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2026.07.06

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2026」4日目レポート:スニーカーを変革のシンボルに、会社全体を賞品に

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毎年6月に南フランス・カンヌで華々しく開催される世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」。会期中は、数百にも及ぶ講演やセッション、活発なネットワーキングイベントに加え、権威あるカンヌライオンズ賞の授賞式が執り行われます。今年も、ガリアーノインスピレーションズ代表の阿部光史が、特に注目する作品群をご紹介します。
(文:阿部光史)


日本、決勝進出!熱気と寝不足の後半戦

現地時間、夜の1時。カンヌの一角に日本人参加者が集まり、サッカー日本代表の決勝進出に沸いた。パブリックビューイングの熱気は凄まじかったが、過酷なカンヌの後半戦を生き抜くため、私はハーフタイムで退散してベッドに潜り込んだ。

さて4日目のレポートである。生成AIの普及で、誰もが綺麗なアウトプットを一瞬で作れるようになったが、同時にあらゆる情報がますます不確実になっている。いま人間は何を基準に「本物」と認め、何を信じるのか。そのヒントは、ラグジュアリーとテックが交わるステージにあった。

1782498970-gGJv6iBLrDYqCUNReHkomEQn Everyone is a Seller: Circular Commerce is Redefining Creative Industries

ステラ・マッカートニー×eBay:すべてが「資産」になる時代の信頼

登壇したのは、持続可能なラグジュアリーブランドの開拓者ステラ・マッカートニー(言わずと知れたポール・マッカートニーの娘である)と、eBayのCEOジェイミー・イアノーニ。テーマは、循環型コマースがもたらすクリエイティブ産業の再定義だ。

若者世代にとって古着は単なる節約ではなく、最もクールな「個性の表明」へと変貌している。古着素材を自社ブランドの素材の一つとしているマッカートニー氏は「私にとってラグジュアリーとは、世代を超えて受け継がれる価値そのもの」と語り、最初から何世代も持つように製品をデザインしているという。

1782498985-gIAUxWKMu5ystrFfC2H3qdwa eBayのCEOジェイミー・イアノーニ氏とステラ・マッカートニー氏

またマッカートニー氏は、自社の製品はプラスチックや皮を使わず、分解される素材を選択していると語った。

ここで興味深かったのが、eBayによる「AIの正しい裏方論」だ。

彼らはスマホをクローゼットの衣類にかざすだけで、AIが自動認識して一瞬で出品を完了させる機能を導入した。ここでのAIは、人間が「面倒くさい」と感じる摩擦を消し去る裏方に徹している。

しかし、出品が簡単になればなるほど偽物のリスクも高まる。そこでeBayが巨額の投資を行っているのが、人間の目による「リアルな鑑定(Authenticity Guarantee)」と電化製品の整備を中心とした長期保証だ。この「確かな信頼」への投資により、前年比24%の成長という結果を叩き出している。

AIがプロセスを極小にする世界だからこそ、プラットフォームが売るべき究極のバリューは、テクノロジーの凄さではなく「信頼」という通貨なのだ。

1782499067-8nJsKrVmbf23evzCq5M0i1RF Crafting the Next

ピラミッドそうめん店で見た、AI映像の「現在地」と過渡期のリアル

カンヌではあちこちで、日本のトップ映像制作会社が憩いの場を提供してくれている。夕刻にその中の一つ「ピラミッドそうめん店」へ向かい、そこで開催されたAIセミナー『Crafting the Next』に参加した。登壇者はGEN CRAFTのディレクター橋本伸吾さん、ピラミッドフィルムのAIディレクターYUUUKIさんと河野将太プロデューサー。

会場では、YUUUKIさんが手がけた7分間のフルAIアニメーション『ポストマン』と、橋本さんが東京の街を彷徨う妖怪たちをドキュメンタリータッチで描いた『TOKYO LIMINAL』の2作が上映され、その裏側の貴重な制作過程などが披露された。

しかしその後のディスカッションで明かされた「カンヌ本戦におけるAIの扱い」はなかなか冷徹なものだった。

今年からフィルムクラフト部門には、鳴り物入りで「AIクラフトサブカテゴリ」が新設された。しかし、世界中から集まったフィルムクラフト1,421本の応募作のうち、このサブカテゴリに応募されたのは75作品、その中で実際に賞を獲得できたのは「The Real Real」のわずか1本だけだったという。さらに、フィルムクラフト部門の審査員たちの口からは、審査過程を披露するセミナーにおいて「AI」という言葉がほとんど発せられなかったそうだ。

なぜか。それは、今年の部門審査委員長が「なぜ、あえてAIで作らなければならなかったのか」という「Why」を厳しく問うていたかららしい。「なぜCGなのか、なぜアニメなのか」を今さら問う人はいない。しかしAIの扱いはまだ、映像業界においても過渡期にあるようだ。

カンヌライオンズ外のオフなセミナーだったが、活発な質問も行われた良い会だった。美味しいそうめんもごちそうさまでした。

1782499099-2IYRxFUGevT4yc8XKgN7HsCB 久しぶりの日本食…!

今日のグランプリ:言葉ではなく「行動と変化」で信頼を獲得する

人間の意志が既存のシステムをトランスフォームした、見事なグランプリを2つ紹介したい。

Innovation Lion Grand Prix

Supernova Adaptive

TBWA\CANADA, TORONTO / ADIDAS / 2026

ひとつ目は、イノベーション部門グランプリ、カナダのAdidasによる『Supernova Adaptive』。彼らが開発したのは、これまでパフォーマンススポーツの世界で見過ごされて来た「ダウン症」の人々の足の特性に完全にアジャストし、適応するランニングシューズである。

このシューズは、2026年3月21日の「世界ダウン症の日」にグローバルで一斉に一般発売された。その結果、世界中のダウン症コミュニティから「子どもが足を痛がらなくなった」「1人で靴が履けるようになった」と圧倒的な感謝のレビューが集まっている。

同部門の審査委員長を務めた電通の志村和広さんの総括が素晴らしい。「AIの時代、つくることは容易になったが、変化を起こす事はそうではない。イノベーションとは、『技術検証』の段階から『実際に世界を変えたという事実』へのシフトである」

Brand Experience & Activation Lion Grand Prix

Expedition Impossible

ADAM&EVE\TBWA, LONDON / COLUMBIA SPORTSWEAR / 2026

そしてもうひとつ、度肝を抜くブランド体験でグランプリをさらったのが、ブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門の『Expedition Impossible』である。ブランドはアウトドアブランドのコロンビア。

今なおネット上で根強い力を持つ「地球平面説(Flat Earth)」のコミュニティ(というのがあるらしい)に対し、コロンビアのCEOはこう宣言した。「もし、地球の端が滝になって宇宙へ流れ落ちている証拠写真を撮ってきたら、我が『会社すべて』を賞品としてプレゼントする」

おふざけの広告ではない。CEOがテレビの放送で発表し、NYタイムズに全面広告を掲載、投資家が集まるウォール街の前に移動式看板を掲げ、徹底的な「本気の企業コミットメント」として演出した。

自社そのものを賭け金にするという、退路を断った(笑)圧倒的なパフォーマンス。言葉で「信頼してください」と語る代わりに、すべてを賭けてみせることで、強烈なジョークと皮肉を感じさせながらも、自社プロダクトへの絶対的な信頼通貨を生み出したと言えるだろう。

最終日へ

ピラミッドそうめん店でご馳走になった冷たいそうめんの出汁が、寝不足の身体に優しく染み渡った。それと同時に、猛烈に日本食が恋しくなって来た。

明日はついに最終日。この旅の最後に、私は一体どんな景色を目にするのだろうか。


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
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blog: mitsushiabe.com
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