Pickup
2023.08.16
レポート
Z世代のリバースメンターカンファレンス『Z特区』が示す時代の最先端、世代を超えた新しい協調の仕組み
"時代の先端を生きるZ世代から学ぶ リバースメンタリング"をテーマに、Z世代のトップランナー達が主役のカンファレンス『Z特区』が、7月19日に原宿の東郷記念館で開催された。「スタートアップ」「サステナビリティ」「教育」「政治」「エンターテイメント」「マーケティング」の6つのテーマにおいて、現場の最前線のZ世代の目線からトレンド分析や未来の社会像についてのディスカッションが行われた。
Z世代を代表するスタートアップ経営者やクリエイターたちが登壇し、これからの社会を担う若きリーダーたちによる知見の共有の場となった本イベント。この記事では、各テーマのセッション内容を紹介する。
Talk Session 01: スタートアップ
Z世代が考える、テクノロジー進化の先にある「ビジネス」の本質
◯登壇者(敬称略):宮下 大佑(株式会社チケミー 代表取締役) × 矢倉 大夢(筑波大学大学院 博士後期課程、Google / Microsoft Research Ph.D. Fellow) × 関根 江里子(株式会社小杉湯 事業責任者)
ファシリテーター: Tehu(株式会社EXx 取締役 / CTO)
左から Tehu氏(ファシリテーター)、関根 江里子氏、宮下 大佑氏、矢倉 大夢氏
1つ目のセッションは「スタートアップ」。小杉湯事業責任者、モノと権利のNFTチケット販売サービス代表、天才プログラマーという三者三様のZ世代メンターらが集まり議論が開始した。若者はお金が無いと言われるが、そこからいかに経済を回すかがスタートアップの鍵となる。登壇者は事業は異なれど「ビジネスの本質」のテーマのもと、お金や人の動く場所へと議論が及んだ。
例えば海外では「Payme」のような給与前払いサービスが人気を博し、それはAPI情報のみで申請可能な簡便さも起因しているというが、日本では独特な金融の仕組みが根強く残り、また勤怠システムもバラバラのため適用が困難という。例えば小杉湯など銭湯においては金券文化が根強く残り、東京都全体で3億円もの共通入浴券(=紙製の金券)が動いており、さらにその分の収益が入るのは年に一度(1年後)という“斜陽産業”っぷりだ。
自治体のシステムでも斜陽産業的な方法が蔓延していることが問題視された。ここでは「1,700以上ある自治体の情報システム標準化問題」が話題にあがり、現在1,700以上の各自治体が個別に情報システムを開発・運用・保守していることが問題提起された。仮に1,700それぞれの自治体が各々でアプリを開発するようでは、他の自治体で応用できないアプリが組み上がる。開発費がそれぞれにかかると、結果、国の支出が膨らむ。「法規制やテクノロジーは社会課題とフィットしないと伸びない」と指摘が上がった。
テクノロジーを伸ばすには、社会課題と向き合うことが重要で、技術とは手段を増やすことであり、それを社会がどう使うか。社会課題解決はテクノロジー先行ではなく、社会全体で俯瞰し人と向き合うことが先行で、どこまでテクノロジーを取り入れるか。AI判定のように「判定」を押し付けるのではなく、「なめらかなインターネット」「手触り感のあるインターネット」が重要だ、という意見で幕を下ろした。
左から Tehu氏(ファシリテーター)、関根 江里子氏、宮下 大佑氏、矢倉 大夢氏
Talk Session 02: サステナビリティ
「Z世代はサステナビリティに関心が強い」の解像度を高めよう
◯登壇者(敬称略):伊藤 光平(株式会社BIOTA 代表取締役) × 勝見 仁泰(株式会社Allesgood Founder / CEO) × 中村 多伽(株式会社taliki代表取締役CEO / talikiファンド代表パートナー)
ファシリテーター: 三浦 崇宏(株式会社GO 代表)
左から 三浦 崇宏氏(ファシリテーター)、勝見 仁泰氏、中村 多伽氏、伊藤 光平氏
2つ目のセッションは「サステナビリティ」。
“「YouTuberなのか、TikTokerなのか、サステナ(な人)なのか」という風に、カテゴリの一つとして「サステナ」がある”。そんな議論から始まった当セッション。過去には大手企業に入ることがステータスメイキングだったが、今は情報が溢れ、価値観は増え、物質的な豊かさから自己表現の豊かさへと価値観が移り、文脈の一つにサステナビリティ分野がある、と議論が進む。
その背景には、近い将来に資源の枯渇化を控えた覚悟や潮流から、物質的な豊かさよりも自己表現の豊かさやSDGsの方がマッチしたこと、クライメートテックやカーボンクレジットはZ世代にとって当たり前に取り組む社会課題として意識が向いていることなどが挙げられた。反面、サステナビリティやエシカル文脈でポジションを取っていた時代は過ぎ去り、当たり前になった世の中では、それらで目立っていた企業は淘汰されていく、とも。
サステナビリティというと義務感の責を負ってしまうが、サステナとは「地球の有限な資源を、地球の生き物と一緒に遊び尽くすこと。ロマン」だと意見が挙がった。「宇宙や火星へと地球から脱出するのではなく、類稀な地球を遊び尽くす。その期限をどれだけ長くできるかがサステナビリティだ」という論点には、Z世代からメンタリングを受ける客席からも感服の様子が見られた。
左から 勝見 仁泰氏、中村 多伽氏、伊藤 光平氏、三浦 崇宏氏(ファシリテーター)
Talk Session 03: 教育
Z世代が親になったら、自分の子どもにどんな教育をしたいか?
◯登壇者(敬称略):三浦 宗一郎(一般社団法人HASSYADAI social共同代表理事) × 東 佑丞(ゲーマー / ゲームトレーナー) × 田中 あゆみ(一般社団法人lightful 代表理事 / デジタルハリウッド大学大学院1年生)
ファシリテーター: 船野 杏友(慶應義塾大学総合政策学部 / 探究コーディネーター)
左から 船野 杏友氏(ファシリテーター)、三浦 宗一郎氏、東 佑丞氏、田中 あゆみ氏
Z世代の子育て観や教育論を語ったセッション。教育に関するタッチポイントを増やすための施策や教育市場そのものについての議論が行われた。e-Sportsゲーマーとして活躍する東氏からは、親子で行うゲーム体験が複雑化する現状を踏まえ、「教育×ゲーム×ビジネス」の可能性についても語られた。
親が子供と一緒にゲームをすることは、親から関心を寄せられ認められていることに感じ、関心を寄せられることは、困難に立ち向かった時の踏ん張り所として脳裏によぎり力になる、など一緒にゲームや対話をすることで得られる心情も語られた。また子供に1日の報告などの対話をさせることも奨励され、それらはメタ認知の素地を上げることに役立つと語られた。初めて聞く教育方針なども共有されるすべきで、例えば不登校などにおいてもコミュニティが可視化され共感を得ることで、大概の問題が解決されると語られた。
左から 船野 杏友氏(ファシリテーター)、田中 あゆみ氏、東 佑丞氏、三浦 宗一郎氏
Talk Session 04: 政治
どうやったら若い政治家を増やせるのか?
◯登壇者(敬称略):吉野 裕斗(日進市議会議員 / 株式会社Zoo 代表取締役社長) × 佐々木 悠翔(日本若者協議会 理事 / 日本GR協会) × 伊藤 和真(株式会社PoliPoli 代表取締役 / CEO)
ファシリテーター: 茶山 美鈴(早稲田大学法学部 / Health for all. jp 代表)
登壇者:左から 茶山 美鈴氏(ファシリテーター)、吉野 裕斗氏、佐々木 悠翔氏、伊藤 和真氏
4つ目のセッションテーマは「政治」。最年少当選の市議会議員、日本若者協議会 理事、政治プラットフォーム代表といった、政治を自らの手で変えようとするZ世代の担い手が集った当セッション。
若者の政治家が増えることで、今現在よりも未来を見据えた政策が増える。Z世代は子供時代に東日本大震災が起こり、政権交代が起こり、社会貢献や政治に関心を持つきっかけになったという。未来に望むその一方で、若者が政治にリーチしづらい現状に警鐘が鳴らされた。例えば企業に属しながら議員に立候補するには、4年に1度しかチャンスがない上に、落選した場合の復職の難しさも問題で、政治参画ハードルが高いと問題視された。選挙有給の必要性や、企業に属しながら政治活動を行う“兼業”容認の必要性が問われた(実際に楽天や資生堂などでは政治参画後の復職の制度があるという)。
日本は政治家の割合が多くなく、出馬のコストが高いという。アメリカなどではシンクタンクや、議員辞職後に組織を立ち上げる人も多く、セカンドキャリアの場も多いが日本ではセカンドキャリアを築きづらい。年配の政治家が多すぎる、未だにFAXを用いているなどDXを推進できない。人口の少ない地方では若手議員の担い手がいない。政治家に批判的なイメージを持つ人も多く、政治家になった途端に嫌がらせやネットストーキングの被害に遭うことも告げられ、政治家を守る必要性や、政治参入の障壁を下げる必要性が語られた。
若者の政治参画の可能性として、地方では議員のハードルも低く参入の余白が大いにあることや、国を動かすのは難しくても地方から変えられる可能性も語られた。彼らの推進する議員・協議会・政治プラットフォームなどに始まり、若者が国に働きかけるチャンスは大いにあること、官民の人材流動性を高める必要性などが訴えかけられた。
左から 伊藤 和真氏、茶山 美鈴氏(ファシリテーター)、佐々木 悠翔氏、吉野 裕斗氏
Talk Session 05: エンターテイメント
ヒット作品・コンテンツ時流から、Z世代の欲望の根源を紐解く
◯登壇者(敬称略):山科 ティナ(漫画家 / イラストレーター) × たなか(アーティスト / 音楽プロデューサー) × YP(映像監督)
ファシリテーター: 有田 絢音(株式会社GO Copywriter / Planner)
左から 有田 絢音氏(ファシリテーター)、山科 ティナ氏、たなか氏、YP氏
音楽・動画・漫画といったコンテンツ制作の現場から「Z世代の欲望」を深掘りしたセッション。ドラマ化も果たした漫画家の山科ティナ氏、「ぼくのりりっくのぼうよみ」の名で活動し、今はバンド活動や音楽アーティスト活動を行うたなか氏、映像監督のYP氏といった、エンタメを世に送り出す最前線の三者が集結。
登壇者それぞれが作品づくりにおいて意識することや、自己肯定感という言葉にまつわる感受性、閉鎖的な性質を持つコミュニティが歓迎される空気など、今後のものづくりに関わるトレンドについての活発なやりとりが印象的だった。多様性を求める時代において、メッセージをいかに届けるかについても鋭い意見が飛んだ。
共感型のコンテンツやつっこまれ型のコンテンツは伸びる傾向にあると話題に上ったが、反面、それらはテクノロジーの進化やZ世代の躍進でコンテンツのあり方が変わったのではなく、人間の欲望は変わらず元々あり普遍的で、環境変化によって浮かび上がるものだ、という論点に。コロナという共通の話題や悩みがなくなりつつある今、ポカリスエットやカロリーメイトCMのメッセージにも見受けられるように“個々の時代”になりつつあると述べられ、「人と比べて優れているから嬉しい」よりも、過去の自分と比べて今日の自分が優れていることが嬉しい「自分を褒めたい欲望」や、個人がどう生きるかが重要になっていると語られた。
「Z世代」の概念については曖昧だが、「Z世代」「特区」のようなラベルを貼り、敢えてパッケージングをすることで“あるある”の輪郭を浮き上がらせることができ、界隈を形作り、届ける飛距離を出すことができる、と明言された。
左から たなか氏、有田 絢音氏(ファシリテーター)、山科 ティナ氏、YP氏
Talk Session 06: マーケティング
若者がお金を払いたくなるものは、これからどう変わっていく?
◯登壇者(敬称略):龍崎 翔子(株式会社水星 代表取締役CEO / ホテルプロデューサー) × 吉田 勇也(株式会社HARTi 代表取締役CEO) × 高山 泰歌(株式会社ONE NOVA 代表取締役)
ファシリテーター: 長田 麻衣(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント / SHIBUYA109 lab.所長)
左から 長田 麻衣氏(ファシリテーター)、龍崎 翔子氏、吉田 勇也氏、高山 泰歌氏
最後となるセッションでは、アート、観光、エシカルなライフスタイルと多岐にわたる領域から、マーケティングにおけるユーザー感度や販売戦略の変化について語られた。龍崎氏から「共感消費はもう終わり」や、高山氏の「ストーリーだけだと売れない」(ストーリーを代弁し環境に良いものを作っても、売れなければゴミになる)など、現代の定石とされているマーケティング手法に疑問を投げかけた。
消費者の目も肥え、生半可では売れず、案件投稿は透けて見えて彼らはPR投稿にも気づいている。ストーリーテリングとファンマーケティングは乱立し周りも追い付き、売れない。SNSマーケティングにおいては、何かを紹介する情報アカウントよりも、今はいかにみんなが知らない情報を持っているかが重宝されるという(渋谷から若者が消え、新大久保などに流れている現象も、誰もが知る情報よりも自分だけが知る場所を求めており、SNSなどに多発している情報商材系アカウントなどのSNS参入のすり寄り、いわゆる“おじさん化”にもうんざりしている)。
今は「客が情報を再編集しやすいようにサービスを組み立てている」などユーザー感度も語られた。「若者に歓迎されるコンテンツ」の事例としては、TikTokで話題になったマクドナルド社の事例や、中国のSNS「RED(小紅書)」、フォートナイトによるAppleのリバイバルショート動画なども紹介され、若者を知るのは若者が使うプラットフォームからであり、今はいかに自分たちしか知らない情報を持っているか、“お茶会”のような価値観への変容を大切にしていると語られた。
左から 長田 麻衣氏(ファシリテーター)、高山 泰歌氏、吉田 勇也氏、龍崎 翔子氏
おわりに
今年初開催となった『Z特区』では、いわゆるリバースメンタリングとして「若者から教えを請おう」というニュアンスが先に立ったものの、会場にも同世代と思われる観客も多く、トーク終了後のネットワーキングも非常に活況だった。
クロージングセッションで、主催の三浦崇宏氏(株式会社GO)が「世代に関係なく、自分の経験を武器に真摯に向き合っている人たちの『特区』であることが重要」と話していたように、「Z世代」と銘打ったものの、そのラベリングからいかに脱却し、新しい価値観を共有することこそが新しい世代の在り方なのではないかと思えた。この場に集った様々な人たちを新たなコミュニティ=「特区」と見なし、そこから相互作用していく思いや熟成される思考がよい循環を生むのだと感じさせた。
どの領域にせよ、未来を向いてよりよい社会像を模索する取り組みが様々な形で表出し、そこに個人の熱いパッションを捧げているからこそ、最前線にいることでしか見えないトレンドに対するヴィヴィッドな言葉が多かった。
会場となった東郷記念館は、昨年、50年ぶりの建て替えによるリニューアルを実施した際に「循環の時代の技を適用することで、創造的な空間を実現する」ことをテーマに掲げられた(設計を担当した「再生建築研究所」Webサイトより)。
年々テクノロジーによる社会変化や不透明さが激しさを増す現代において、世代にとらわれず常に常識を疑い、いかに柔軟でいられるか。若い世代の意見を「分かった気にならないこと」、世代の感性を循環させ、創造的な未来を思い描くこと。風通しのよい原宿の森から見えたその景色は、「特区」の重要性を強く感じるものだった。
取材メンバー/知財ハンター
荒井 亮 / Ryo Arai
1977年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。クリエイティブ会社THINKRにてライブ配信事業「2.5D」のプロデューサーとして番組の企画制作、アライアンスやチームビルディングを担当。その後、Konelに所属し「知財図鑑」を立ち上げ、クリエイティブ x テクノロジーでのイノベーション推進を進める。web3 / NFT領域に関心があり、NEO TOKYO PUNKS / 6Town Port Rebels / QR81Vなど様々なコレクションに関わる。虎ノ門ヒルズインキュベーションセンター「ARCH」メンター、特許庁「I-OPEN」2022年度メンター。
福島 由香 / Yuka Fukushima
PRマネージャー、編集者。知財ハンター。デザインを専攻後、制作会社やメディア運営会社で広告制作やECストア運用に従事。商品開発やコンテンツ企画、デザインディレクション、PRなどを担当した後、カナダでディレクター職に従事。越境ビジネスと自然科学を好み、国をまたぐ知財の越境力と文化貢献に関心を持っている。主な記事にSXSW2022、DESIGNART TOKYO 2022、ドバイ万博、noteクリエイターフェスティバルサポーターなど。
ハントした知財