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2022.03.29
レポート | 知財ハンターがやってみた
「brighter Redact」から映像加工技術の未来を妄想してみた
スマホやアクションカメラでの動画撮影が手軽になり、誰もが身の回りを撮影できる現代。世界的に問題となっているのが、写真や映像に映り込んでしまった人の肖像権の問題です。特にEU圏では、2016年にGDPR(EU一般データ保護規則)が制定されて以降、街角での撮影がかなり難しくなったようです。
だったら、通行人の顔にモザイクかけちゃえばいいのでは…?と思っている読者の皆さん。確かにその通りなのですが、動くものにピンポイントでモザイクをかけるのは実はとんでもない時間と労力がかかります。それに、映像や写真に映る顔にモザイクをつけると、その人が男性か女性かくらいはわかるとしても、年齢層や人種、表情といった映像の中の情報量が落ちてしまいます。
映り込んだ人の肖像権やプライバシーを守りつつ、映像から得られる情報の質と量を担保する。そんな一見不可能に思える「いいとこ取り」な技術がありました。それが今回紹介する、次世代匿名加工技術のリーディングプロバイダー・brighter AI(ブライターエーアイ、本社:ドイツ)が提供する、「brighter Redact(ブライター リダクト)」です。
■「brighter Redact」の仕組み
「brighter Redact」は、映像内の顔やナンバープレートをAIで自動認識し、ピンポイントで加工できるWebサービスで、サブスクリプションモデルとして手軽に利用ができます。「brighter Redact」の映像の加工方法は2つ。1つ目は、おなじみの「モザイク処理」。「Precision Blur(プレシジョン ブラー)」と呼ばれる加工技術です。
「Precision Blur」の場合、従来の手法より正確かつスピーディーに処理できて、ランダムノード式でモザイクをかけているので除去される心配が少ないとのこと。コンピュータ・ビジョンと機械学習を組み合わせているので、従来の類似サービスでありがちな誤認識もほとんどないそうです。プライバシーを守るには確かにこれでも十分ですが、もっと自然に映像を処理したり、そこにいる人がどんな人なのかが推測できないといった課題があります。
プライバシーは最大限に配慮したい。同時に、そこにいる人の属性情報などのメタデータは最大限に抽出したい…。そんな要望を叶えるソリューションが、2つ目の「DNAT(ディーナット:Deep Natural Anonymization)」という加工技術です。
これは、顔を40,000以上のポイントとして解析し、特徴点を活かしつつ、あるポイントだけを変えることで、個人を特定できないようにする手法だそうです。同社のデータでは、同一人物のマッチング率が16%まで下がるという結果が出ているようです。そこで早速「brighter AI」が提供する体験版を試してみました!
■「DNAT」で遊んでみた
試してみたのは、弊社のテクニカルディレクターの画像。上が元の写真で、下の写真が「DNAT」で処理した後の写真です。
なんでしょう、この絶妙な違和感は…。確かに同一人物とは言い難い顔に仕上がっています。これならプライバシーを確保しつつ、性別、年齢、人種といった基本の属性情報はそのまま残っていますし、顔立ちや表情といった感覚的な情報も確保されていますね。
ついでに弊社の集合写真でもやってみました。
こちらはあえて解像度が粗いものを使用しているため、一見、全体の雰囲気はそのままのように見えますが、よく目を凝らして見ると、全員顔が微妙に変わってるのが分かります。どこの会社の集合写真なんだ...?という気持ちになりました。
この「DNAT」では、標準で提供される顔の置き換えタイプが固定されているのですが、個別にサービス元に依頼することで、カスタムプロファイルを作成し、顔の表情を若くしたり、人種を変えたり、細かくアレンジすることも可能です。国家間の写真や映像の共有が難しくなっているEU圏では、国を超えたオンライン医療や自動運転用学習データ共用などにも使われているようです。
今回ご提供いただいたトライアルアカウントではWeb上からだけでなくbrigherAIの提供しているAPIもテスト利用可能なため、実際に触ってみました。
WindowsでPowerShellからcurlでテストしてみましたが、APIキーと共に画像をポストするだけで使え、非常に手軽に扱える印象を受けました。
また開発者ドキュメンテーションは各種言語でのサンプルが提供されており、アプリやWebサービスにも組み込みやすそうです。画像処理には数秒、映像の場合は処理する環境のスペックにもよりますが、映像の長さのおよそ5倍程度時間がかかるということですが、高速処理を謳っているだけはあり、特に画像を扱っている場合はほとんど時差なく処理した映像を受け取れる印象を受けました。
■止まらない妄想
知財ハンターの琴線にふれた「DNAT」の技術。「brighter Redact(ブライター リダクト)」に触れた彼らの口から、湯水のように妄想があふれ出します。
「インタラクティブ系の展覧会だと、レポート動画を作りたくても、一般の人が映っていて使えないケースがあるので便利ですね」
「エンタメ方面でもアニメ『攻殻機動隊』に登場する笑い男のキャラクターみたいに、みんなをなにかのアイコンや同じ顔にすると面白そう」
「車のナンバーだけじゃなくて、街中の広告看板を置き換えられるとどこの国かわからなくなりそう」
以下、知財ハンターが考えた「妄想アイデア」を挙げてみます。
絶対に顔がバレないアーティスト
「DNAT」を使えば、SNSのアカウント写真を全て違う人にすることが可能。バンクシーのように本当の顔が絶対に分からないアーティストが生まれる?
初対面でも好印象を保てるアプリ
オンラインの打ち合わせなど、画面越しの打ち合わせはどうしても顔が固くなってしま うもの。そこで「DNAT」を利用すれば、固い表情をリアルタイムで笑顔にするアプリが出来る?
自撮りが絶対に撮れないカメラ
カメラで撮影した画像をクラウドにアップして、「DNAT」を経由する仕組みにすれば「絶対に自分の顔が映らないカメラ」ができるかも?
通行人や映り込む人の顔だけ加工するカメラ
「自撮りが絶対に撮れないカメラ」とは反対に、通行人や映り込む人の顔だけ加工でき れば、肖像権を気にせずにどんなロケーションでも撮影が可能。プライバシーへの意識が薄いYouTuberなどが導入することで、ジャーナリストYouTuberが増えるかも?
「微妙に顔が違う」美術館
肖像画の顔も加工できることから、微妙に顔が違うモナリザやゴッホの自画像が展示してある美術館があれば、世界中の名画の雰囲気を味わえるかも?
動物の顔が微妙に違う「おもしろ動物園」
「brighter Redact」の技術を搭載したスマートグラスを活用すれば「動物たちの顔が微妙に違う別の生き物になる」、今までにない動物園を体験できるかも?
他にも「映像だけでなくメタバースで使っても面白そう」「自分の顔を理想の顔に変えれたら面白そう」など、たくさんの妄想アイデアが出てきました。
■「brighter AI」の次世代加工技術をやってみた結果
体験版をやってみて、「brighter Redact」は時代のニーズに即しただけでなく、とても応用の可能性のある技術だということが分かりました。ちなみに「brighter Redact」は幅広い画質に対応しており、暗い場所で撮影された映像や手ブレがある映像にも適応可能。また、初期設定では顔とナンバープレートのみがターゲットですが、カスタマイズ次第で様々な対象をターゲットに設定できるそうです。
そういった意味でも、今後、様々に革新が起こるであろう視覚表現の世界をセキュリティ面からサポートし、クリエイターの創造性をくすぐる技術だということが分かりました。
良かった点:
個人の属性情報や映像のクオリティを担保しながらプライバシーを保護できる
APIとしても利用でき、誰でも簡単に取り扱える
従来の類似サービスと比べて、正確かつスピーディーに処理できる
期待したい点:
企業向けだけでなく個人クリエイター向けサービスとして、様々なカスタマイズメニューが提供されると便利そう
顔やナンバープレート以外に、看板や広告ラベルなどにも適用できたらいいかも
以上、「brighter AI」の次世代加工技術を実際に使ってみての体験レポートでした。
<「brighter Redact」デモ版を体験したい>
brighter AIは、株式会社マクニカと販売パートナーシップを締結しています。「brighter Redact」のデモ版体験のご希望や、製品に関するお問い合わせは、下記フォームより《株式会社マクニカ brighter AI 担当》 までお気軽にご連絡ください。
文:知財ハンター/柴田悠、後藤祐介