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2025.06.20

レポート

【後編】 TOKYO GX ACTION CHANGING イベントレポート―未来の暮らしを豊かにするGXイノベーション

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2025年5月17日・18日に東京ビッグサイトで開かれた「TOKYO GX ACTION CHANGING 〜未来を変える脱炭素アクション〜」は、東京都が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)を体験できる大規模イベントとして多くの来場者で賑わいました。このイベントは、GXが日常生活と密接に結びつき、より豊かで快適な暮らしを実現する新たな選択肢であることを、広く認識してもらうことを目的としています。

前編では、「都立ジーエックス学園」「Green Stage」「Mobility Quest」「GX TREE」「ミライカレー」など、“楽しみながら学べる”イベントの魅力を紹介。続いて、次世代モビリティに焦点を当て、日産自動車の「Formula E Gen3 Evo」をはじめとしたEVの技術革新や、パーソナルモビリティの試乗体験を通じて、2050年脱炭素社会における「移動」の未来を体感できる内容をレポートしました。

後編では、南展示棟に集結した革新的な展示を、知財図鑑の取材ライターが抜粋してレポートします。南展示棟には、日常生活に密接に関わる先端技術やエネルギーソリューションが並び、来場者は脱炭素社会の暮らしを具体的にイメージできました。会場は「ぐでたまHOUSE & ENERGY」「sense of place」「GX BRUTUS」の三つのエリアに分かれ、それぞれが独自の視点で持続可能な未来を提示しています。ぜひ未来の生活を想像しながら、最後までお読みください。

(取材・文・撮影:杉浦万丈)

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ぐでたまHOUSE & ENERGY:次世代エネルギー技術の最前線

サンリオの「ぐでたま」をテーマキャラクターとしたこのエリアでは、家庭で始められる脱炭素アクションや、2050年に向けたエネルギーソリューションの数々が紹介されていました。専門的で複雑になりがちな環境技術を、子供から大人まで楽しく理解できるよう工夫されており、ぐでたまのゆるい雰囲気によって、来場者は堅苦しさを感じることなく最新技術に触れることができました。

グリーンディスプレイ 「botanical light」

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「botanical light」は、植物と共存する微生物の生命活動で生じる電子を活用した発電システム。土壌や水辺に電極を挿すだけで、植物が元気に育つ環境があれば電力を得ることができます。

発電の仕組みは、植物が光合成で糖(デンプン)を作り、土中の微生物がその糖を分解する際に電子が発生し、マイナス極のマグネシウムからプラス極の備長炭へ電子が流れることで電気が生まれるというものです。現在は単三電池約2本分の電圧を発電可能です。

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展示では、観葉植物の鉢に電極を挿すだけでライトが点灯しており、来場者は不思議そうな表情を浮かべながら足を止めていました。電気を引いてこれない場所など、さまざまな場面で使用できるのも強みだと感じます。

電力生成時に排出されるのは水のみで、その水は植物の根に吸収される完全循環型システムとなっています。土が乾くと光が弱くなるため、植物への水やりタイミングも可視化されます。植物を大切に育てることが発電につながる仕組みに、自然と技術の理想的な共生関係を見ることができました。

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関連リンク:https://www.green-display.co.jp/info/column/info-691/

MEDIROM MOTHER Labs 「MOTHER Bracelet」

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「MOTHER Bracelet」は、充電不要のスマートトラッキングデバイス。体表面と外気の温度差を利用したゼーベック効果による温度差発電技術を搭載し、太陽光とのハイブリッド発電により無充電での24時間365日連続稼働を実現しています。

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1821年にエストニアの物理学者トーマス・ゼーベックが発見した現象を、200年の研究開発を経てシリコンバレー発の最新技術として実用化。歩数、睡眠、消費カロリー、心拍数、体表温を絶えることなく記録し、時計や通知機能をOFFにした健康管理特化型デバイスとして設計されています。

展示では、止まっている時計に繋がれた装置を触るだけで、時計が動き出す様子を見ることができました。とても不思議です。

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このデバイスは、生活防水仕様でプールやお風呂でも着用可能です。実際に、充電の煩わしさでスマートデバイスを諦めたことがあるので、正直、すごく欲しいと思いました。

関連リンク:https://medirom.co.jp/services/mother

東亜道路工業 「wattaway」 「環境に配慮した非接触給電舗装」

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「wattaway」は世界初の路面舗装型太陽光発電システム。厚さわずか6mmという驚異的な薄さと耐久性を実現した太陽エネルギー変換装置で、大規模な工事を必要とせず、既存の駐車場・歩道・道路等に接着設置できます。

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埋め込まれているのは、結晶シリコンの太陽電池セルで、太陽エネルギーを電気に変換します。太陽光の届く透過性と車両に対する耐久性を可能にするために、多層構造の合成樹脂とポリマー製の層で保護しました。車両のタイヤが接する路面は、一般的な道路舗装と同等のグリップ力を保持しています。

発電された電気は街灯や防犯カメラの電源、電動モビリティへの充電、電力会社との連系など多様な用途で活用可能です。農地の減少や自然景観破壊を避けながら、既存敷地を活用した発電ができる利点があります。台風などの暴風時でもパネルが壊れない安全性も確保されています。道路そのものが発電設備になるという発想の転換に驚かされました。

関連リンク:https://www.toadoro.co.jp/business/product/201/

「環境に配慮した非接触給電舗装」

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走行中の電気自動車へ、給電可能なシステムを組み込んだ舗装技術。送電装置は車のタイヤが直接通らない道路中央部分に設置され、95%という高い効率で電力を車両に送ることができます。また従来の厚い装置ではなく、薄型のパネル状にすることで、大規模な道路工事や掘削作業を必要とせず、既存の道路表面に設置できるようになりました。これにより、工事期間の短縮と交通への影響軽減を実現しています。

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走行中給電によって、電気自動車搭載のバッテリーを小型軽量化できるのが最大の利点です。EVのバッテリーは、最も高価な部品であり、コバルトやニッケルなどの希少金属が使われています。バッテリーが小型化されることで、サステナブルな生産体制が整うだけでなく、車両価格を大幅に下げることが可能になり、EVの普及が広がります。

実際に、高速道路の1レーンを充電レーンにするなどの活用もできそうです。走りながら充電できる未来の交通システムにわくわくしました。

関連リンク:

https://www.toadoro.co.jp/news/docs/69db96e0a2de12562db53a775e7b791490ae22f6.pdf

積水化学工業「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」

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「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」は、軽量で柔軟性に優れた次世代太陽電池。重量は約1.5kg/m²とシリコン系太陽電池の1/10程度、厚みは約1mmと1/20程度を実現しています。曲率半径15cm程度の柔軟性を持ち、さまざまな場所への設置が可能です。

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主原料にヨウ素を使用し、世界の30%を日本で産出するため資源安全保障の観点でも優位性があります。2025年には100cm×300cmの大型化を目標としており、ここまでの大きさを実現できる技術は類を見ません。発電効率は現在15.0%を達成、2030年18%、将来20%以上を目指しています。

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ビル壁面、空港・鉄道・道路アセット、軽量屋根、下水覆蓋など多様な設置例が想定され、屋外耐久性も10年相当を確認済み。従来困難だった曲面や軽量構造物への太陽電池設置を可能にする革新的技術です。

関連リンク:https://www.sekisui.co.jp/news/PSC/

sense of place:デザインとGXの融合

「sense of place」エリアでは、美しいデザイン性と徹底した環境配慮を両立させた革新的なプロダクトが数多く展示されていました。このエリアの大きな特徴は、機能性や環境性能だけでなく、美的価値や使用体験の質を重視した所にあります。従来の環境配慮製品が持つ「機能性重視でデザイン性に劣る」というイメージを完全に覆す製品が並んでおり、持続可能性とライフスタイルを両立する新しい価値観が提示されていました。

エリアの中央部には、藤元明氏の《海のバベル》が展示されています。浜辺に打ち上げられた海ゴミを「資源」とみなして「作品」に作り変える、バベルの塔のように積み上げていく芸術作品です。このエリアを象徴するような「美しさと環境配慮の融合的作品」と言えます。

乃村工藝社 「noon by material record」

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「noon by material record」は、乃村工藝社が2022年から推進する「material record」プロジェクトの記念すべき第一弾として、2024年12月に発表された革新的な音響システム。建築廃材、海岸漂着プラスチック片、デニム端材、コルクとウールの廃棄物からつくられたフェルトのような生地など、9種のサステナブル・マテリアルを活用したスピーカーシステムです。「SCRAPTURE」(SCRAP+FURNITUREの造語)をコンセプトに、通常廃棄される素材を「見て、触って、知って」もらう体験型アートピースとして設計されました。実際に、レコードのように素材を展示している様子が印象的でした。

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スピーカーは、空間設計を専門とする同社ならではの発想で、建築物を彷彿とさせる柱状デザインになっています。そこに、6つの異なる帯域スピーカーと真空管アンプが積層的に配置されています。

同じ楽曲でも、どの素材の筐体から聴くかによって、全く異なる音楽体験が生まれる所が非常に面白いです。⾷品廃棄物から作られる有機物100%の素材は、温かな中音域がよく響き、デニム端材の左官材は深い低音域がよく鳴っている気がしました。さらに、アルミのメタリックな響き、天然石の透明感、銅板の金属的で渋い音色、コルク・ウールの柔らかさなど、各素材が独特の音色を生み出していました。

まるで9つの異なる楽器が奏でるオーケストラのような豊かな音の世界を堪能できます。廃材をただ活用するだけでなく、新しい音楽体験までも作り出す独創的なプロジェクトだと感じました。

関連リンク:https://rd.nomurakougei.co.jp/project/sustainable/page/noon-by-material-record

Konel 「QUON」

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「QUON」は、古着や古布などの繊維廃材を原料とする板素材から作られたファッショナブルな下駄。繊維廃材を素材とすることで従来の木下駄より足音が静かで、カラフルなテクスチャーがファッションとしての楽しみを拡張します。使用される古布の種類や色合いによって、同じデザインでも異なる表情を見せるため、自分だけの一足を見つける楽しみがあると感じました。

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特に優れている点は、すり減った歯を交換できる構造です。従来の履物では全体を買い替える必要がありましたが、QUONなら消耗部分のみ交換することで長期使用が可能となり、履き続けることでリサイクル率向上に貢献します。この仕組みはありそうで無かった非常に画期的なものだと思います。

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日本の繊維系廃棄物は年間200万トン以上です。その繊維リサイクル率は約10%前後とドイツの約65%を大きく下回っています。アパレル産業が排出する大量の二酸化炭素は、大きな環境課題となっており、対策が急務です。

展示では、その唯一無二のデザイン性に惹かれて多くの来場者が足を止め、そのサステナブルな価値に驚いていました。歩くたびに環境への貢献を実感できる新しいプロダクトに、ファッションの次なる可能性を感じることができました。

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関連リンク:https://konel.jp/works/fdahhehg42/

山神 「CYAN」

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青森県むつ湾で、ホタテ養殖から加工まで一貫して手がける株式会社山神が展開するアップサイクル事業。青森県では年間約5万トンものホタテ貝殻が廃棄されています。山神地域だけでも約7,000トンが産業廃棄物として処理されている現状を受け、山神は「Shell Cycle Project」を立ち上げました。

「CYAN」は、廃棄されるホタテ貝殻を再利用し、自然素材を活用した水性ネイル。水が主成分でネイル特有のツンとした匂いがなく、ペットや赤ちゃんがいる家庭でも安心して使用できます。トルエン、フタル酸ジブチル、カンファーなどよく使用される7つの有害成分を一切使用していません。

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ホタテ貝殻が持つ天然のカルシウム成分により、人工的な顔料では再現できない自然由来の優しく上品な色合いを表現しています。海の恵みが生み出すナチュラルな発色は、肌なじみが良く、どんな年代の方にも似合う柔らかな美しさを演出します。

除光液を使わずお湯に浸けるだけで簡単にオフでき、手洗いでは落ちない絶妙な処方を実現しました。環境に優しく、人にも優しい。美しい商品だと思いました。

関連リンク:https://cyan-shell.shop/

GX BRUTUS:雑誌『BRUTUS』とのコラボ展示

「GX BRUTUS」エリアでは、雑誌『BRUTUS』とのコラボ空間として、「BRUTUS特別編集 新しい仕事と、僕らの未来」(2025年4月23日発行)に掲載された、気候変動問題や社会課題解決に取り組む企業や人物の実際の活動が紹介されていました。雑誌メディアと連携した実践的な展示として、ビジネスの現場で成果を上げているプロジェクトを詳しく聞ける貴重な機会が提供されました。

文祥堂 「KINOWA」

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「KINOWA」は、日本の山をメンテナンスする過程で発生する間伐材を活用した家具シリーズ。素材のままの形を活かし、複雑な加工を減らすことでリーズナブルな価格とシンプルなデザインを実現しています。

「chop」は国産杉間伐材の丸太をそのままカットしたスツール。斧を一振りしたような側面のチョップが手掛かりとなり持ち上げられます。

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「beam」は国産杉間伐材の角材を使った照明器具で、背割りに模したスリットの中にLEDライトを埋め込んでいます。

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これ以上ないほど削ぎ落としたデザインは、どんな空間にも溶け込みます。製作図面は全てWebサイトからダウンロード可能で、オープンソース化により国産木材・間伐材の利用促進を図っています。シンプルな加工で素材の美しさを最大限活かす発想に、デザインの本質を見た思いがします。

関連リンク:https://www.bunshodo.co.jp/kinowa/about/

パタゴニア 「ネットプラス」

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アウトドア用衣料品を手がけるパタゴニアは、海洋プラスチック汚染対策として、世界中の漁業共同体から廃棄された漁網を回収し、100%リサイクルした素材「ネットプラス」を開発。毎年65万匹以上の海洋動物が漁具により命を落としたり負傷している問題に対し、カリフォルニアのブレオ社と協働で解決策を考案しています。今回は、アウトウェア製品が展示されていました。

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南米で開始された漁網回収プログラムは現在9か国に拡大。回収された網は分別・洗浄・切り刻みを経て100%追跡可能なポストコンシューマー原料にリサイクルされます。今シーズンは、なんと600トンの廃棄された漁網をリサイクルして製品に使用しています。

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実際に、製品に触れてみましたが、頑丈でアウトドアにも活きる素材だと感じました。600トンという量を実際にリサイクルできるパタゴニアの実効力は本当にすごいと感じました。

関連リンク:https://www.patagonia.jp/netplus/

おわりに

TOKYO GX ACTION CHANGINGの後編では、植物発電から路面太陽光発電、廃材アップサイクルまで極めて多様な脱炭素技術とビジネス実践例を体験できました。どの展示も技術革新と環境配慮を高次元で両立させており、2050年の脱炭素社会実現への具体的な道筋を示す貴重な機会となりました。

特に印象的だったのは、botanical lightのような自然共生型技術から、QUONやCYANのような廃材を美しい製品に変える創造力まで、イノベーションのアプローチが極めて多彩だったことです。来場者は未来の生活スタイルを具体的に体感でき、脱炭素を「制約」ではなく「創造の源泉」として捉える新しい価値観に触れることができました。

このイベント全体を通じて感じられたのは、脱炭素が「負担」ではなく「イノベーションの契機」として位置づけられ、技術・デザイン・ビジネスの各分野で実現可能な解決策が具体的に示されていたことです。展示された技術や製品は、いずれも実用化段階に達しており、2030年カーボンハーフと2050年ゼロエミッション東京という野心的な目標の実現可能性を具体的に感じさせるものでした。また、多様なステークホルダーが協力することの重要性も再認識させてくれました。産学官民が一丸となってGXを推進する必要性が、これからますます高まることを強く示した、非常に意義深い場となりました。

前編はこちら

TOKYO GX ACTION CHANGING イベントレポート【前編】を読む

(取材・文・撮影:杉浦万丈)

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