中で、自分の「作る」という行為の中に、価値や未知なものを見出していくことが重要なのだと思います。

自分にとっては工芸がその未知な部分であり、AI以後の世界の中で新しいものを生み出すためのフィールドであるような気がしています。

インタビューを終えて

永田

「AIの余白と人類の進化」の3回目として、dot-hzmの加藤さんにインタビューを行いました。改めて加藤さん、ありがとうございました。荻野さんは今回のインタビューについてどのようなことを感じましたか。

荻野

自分は1995年からインターネットに触れてきているけれど、当時は新しいメディアとしてインターネットにすごく魅力があって。今のAIもまだ面白いとは思いつつ、あの黎明期の「カオスな状態で楽しめる段階」というのは過ぎたんだな、と感じました。いろんなサービスが出てきた頃のAIとは違う楽しみ方になってきているというか。

永田

そうですね。加藤さんはその変遷に対し、誠実に向き合っているという印象がありました。

荻野

実は加藤さんは僕のAIの師匠でもあって、KonelでMidJourneyのワークショップをやってもらったこともありました。その頃の彼は純粋に楽しそうで。でも技術の成熟度が上がっていくごとに、あえて少し距離を置くようなスタンスを取っている。そこがすごく納得感があったし、面白かったと思います。

逆に言えば、そういう「距離の取り方」みたいなところにこそ、まだまだ可能性があるなと感じました。加藤さんはその距離を出すために工芸でやろうとしているんだと思う。

永田

その未開拓な領域へのアプローチですね。

荻野

彼が「歪な方がいい」って言うのは、普通に考えるとちょっと変で(笑)。「どういうこと?」ってなる。でも話を聞いていると、加藤さんは整えられた場所よりも、何かが起こるかわからない場所で火をつけるみたいな行為が好きなんだなという印象を受けました。小さな「種火」を灯すというか。その感覚は自分たちとも共通している部分だと思います。

永田

そこがとても魅力的でしたね。

荻野

文化や伝統というAIがすり抜けてしまうところをあえて入れ込み、その重みやノイズに可能性を見出す。まさしく「AIを悩ませる」行為の中に可能性を感じました。

ai-aiチームでは今後ともインタビューを通じて「人工知能の余白と人類の進化」について考えます。

聞き手:荻野靖洋、永田一樹

加藤 優

加藤 優

株式会社dot-hzm 代表取締役CEO

東京都出身。大学在学中よりスタートアップから上場企業までソフトウェアエンジニアとして新規事業に携わる。建築設計事務所でのリノベーション設計・AIシステム開発、ファッションスクール coconogaccoを経て、2024年にデザインスタジオ dot-hzm を創業。2025年、ロンドン・コベントガーデンにて作品を発表。GOOD DESIGN NEW HOPE AWARD、Tech Direction Award、未踏スーパークリエータなど受賞多数。

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