2025年5月17日・18日の2日間、東京ビッグサイトで開催された「TOKYO GX ACTION CHANGING 〜未来を変える脱炭素アクション〜」は、東京都が推進するGX（グリーントランスフォーメーション）の最新技術を直接体験できる大規模展示会。会場は東1～3ホールと南1～4ホールの広大なスペースに展開され、フォーミュラE世界選手権である「東京 E-Prix」との併催にて、2日間で約 6.5万人が訪れました。

このイベントは、化石燃料からクリーン エネルギー中心の社会へと転換する 「GX（グリーントランスフォーメーション）」を多くの人に知ってもらうことを主要な目的としています。主催者は、脱炭素技術が我々の日常生活に密接に関わり、より豊かで快適な暮らしを実現する選択肢であることを広く伝えたいと考えて開催しました。このイベントを通じて、従来の環境対策に付きまとう「制約」や「我慢」というイメージが払拭され、GXが「生活の質を高める」イノベーションであると多くの来場者が実感できる機会となりました。

本レポートは前編・後編の2部構成で、このイベントを詳しく紹介します。前編では、体験型展示を通じて、「楽しみながらGXを学べるコンテンツの魅力」と、来場者の注目を特に集めた「次世代モビリティ技術」の革新性に焦点を当てます。後編では南展示棟を中心に、知財図鑑の取材ライターが選んだ先端技術や製品、企業の取り組みを紹介します。

GXが日常生活に溶け込む社会は、もう遠い未来の話ではありません。この技術変革がもたらす新しい暮らしの姿を思い描きながら、ぜひ最後までお読みください。

（取材・文・撮影：杉浦万丈）

体験型テクノロジー展示：来場者が楽しみながらGXを学べる4つの魅力

都立ジーエックス学園：企業による体験型の脱炭素教育

東展示棟に設置された「都立ジーエックス学園」では、GXに取り組む企業がワークショップ形式の特別授業を開講。普段の学校では体験できない最先端の脱炭素技術を学べる場として、人気を集めました。プログラムは、エネルギー・モビリティ・住まい・食の4テーマで構成され、会場では親子でインタラクティブに学ぶ姿が印象的でした。

プログラムには、誠文堂新光社による「海水で発電する未来の車をつくろう 未来の発電技術教室」やトヨタモビリティ東京による「水素をつくって使ってみよう！燃料電池実験教室」、UPCYCLE LABの「廃棄消防ホースを使用！世界に一つだけの手作りコインケース作り教室」といった体験型の授業が多数用意されました。

実際に手を動かしながら学ぶ講座のため、参加者は脱炭素技術の仕組みを感覚的に、より深く理解できます。また、各分野の専門企業が講師を務めることで、最新の技術動向についてのリアルな情報を聞くことができました。多くの受講者にとって、貴重な学習機会となったことでしょう。

Green Stage：エンターテインメントと環境意識の融合

会場中央の「Green Stage」では、環境をテーマとしたステージプログラムが連日開催され、多くの観客で賑わっていました。人気アーティストDa-iCEによるスペシャルライブでは、「TOKYO GX ACTION」のイメージソングとなる新曲「サンクチュアリ」をライブ初披露。会場は約5,000名のファンの熱気に包まれました。

さらに、クリエイティブ集団「MPLUSPLUS」とファッションブランド「ANREALAGE（アンリアレイジ）」が、LEDテキスタイルを活用したダンス×ファッションショーを披露。未来都市に誘われるような演出で、環境技術とアートの新たな可能性を鮮やかに表現していました。さらに、公式アンバサダーの山之内すず氏を招いたトークセッションでは、日常生活での環境配慮について親しみやすい雰囲気で語られました。

音楽やダンス、ファッションショーなどのエンターテインメント要素を巧みに取り入れることで、環境問題を堅苦しいテーマではなく、魅力的で身近なものとして伝えることに成功していました。

「Mobility Quest」と「GX TREE」：ゲーミフィケーションの成功

イベント会場にて、各出展企業から出題されるクイズに答える「Mobility Quest」が、来場者の積極的な学習を促しました。楽しみながら、GXをしっかりと学ぶことができる優れた仕掛けです。クイズに答えると、タイガー魔法瓶の真空断熱ボトルがプレゼントされました。

これに加えて画期的だったのが、来場者の学習成果に応じて成長する巨大デジタルツリー「GX TREE」です。各展示ブースでの学習内容をクリアするごとにポイントが蓄積され、そのポイントに応じてGX TREEがリアルタイムで成長する仕組みになっています。最初は赤色だったツリーが、緑色へと変化していきました。

ゲーミフィケーションの手法を活用することで、複雑な技術内容を段階的に学習でき、さらに個々人の成果が可視化されることで、学習のモチベーションを高く維持することができます。非常に画期的な工夫だと感じました。

ミライカレー：カレーを通じて持続可能な食の未来を試食

© TOKYO GX ACTION

食の未来を体感できる「ミライカレー」では、日本のカレー有名店が"脱炭素カレー"という新たなジャンルに挑戦しました。持続可能な食生活を先取りしたカレーメニューが全部で13種類提供され、どのカレーを選ぶか、楽しみながら迷っている人たちが印象的でした。

カレーが12のGXテーマと関わりがあることに素直に驚きです。カレーはどんな食材でも美味しくすることができる強みがあります。また、大鍋ひとつで大量調理ができるため、災害時や炊き出しの現場でも重宝されます。カレーの汎用性には、課題解決能力があると言っても過言ではありません。未来人もきっとカレーが大好きなことでしょう。

イベントで食べたのはこの3種類。waccaの超ローカロリーカレー（写真：左上）は、1皿たったの150キロカロリー。油を一切使わず、健康にも良いカレーです。ガヴィアル・プラスの規格外野菜カレー（写真：中央）は、欧風カレー屋ならではの、野菜の甘みや旨みを引き出す調理がされていました。規格外野菜でもとっても美味しいです。Thanjai Mealsのソヤチャンクベジビリヤニ（写真：右上）は、インドの大豆由来の代替肉「ソヤチャンク」を使用。肉を使わずとも、非常に食べ応えのあるビリヤニになっていました。

環境配慮と美味しさを両立させることで、持続可能な食生活が決して我慢を強いるものではなく、むしろ新たな調理の可能性を示すものだと感じる機会になりました。

次世代モビリティ：移動革命の凄さを体感

今回のイベントで特に注目を集めたのが、最先端の次世代モビリティの数々です。東2ホールを埋め尽くすほどの多様なモビリティは圧巻の光景でした。2050年の脱炭素社会におけるモビリティの未来が具体的に示されていて、来場者はEV技術の可能性を目の当たりにすることができました。

特に注目を集めたのが、日産自動車の「Formula E Gen3 Evo」です。この車両は電動モータースポーツの技術的頂点を示す存在として圧倒的な存在感を放っています。わずか1.86秒で時速100キロに到達する加速性能は、従来のF1マシンを上回る水準に達しており、最高出力350キロワット、最高速度322キロという数値が電動技術の可能性を示しています。会場ではフォトスポットとしても人気で、来場者は電気自動車が単なる環境配慮車両ではなく、究極のパフォーマンスマシンでもあることを感じていました。

GXモビリティの普及：社会インフラへの本格導入

MOBILITY エリアでは、電気自動車の普及が個人の乗用車を超えて、社会インフラ全体に広がっていることが特に実感できる展示でした。公共車両のEV化はもうすぐそこまで来ています。

モリタ・モリタエコノスの展示は、社会インフラでの電動化の進展を象徴していました。日本メーカー初のEV消防ポンプ自動車「MoEVius concept」とEVごみ収集車「eパックマスター™」は、いずれも走行時・作業時ともにCO₂排出ゼロを実現しながら、従来の性能を維持。電気駆動による低騒音化により、深夜の消防出動や早朝のごみ収集作業でも住宅地への騒音影響を大幅に軽減できるため、都市環境の改善に直結する技術として高く評価できます。

タジマモーターコーポレーションが展示した「TAJIMA NAO2-6J」は、インホイルモーターの採用とバッテリー配置を最適化することにより、超低床フラットフロアを実現しました。車椅子の乗り込みを設計時点から考慮したユニバーサルデザインで、お子様からシニアまであらゆる年代の方の乗降しやすさを徹底的に追求し、グリーンスローモビリティとして真のバリアフリー交通の実現を目指しています。

特にユニークだったのは、宮本卯之助商店とRDSが共同開発した「ツナグルマ」です。伝統の山車にEVアシスト機能を組み込んだ驚きの設計です。祭りという日本文化の象徴的な場面にも、電動技術が浸透しています。EVアシストにより少人数で山車を引けるようになるため、祭りの維持が人口減少によって困難になっている地域の課題を解決してくれます。

さらにEVとは別ですが、興味深いと感じたのが、鹿島建設の「CO₂-SUICOM」です。世界初のCO₂吸収コンクリートで、コンクリートが固まる過程でCO₂を吸収・固定させる最先端技術。セメントの使用量を減らし、製造するたびにCO₂を減らすことができるため、道路・建設業界における脱炭素化の新たな可能性を示していると感じました。

MOBILITYエリアでは、GXモビリティの普及が単なる個人の移動手段の変化にとどまらず、社会インフラ全体の脱炭素化を牽引する重要な役割を担っていることが明確に示されていました。公共サービスから伝統文化の継承まで、あらゆる分野でGXのイノベーションが活用される姿が具体的にイメージできる貴重な機会となりました。

モビリティ試乗体験：東南展示棟で実機での体験

このイベントの大きな魅力の一つは、東展示棟と南展示棟の両方で、次世代モビリティの実際の試乗体験ができたことです。実際に、次世代モビリティを操作することで技術の進歩を肌で感じることができました。

東展示棟では、mercari R4Dの「poimo」とトヨタ自動車の「&brella」が特に注目を集めていました。

「poimo」は、空気で膨らむインフレータブルボディを持った電動モビリティで、自分の体に合った乗り物をデザインできるインクルーシブな特性を持っています。そのかわいらしいデザインに惹かれて、試乗コーナーには子どもたちが途切れなく列を作っていました。

「&brella」は、「大切な人と笑顔になれる」をコンセプトとした次世代小型モビリティで、ふたりで乗れる相合傘のユニークさに加えて、スマホで操作できる魅力的な車両として人気を博していました。家族で和気藹々と乗っている様子が印象的でした。

さらに、南展示棟の「次世代モビリティ教習所」では、より本格的な体験プログラムが展開されていました。

参加者はまず座学で特定小型原動機付自転車の基本的知識や交通ルールを学びます。そして、専門的なインストラクターのもと、多種多様な最新モビリティの試乗ができました。

特に気になったのが、ブレイズの「スマートEV 特定原付モデル」。持ってみると驚くほど軽量で、部屋の隅に置いておけるような折りたたみ機能は目を見張るものがありました。都市部の限られた住環境でも無理なく導入できると感じました。

E-KONの「E-KON RIDE」は、日本人の体格に合わせた設計を目指して作られました。車両の乗りやすさと安定感に加えて、パワーもあるので坂道や加速時でもストレスを感じさせない力強さを感じさせます。

Hundredthsの「ChatKart」は、収納スペースの広さが特徴です。コンパクトな4輪で、まるで鳥山明が漫画で描いたようなデザインで心惹かれました。さらに、4輪ならではバック走行が印象的でした。

多くのモビリティが軽量設計を追求し、女性や高齢者でも楽に取り扱うことができることを目指しています。さらに、免許を持たない人でも短時間で習得可能な直感的な操作性が特徴的です。単に環境に優しいということだけでなく、生活がより便利になるモビリティで、実際に社会に普及していくのは時間の問題でしょう。

体験型アトラクション：技術の魅力を五感で体感

より気軽に次世代モビリティの凄さを体感できる体験型アトラクションも充実していました。これらのアトラクションは、複雑な技術内容を楽しみながら理解できるよう巧みに設計されています。

「EV KART TIME ATTACK」では、全長約250mのコースで、電気で駆動するカートでのタイムアタック体験を提供。EVカートのスタート直後からの高加速と静音性には、本当に驚きました。来場者同士のタイム競争も生まれ、非常に熱気の高いコンテンツとなりました。

「東京ドローン空港」では、資格がなくとも操作可能なドローンの操縦体験が展開されました。指導スタッフの丁寧な説明と補助を受けながら、ドローン操作の面白さと技術の可能性を体感できます。子どもたちが行列を作る人気ぶりで、ドローンの機能性の高さを目の前で感じることができました。

「ラジコン超スピードバトル」では、東京では類を見ない巨大なコースで、電動ラジコンカーの白熱したレースが展開されました。プロレーサーによるテクニックを巨大コースで見ることができ、電動モーターの高効率性と精密な制御技術を間近で体感できました。来場者が声援を送り、夢中になっている姿から、電動技術の魅力が世代を問わず伝わっていることがうかがえました。

まとめ

TOKYO GX ACTION CHANGINGの前編では、体験型テクノロジー展示による学習効果の最大化と、次世代モビリティ技術の圧倒的な進歩を中心にレポートしました。

体験型テクノロジー展示では、「都立ジーエックス学園」「Green Stage」「Mobility Quest」「GX TREE」「ミライカレー」といった独自の要素が効果的に機能し、環境問題を身近で魅力的なテーマとして提示することに成功していたと感じます。特にエンターテイメントや食の要素の活用は、幅広い年齢層の来場者の関心を引きつける効果を発揮したと思います。

次世代モビリティ分野では、日産の「Formula E Gen3 Evo」に象徴される電動技術の技術的頂点から、社会インフラに広がるGXモビリティ、革新的なパーソナルモビリティ、そして実際の試乗体験まで、多層的なアプローチで未来の交通システムを紹介していました。これらの技術は単なる概念や実験段階のものではなく、既に実用化に向けて着実に進歩しており、2050年の脱炭素社会における移動の未来が具体的にイメージできる内容となっていました。

後編では、南展示棟のHOUSE & ENERGYエリアを中心に、住宅・エネルギー分野での革新技術と企業の先進的な取り組みについて詳しくレポートする予定です。

後編はこちら。

TOKYO GX ACTION CHANGING イベントレポート【後編】を読む

（取材・文・撮影：杉浦万丈）