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2026.06.24

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2026」初日レポート:クルマをカエルに、フィールドをバーコードに、潮力発電を宇宙開発に

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毎年6月に南フランス・カンヌで華々しく開催される世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」。会期中は、数百にも及ぶ講演やセッション、活発なネットワーキングイベントに加え、権威あるカンヌライオンズ賞の授賞式が執り行われます。今年も、ガリアーノインスピレーションズ代表の阿部光史が、特に注目する作品群をご紹介します。
(文:阿部光史)


カンヌライオンズ2026が開幕した。

今年のカンヌは、やはりAIの話題から始まっていた。実際、会場のあちこちからAIやAgentという言葉が耳に入ってくる。しかし初日を終えて印象に残ったのは、結局最後は人間の話になってしまうという、ごくごく基本的な事実だった。

1782158568-3NZPCWGKi4fJVwMoBOvI2Y8U 冒頭に流れるスティーブ・ジョブスの映像

Appleセッション

Eddy Cue × Jerry Bruckheimer

初日の昼に参加したのはAppleのセッション。登壇したのはAppleのSVP of Services and Healthであるエディ・キュー(Eddy Cue)氏と、ハリウッドを代表する映画プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー(Jerry Bruckheimer)氏だ。

セッションではApple TV+やスポーツ配信、映画『F1』のプロモーションなど、Appleがエンターテインメント領域で進めている様々な取り組みが紹介された。例えば同『F1』では、市販のiPhoneにはまだ搭載されていないカメラ技術が撮影に投入され、その過程で得られた知見が後のiPhone開発にもフィードバックされたという。Appleの技術チームによる協力体制について、ブラッカイマー氏も何度も感嘆の言葉を口にしていた。

しかし印象に残ったのは技術ではなく人の話だった。

1782158618-kKUP7lc1EfdSXnmoYx35zyWi 左がブラッカイマー氏、右がキュー氏

何も無い所からAppleのドラマ・映画部門を作り上げたCue氏は「良いアイデアが生まれたら、その実現のために最高の才能を集める」と語った。現在のApple TV+や映画制作の状況をスティーブ・ジョブズ氏が見たら、きっと喜んでくれるだろうとも語った。一方で82歳になった今も現役で作品を作り続けるBruckheimer氏は「映画が当たるかどうかは最後までわからない」と話した。数々の大ヒット作を送り出してきた人物ですらそう語る。AIによって予測可能性が高まる時代に、世界最高峰のエンターテインメントの現場から聞こえてきたのは、「最後は人だ」「ヒットは予測できない」という話だった。

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Future Gazers #1

未来予測セッション

続いて参加したのは3日続く未来予測『Future Gazers』の1日目。Dentsu CreativeのPats McDonald氏、Pantone Color InstituteのLaurie Pressman氏、PHDのMatt Ticehurst氏が登壇し、今後18か月のトレンドについて語った。

セッションではAI生成コンテンツの急増や、AIエージェント経由のトラフィックの拡大などが紹介された。AIの社会への浸透スピードはさらに加速する、という前提で議論が進んでいた。ところが全員の結論は、意外なほど似通っていた。

例えばLaurie Pressman氏が強調したのは、Emotion(感情)、Empathy(共感)、Tactility(手触り)というキーワードだった。AIが増えれば増えるほど、人は人間らしさを求めるようになる。ブランドは機能を提供するだけではなく、感情体験を設計しなければならない。未来予測のセッションなのに、最後は極めて人間的な話に着地していた。

では今日発表されたグランプリの中から面白かったものを紹介しよう。

Audio & Radio Grand Prix

Coquí Alarmed

クライアントはHyundai Puerto Rico、制作はBBDO Puerto Rico。

発端は観光客によるredditの投稿だった。プエルトリコの象徴であるカエル「コキー」の鳴き声を「うるさいから殺したい」と投稿したことが炎上したのである。

そこでHyundaiは、観光客の間でカエルに対する好感度を高めるために、レンタカーの施錠音をコキーの鳴き声に変更した。観光客は車をロックするたびにコキーの声を聞くことになる。さらに車内には、その文化的・生態学的意味を説明するタグが設置された。

結果として7000人以上の観光客に直接リーチし、文化と生態系への理解を促すことに成功した。

ここ数年のカンヌライオンズ受賞作を見ていて感じるのは、既存のものを別のものに「言い換える」アイデアの強さだ。この作品だと、「クルマをカエルに変えた」という部分がわかりやすく面白い。会場でも大きな笑いが起きていた。

技術的には警報音を変えただけ。しかしその瞬間、クルマは単なる移動手段ではなく、プエルトリコ文化を語るメディアへと変わったのだ。

Outdoor Grand Prix

Field Barcode

クライアントはブラジル最大級のEC企業Mercado Livre、制作はGUT São Paulo。

Mercado Livreは歴史あるサッカースタジアムのネーミングライツを取得したものの、「カメラが映る範囲に企業名を付けるな」という反発があった。そこで彼らはスタジアムの芝生そのものを巨大なバーコードに変えることにした。

104メートルのバーコードをピッチ上に描き、観客やテレビ視聴者が読み取ると25%オフクーポンを取得できる仕組みを作った。結果として53000件以上のクーポン利用と大きな売上を生み出した。

この作品も、タイトルの文字通り「フィールドをバーコードに変えた作品」だった。

サッカー場は本来スポーツを楽しむ場所である。しかしその見立てを少し変えるだけで、巨大なECインターフェースになってしまうのが面白い。

Creative B2B Grand Prix

The Faroe Islands Space Program

クライアントはSKF。ベアリングなどで知られるスウェーデン企業だ。

彼らが伝えたかったのは3つの企業が集まり、フェロー諸島で進められている潮力発電技術だった。しかし「潮力発電はすごい」と説明しても、宇宙に注目が集まっている現代、誰も興味を持ってくれない。

そこで彼らは発想を転換した。潮力発電は月の引力によって生まれるエネルギーである。ならばこれは「月のエネルギーを利用する技術」だと言えるだろう。そして、そのプロジェクトを「宇宙開発」と言い換えることにした。もちろんロケットは飛ばない。宇宙にも行かない。しかし彼らはこれを「地球を離れない宇宙計画」として世界に発信した。結果として世界中で1400件以上の記事掲載を獲得し、B2B技術を社会的な話題へと変えることに成功した。

この作品は「潮力発電を宇宙開発に変えた作品」だった。

技術は何も変わっていない。変わったのは見立てだけ。しかし見え方を変えた瞬間に、人々が語りたくなる物語へと変身した。

1782158950-EKsUjaDxi5mV8BNGAkdv3Chn スターツアーズのドロイドが来てた

初日に見えた共通点

Appleも、Future Gazersも、AIがどこまで進もうが、最後は人間が人間のために作るという話だった。そして受賞作を見ていて面白かったのは、「人間らしさ」がどこに現れていたかだ。

それは技術そのものではなく、「見方を変える力」に現れていたと思う。

  • クルマをカエルに変える。

  • フィールドをバーコードに変える。

  • 潮力発電を宇宙開発に変える。

どれも新しい技術を駆使しているわけではない。世界を少し違う角度から見せることで、人が思わず振り向く物語に変えている。広告を見る目が厳しいカンヌの参加者をニヤリとさせる力がある。AIがコンテンツを大量に作る時代だからこそ、「何を作るか」よりも「どう意味づけるか」が重要になっているのかもしれない。

さて、明日はどんな見方の転換に出会えるだろう。


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
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