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2024.08.08
レポート
【東レ×千葉大学】 産学連携で“素材”の未来を探求する、「RAY TO Material」プロジェクトレポート
ものづくりに欠かすことのできない「素材」。新たな機能や心を揺さぶる質感など、その多様さはクリエイターの発想を刺激し、世の中にまだ見ぬプロダクトを生み出すきっかけをもたらしてくれます。
そんな素材・材料の可能性を探求し、若手クリエイターと共にプロトタイプを生み出す産学連携プロジェクト「RAY TO Material」が、東レ株式会社×千葉大学×クリエイティブカンパニー Konelの共創により2024年7月に始動しました。
授業が行われた、千葉大学 西千葉キャンパス 工学部2号棟
2回の授業を通し、千葉大学工学部デザインコースの学生たちと共に素材を起点としたアイデアのプロトタイプをつくりあげていくこのプロジェクト。授業のテーマとなるのは、素材産業のリーディングカンパニーである東レが開発したスエード調人工皮革「Ultrasuede®(ウルトラスエード®)」です。
ウルトラスエードは1970年の販売開始以降、東レを代表とするブランドとして、そしてジャパン・クオリティの最先端素材として、基本的な製造技術は変えずに技術革新を繰り返してきた素材です。ファッションやインテリアのみならず、自動車や航空機の内装、靴・鞄などの雑貨、スマートフォン・モバイル機器のケースやアクセサリー製品など、ライフスタイルのさまざまな領域と産業・研究分野で活躍しています。
直近の事例として、ブリヂストン・Konelと共創したゴム人工筋肉技術を活用した、やわらかいロボット「Morph(モーフ)」にもウルトラスエードは採用されています。
今回の産学連携プロジェクト「RAY TO Material」では2回の授業を通して、東レとKonelによるウルトラスエードの情報インプット、そして千葉大の学生たちによるウルトラスエードを活用したアウトプットのプレゼンが行われました。
ウルトラスエードの強みとイシューのインプット
「RAY TO Material」プロジェクトの幕開けとなった2024年7月11日。まず、講師として登壇したのはやわらかいロボット「Morph(モーフ)」の実装も手がけたKonelのプロダクトデザイナー 都 淳朗 氏。今回の「材料計画演習」の授業を受け持つ寺内教授の教え子でもあります。
「みなさん普段から、材料、触ってますか? 手、動かしてますか?」という問いかけを皮切りに、今回のプロジェクトへ込めた想いと期待、そして学生たちに提出してもらう課題の要件が語られました。
都 淳朗(Konel Inc. Product designer/Producer)。1996年生まれ、徳島県出身。2021年千葉大学大学院(材料計画研究室)修了・株式会社コネル入社。テクノロジーや材料の特徴を活かし、コンセプトを体現する形をデザインし未来の体験を実装する。
そして、今回のお題となるウルトラスエードの情報インプットへ。日本での布の生産量は年間約18憶㎡、そのうち規格外品として無駄になってしまう布は約900万㎡以上と推測されています。東レが生産するウルトラスエードにも、素材の仕上がりを確認するためのサンプルとして、どうしてもまとまった量の端材が生まれてしまうそう。品質チェックを終えたサンプルに新たな用途を見出し、アップサイクルするための企画・サービス・ビジネスモデルをデザインすることが今回の課題です。
板山 静季/東レ株式会社 ウルトラスエード事業部 ウルトラスエード課 ファッション・生活資材グループ
まずは理解を深め発想を広げるため、ウルトラスエードの特徴について東レ ウルトラスエード事業部の板山 静季 氏から説明。ウルトラスエードを一言で説明するならば、ポリエステルとポリウレタンを用いた、不織布構造から成る"スエード調人工皮革"。髪の毛よりも遥かに細い繊維が絡み合う構造によって、天然皮革スエードよりも優れた機能を多数有しています。
ウルトラスエードの特徴
ソフトな手触り、上質な素材感
美しい発色、多彩なカラーバリエーション
優れた耐久性
適度な通気性・透湿性
暑さ寒さによらない、快適な表面温度
お手入れが簡単な高いメンテナンス性
リサイクルPET、植物由来PETの導入
軽くて均質、素材としての使い勝手のよさ
多様なバリエーション・機能・用途
断ち切りや後加工が自由自在の意匠性
ウルトラスエードはこうした特徴から、アパレルやスポーツ業界を中心に、家具や自動車、電化製品のケースなど幅広い用途で活用されています。優れた加工性、摺動性、高い復元性、吸水性、吸音性を活かしてカメラレンズの内部材や、オーディオのディスクカーテン、生産ライン上の給油ロールなど生活のさまざまなシーンで活躍しています。
学生たちはウルトラスエードが使われた既存のプロダクトや、実際に生じてしまう端材を触りながら、それぞれの興味関心と照らし合わせてアイディアを発想。それを持ち帰り、さらに2週間をかけてそれぞれ企画を練り上げ、プロトタイプの制作に取り組んでいきます。
若きクリエイターによる、プロトタイプのプレゼンテーション
第一回の授業から2週間が経ち、いよいよ学生たちによる発表の日。学生たちは持ち帰ったウルトラスエードの端材から作成したプロトタイプを手に壇上に上がり、東レ・ウルトラスエード事業部のメンバーへと自らが考案した実装アイデアを直々にプレゼンテーションしていきます。ここからは、学生が提案した20を超えるアイデア・プロトタイプから、厳選した5つをピックアップして紹介します。
IDEA① Moist Fan/ウルトラスエードでひんやり涼しい
扇風機のファンや背面にウルトラスエードを貼り、気化熱で冷えた風を送るアイディア。水を弾いたり保持できなかったりする普通の布とは異なる、ウルトラスエードの高い吸水性に着目したものです。質感やカラーバリエーションも多様なため、扇風機のデザイン性向上にもつながります。
吸水性に着目したアイディアの優位性や、気分に合わせてデザインを変えたり、霧吹きがあれば継続的に使えたりといった実用性が高く評価されました。意匠と機能がうまくマッチした、発展性の見込めるアイディアです。
IDEA② Ultra Summer Holder /夏場におしゃれしたい人へ勧めるボトルホルダー
こちらはウルトラスエードを用いたボトルホルダー。色落ちや色移りしやすい本革素材の欠点を補い、カバンの中でも濡れづらく、傷がつきにくいアイテムとして発案されました。A4一枚におさまる型紙から作られた完成度や製造プロセスの明瞭さ、飲料メーカー・スポーツ用品店とのコラボレーションなども見込んだ発展性の高さが評価されました。
IDEA③ Ultra Grider Capo / No Humid, Be Smooth
ギターを演奏する学生が制作したのは、弦を調整するためのグライダーカポにウルトラスエードを巻きつけたもの。ギターの素材に手汗がついたり、演奏に影響が出たりすることを回避できます。程よい摩擦を担保する摺動性は、グライダーカポとしての機能とも相性が抜群。見た目も無機質なゴムではなくウルトラスエードならではの質感に変化し、ポジティブな印象を与えるものとなりました。
すでにピアノや木管楽器、譜面台などにはウルトラスエードの採用事例があるものの、ギターは新しいアプローチとのこと。肩掛け用のストラップではなく、演奏に直接関わるカポとして使うことに新鮮さが感じられました。
IDEA④ ウルトラ猫じゃらし(アオ太郎)
こちらのヘビのような形のアイテムは、ひも状にカットしたウルトラスエードを編んで作った「猫じゃらし」。断ち切りやすく、穴を開けても丈夫という特性に着目し、接着剤を使わないペットフレンドリーな玩具が完成しました。既存品のように装飾品が外れ、誤飲されてしまうリスクもありません。ひも状のウルトラスエードを編んで立体化する着眼点や、鎖編みのテクスチャと蛇というモチーフの親和性、キットとしての提供も見込める応用性などが高く評価されました。
IDEA⑤ Detachable Pocket/気分で変えられるポケット
装着した違和感のなさに思わず笑顔のKonel・都 氏
洋服を大量に買ってしまうことが悩みだという学生は、ウルトラスエードで作った着脱式のポケットを発表。磁石が組み込まれているため、衣服の表裏で挟み込むようにして装着でき、位置やバリエーションも自由に変更できます。一枚のTシャツでも、シチュエーションに応じて使い分けられるようになるアイデアです。
近年のミニマリストブームとも相性が良いと分析し、ブランドとのコラボレーションや鞄への転用など、応用の幅をポジティブに評価しました。このクオリティを支えているのがウルトラスエードならではの耐久性や質感で、装着しても不快感がなく、チープに見えない効果が発揮されていました。
ウルトラスエード×学生たちによる化学反応
2回の授業にはウルトラスエード事業部のメンバーも参加し、アイデアを発表する学生たちと質疑応答や交流を交わしました。最後のプレゼンテーションと講評を終えた東レのメンバーに、初回となった「RAY TO Material」プロジェクトの感想を伺いました。
藤田 泰史/東レ株式会社 新流通開拓室 室長
【東レ 新流通開拓室・藤田 氏】
「東レは繊維素材を幅広く取り扱っており、ウルトラスエード事業部として貴重な時間をいただきました。限られた素材と時間の中から生まれた、ユニークなアイディアや着眼点に驚かされました。ウルトラスエードの特性をよく理解されており、会社としての事業でも参考にできることがありそうです。素材には多くの可能性があり、扱い方で価値が如何様にも変化します。私も全身に東レ素材の服を着て、日々色々なことを感じていますが、そうした素材の奥深さを感じてもらえていたらありがたいです。」
片倉 武/東レ株式会社 ウルトラスエード事業部 ウルトラスエード課長 ファッション・生活資材グループ
【東レ ウルトラスエード事業部・片倉 氏】
「今回のプロジェクトでは、2週間という短い期間で素材の特徴をしっかりと理解していただき、楽しく話を聞かせていただきました。さらに半年ほど時間をかけてブラッシュアップするのも面白そうですね。せっかくできたご縁ですので、ウルトラスエードという素材に触れた経験を、社会に出てからも思い出していただけたら嬉しいです。東レは美術系大学とも産学連携を行っており、そこでは主に服飾系の学生がクオリティにこだわったアウトプットを見せてくれます。今回は総合大学ならではの、生活に根ざした多様な視点を感じることができました。今後はプロダクトの質やビジネスプランにさらにこだわった、学生の個性が際立つアウトプットに期待したいです。」
板山 静季/ウルトラスエード事業部 ウルトラスエード課 ファッション・生活資材グループ
【東レ ウルトラスエード事業部・板山 氏】
「あったら良いな、と思えるアイディアとたくさん出会えました。どうしても生まれてしまう端材の特性を活かし、ランダム性による違いを楽しんだり、ちょうど良いサイズのアウトプットを探求したり。ウルトラスエードの断ち切りやすさを活かして、編み込むように立体を展開していたアプローチには驚かされました。端材にもニーズがあることを確認できたので、何か良い形で提供できるようにしていきたいです。アップサイクルを通じて素材の新たな価値を見出す本プロジェクト。まっさらの視点で素材に取り組む学生たちの自由な発想とアウトプットは、スペシャリストたちにも新たな刺激をもたらしていたようです。産学連携から生まれたRAY TO Materialプロジェクト、今後の拡張に期待が持てる特別な2週間となりました。」
<ウルトラスエード 公式サイト>
https://www.ultrasuede.jp/
<ウルトラスエード お問い合わせ>
https://www.ultrasuede.jp/contact/?s=https://www.ultrasuede.jp/
TEXT:Yoshihiro Asano/Photo・Edit:Shingo Matsuoka