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2025.06.11

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2025」開催直前、注目作品を紹介する

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毎年6月に南フランス・カンヌで華々しく開催される世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」。会期中は、数百にも及ぶ講演やセッション、活発なネットワーキングイベントに加え、権威あるカンヌライオンズ賞の授賞式が執り行われます。長年現地レポートを行ってきた筆者が、今年は直前特集として、先日NETA倶楽部主催の事前勉強会で紹介された、特に注目すべき作品群をご紹介します。
(取材・文:阿部光史)

(※NETA倶楽部:世界の"イキのいいネタ"を届ける組織。カンヌ国際広告祭(Cannes Lions)を含む、様々なテーマで年数回、勉強会を開催している)


注目作品1:GIGILの『Steal』

フィリピンの家具ブランド・Mandaue Foam Home Storeが、国内で圧倒的ブランドを誇るIKEAに真っ向から挑むために制作したCM『Steal』です。

豪邸に数名の盗人が侵入する。
高価なものを探したが、見つからない。
仕方なく電灯や家庭用品を盗もうと手を伸ばす。
しかし、盗んだつもりが、同じ場所に別商品が登場する。
電灯を手に取れば、別の電灯。ベッドも椅子も、別商品が出現する。
結局、電灯も盗むことができないまま…
その時、家の持ち主が帰宅する。

コピー:
“You won’t run out with over 5,000 items to choose from.”
「5,000種類以上から自由に選べるので、飽きることはありません。」

最後に、鑑識が現れ、ダメ押しのオチで締める。

この作品はD&ADでGraphite PencilとWood Pencilを受賞しました。ユーモアと意表を突く演出は、受賞の匂いを濃く感じます。監督は昨年カンヌを受賞した汗のCM「SUMMER / GRAB RIDE-HAILING AND FOOD DELIVERY APP」を手掛けたそうですよ。


次に、先日NETA倶楽部主催の事前勉強会で紹介された注目作をご紹介します。

注目作品2:Channel 4『Considering What? | Paris 2024 Paralympic Games』

イギリス公共放送Channel 4が制作したパラリンピックキャンペーン『Considering What?』は、これまで同放送局が作ってきた「Superhumans」を超えるため(どうもアンチ意見が相当あったらしい:作品は下に)、身体的差異を前提とした「障害があるにしてはすごい」という方向性を問い直し、すべての選手を「世界トップクラスのアスリート」として捉える新たな視点を提示しました。

ナレーションでは「重力も摩擦も時間も皆に公平だ」と語られ、「障害を乗り越える」構図から、挑戦そのものを純粋に称える演出へシフト。過去の常套句では評価出来ないリアルな姿を描き、見る者に問いを投げかけます。

本作はGEMAサウンド&音楽デザイン賞をはじめ、Creative Reviewでも高評価を得ており、文化を変える力のある作品との声もあります。過去の「Superhumans」を脱却し新たな語り口でスポーツを描くこの作品は、ゴールド以上の受賞の可能性を秘めていると思います!

ちなみに世界を驚かせたSuperhumansシリーズは、リオオリンピックの開催時に初公開されました。

アンチはありつつも好評だったシリーズを終わらせ、新たなシリーズをスタートさせたその勇気に感服です。


注目作品3:『Designing Paris 2024』

W Conran Designが制作した、パリ2024オリンピック&パラリンピックのビジュアル・アイデンティティ施策。パリの定番のイメージを廃し、パリで見慣れた「街に潜む色」をPhotoshopのスポイトツールでサンプリング。ダイナミックな空間ブランディングを構築しました。

【受賞歴】
・D&AD 2025:Black Pencil(Spatial Design)+Bronze x2(Graphic Design)
・One Show 2025:Bronze x2(Experiential & Immersive/Integrated & Omnichannel)

都市全体を「色」というブランドで包み込み、パリという「場」を再定義した挑戦作は、その完成度とメッセージ性からゴールド・ライオン以上も見えてきます。

参考として、2023年のカンヌ受賞作、Rio Carnaval – Nova Marca(Tátil Design)もご紹介します。2022年にブラジル・リオデジャネイロで開催されたリオ・カーニバルの公式ブランディングとして、Tátil Designが開発したビジュアルアイデンティティ。リオ・カーニバルの特長であるサンバのリズムと、TPorta-bandeira(旗手)が帯びる“流麗な動き”を形象化し、約7,800人へのインタビューを実施し、コミュニティの本質を抽出、その躍動感を、タイポグラフィや色彩で“動きと変化に応じて反応する”モジュラー・デザインシステムとして具現化しました。

さて注目作品を紹介してきましたが、最後に今年のトレンドとして注目したい3つのキーワードをご紹介します。

Creative Risk‑Taking:大胆な発想でリスクを取る作品に高い評価傾向。
— 「State of Creativity 2025」によると、創造的リスクを取る企業は4倍の利益を上げると指摘されています。

Authentic Storytelling:本質をストーリーで描く取り組みが、社会文化トレンドと共鳴します。

Spatial Branding:経験価値としての広告、都市・場のデザインがより重視される傾向。

来週から開催されるカンヌライオンズ2025、どのような作品に出会えるか、今から楽しみです!


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
note: https://note.com/mitsushiabe/
blog: mitsushiabe.com
company website: https://ginspirations.co.jp

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