Pickup
2025.01.14
レポート
【CES2025】特別セッションレポート ─ 生成AIが切り拓く、メディアとエンターテインメントの新時代
NVIDIA Corporation
米国・ラスベガスにて開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2025」。知財図鑑はメディアメンバーとして現地に向かい、出展企業ブースや出展カンファレンスへの取材を行いました。本記事ではそれらの様子を紹介していきます。
※当記事は知財ハンターがCES2025に取材参加し、セッション内容を即日文字起こししたものを再編集したものです。
はじめに ─ AIによる革命と機会創出の現場から
CES 2025で行われた特別セッションでは、「生成AIがメディア・エンターテインメント業界に与える影響」というテーマで、AWS、Metaphysic、NVIDIAという業界をリードする企業から代表者が登壇しました。このセッション「Leadership Roundtable: AI Entertainment & Technology Visionaries」は、単なる技術紹介にとどまらず、生成AIが業界構造に与える影響や、これに伴う新たなチャンスについて深く掘り下げたものです。
登壇者は以下の4名です:
Samira Panah Bhakyar(AWS メディア・エンターテインメント部門 ゼネラルマネージャー)
Ed Ulbrick(Metaphysic 社 CCO 兼 EVP)
Richard Kerris(NVIDIA メディア・エンターテインメント部門 副社長)
Seth Hallen/モデレーター(Hollywood Professional Association (HPA) 会長)
生成AIの活用による“戦略的アンロック”とは?
最初に登壇したAWSのSamira Bhakyar氏は、「生成AIを用いることで、これまで手付かずだったコンテンツ資産の価値を引き出す“戦略的アンロック”が可能になる」と述べました。具体例として、以下のような取り組みが紹介されました。
アーカイブ映像の再活用
過去数十年間にわたり蓄積された膨大な映像資産をAIで解析し、未使用だったアーカイブ映像を新たな形で活用する試みが進んでいます。生成AIを用いることで、古い映像から自動的に不要なノイズや埃を除去し、鮮明な映像に復元できるようになりました。また、映像に含まれる人物やブランドロゴを自動検出し、メタデータを付与することで、広告の最適な配置や新たな視聴体験の創出も可能になります。
効率化と新しいクリエイティブ創出の両立
Samira氏は、生成AIを用いて従来の手作業による作業工程を大幅に効率化しつつ、新しい種類のクリエイティブを生み出すことができると述べました。「生成AIは、人間の能力を拡張するツールであり、それを活用することで業界全体の生産性向上と新しい機会の創出が可能になる」と語っています。
リアルタイムAIがもたらす次世代エンターテインメントの可能性
NVIDIAのRichard Cares氏は、リアルタイムAI技術の未来について熱く語りました。現在、映像制作の多くは事前に準備された素材を編集するという方法を取っていますが、リアルタイムAIが普及することで、映像の一部を視聴者ごとにリアルタイムで変更することが可能になります。
視聴体験のパーソナライズ
例えば、同じ映画を視聴していても、地域によって映像内のブランドが異なるといったハイパーローカリゼーションが実現します。これにより、広告の効果を最大化し、視聴者の没入感を高めることができます。Cares氏は、「親が子供向けに映像内の暴力表現を減らすといったカスタマイズも可能になる」と述べ、視聴者がコンテンツを制御できる未来の可能性を示唆しました。
新しい収益モデルの構築
AIを活用することで、リアルタイムに適切な広告やコンテンツを差し込むことが可能になり、収益化の新たな手法が生まれます。「今後数年で、リアルタイムAIがエンターテインメント業界の標準になる」とCares氏は語り、この技術革新が業界にもたらすインパクトの大きさを強調しました。
生成AI時代の雇用:消失ではなく変化と創出へ
Metaphysic社のEd Ulbrick氏は、生成AIの導入による雇用の変化について語りました。「かつては数百人規模のチームで何カ月もかけて制作していた作業が、現在では数十人で数週間以内に完了できるようになった」と述べ、生成AIの効率性を強調しました。しかし、これは単に雇用が減少するという話ではなく、新しい種類の仕事が生まれていると説明します。
新しいスキルを持つ人材への需要
Ulbrick氏は、「新しいツールを使いこなすデジタルアーティストやエンジニアの需要が急増している」と語り、これからの時代に求められる人材像を提示しました。特に、CGIを使いこなしてきた経験を持つベテランアーティストは、新しいツールを駆使する上で大きなアドバンテージを持つといいます。
物語の力は変わらない
Ulbrick氏は、「技術がいくら進化しても、最終的には物語が重要だ」と強調。優れた物語を描くスキルはこれからも普遍的な価値を持ち、AIはそのための強力なツールになると述べました。
エンターテインメント業界の民主化 ─ チャンスはすべての人に
生成AIによって、これまでハリウッドのような大手制作スタジオでしか実現できなかった映像制作が、少人数でも可能になりつつあります。NVIDIAのCares氏は、「今後は少人数のチームや個人クリエイターによる映画がアカデミー賞を獲得する時代になる」と述べ、技術の民主化によって新たな才能が世に出る機会が増えることを期待しています。
また、Samira氏は「知的財産(IP)の多角的活用」に言及し、映画や音楽、ゲームが連携することで、これまでにない新しいエンターテインメント体験が可能になると述べました。たとえば、ゲーム内でのライブコンサートや、インタラクティブな映像体験がその一例です。
まとめ ─ 生成AIが開く新時代、求められるのは積極的な姿勢
今回のセッションを通じて示されたのは、生成AIやリアルタイムAIによる革新がもたらす「恐れ」ではなく「機会」というポジティブな視点です。登壇者たちは共通して「この変化を恐れず、積極的に取り組むことが重要だ」と強調しました。
今後、AI技術を活用した効率的な制作環境と、人間の創造性を生かした魅力的なコンテンツの両立が求められます。エンターテインメント業界は、これまでも技術革新を受け入れながら発展してきました。今回のAI技術の波も、その歴史の中で新たなページを刻むものになるでしょう。
Leadership Roundtable: AI Entertainment & Technology Visionaries (CES2025公式サイト)
© CTA 2003—2025
この記事のタグ