Pickup

2025.06.02

レポート

落合陽一氏 デジタルネイチャー研究室10周年記念展「シンギュラってコンヴィヴィ:ポストユビキタスからデジタルネイチャーの10年」 レポート&インタビュー

IMG 1702ss

落合陽一氏主宰の筑波大学デジタルネイチャー研究室による、デジタルネイチャーグループ設立10周年を記念した展示会「シンギュラってコンヴィヴィ:ポストユビキタスからデジタルネイチャーの10年、計算機自然の森で踊れ、さよならホモサピエンス」が東京六本木AXIS Galleryで開催中。落合研の、これまでの研究成果と技術革新を社会に広く発信するイベントとなり、過去最大規模の展示となる。
本記事では、知財ハンターによる現地レポート、さらに落合陽一氏に話を伺った内容をお届けする。

当記事はメディアデーでの記者へのご説明の様子を基に記事に起こしたものになります。文章は、AIを活用した記事となるため、言い回しや表現は多少異なります。

デジタルネイチャーの10年

DSC09562s

落合 今回の展覧会は、10年間研究室をやってきた中で、研究室の人たちのものを置いたり、今の研究を紹介したいというのが主な目的です。普通のギャラリーであれば、ビルドアップされたものを見せることが多いと思いますが、今回はアンチというか、ごちゃごちゃとラボのものをそのまま持ってきてみました。研究室のものが最近見た中で一番多い展示になっていると思います。

展示会テーマの「シンギュラってコンヴィヴィ」ですが、これは、AIっぽいものが流行りまくった後に、人類の人間臭いものだけが残る感じがする、という逆アプローチのようなものです。物の量が多く、よく見ると全部研究系のものが多いですが、いわゆるアートインスタレーションもあり、私が学生時代、2012年か2013年頃に作った作品を、学生の展示と一緒にやるとちょうど良いかなと思いながらインスタレーションを作ったりもしていました。そのような構成で作られています。

GsJuyo0aUAIO8V2

GsA09r2XkAE2OJis

落合 基本的に展覧会を作るのは学生さんがやりたいように見ながら作っていますが、その中でポイントだと考えているのは、所謂“卒展”とかですと、作りたいと思って作ったものを見せたくて見せている状態、つまりプロセスをそのまま見せるということです。

昨今は例えば、作っているその場で何考えていたんだろとか、生々しくて動体的なもの、例えば誰かが生活していた生活感があったり、現地の人を連れてきたりといった、研究室の中身やプロセスをそのまま見せる展示が多いように感じます。プロセスとして研究室の中身をそのまま持ってくるのは、10年目ということもあり、ありなのかなと思って展示を作ってみたのが今回の全体の構成です。

DSC09620s

落合 展示の内容としては、10年間研究室をやっているので、例えばバーチャルリアリティやデジタルファブリケーション、AIと人間の協調といった分野があります。AIと人間の協調の研究は、デジタルネイチャーグループは2016年頃からAIの研究を始めているので、日本的にも世界的にも早い方だと思います。

この10年を見て一番面白かったのは、「デジタルコミュニケーションやバーチャルリアリティの方がAIより先に発展する」と割とみんな思っていたのに、AIの方が先に来てしまったことです。Oculus出てきたりとか、スマートフォンが出てきたりとか、カメラ、センサー モーションやロボティクスやIoTの発展が早かったので身体の問題が先に来るかなと想像していたのが、AIの問題が先にきた。

まるでみんなが想像していた未来が逆位置になったようなものです。これはすごく面白い話で、みんなは賢くならないとAIは賢くならないと思っていたのですが、賢さの方の問題が解けてしまったので、その結果、ロボット作りにせよAIにせよ、ハードウェア開発にもAIを使って研究することが普通になりました。このプロセスの逆転が、人間が体を動かしたり趣味に生きたりするのを「AIが学問に変えていく」というプロセスに変化してきたので、そこを見られるのが一番面白い視点だと思います。

展覧会では、ものがごちゃごちゃ置いてあり、お客さんには一見して何なのかよく分からない作業オブジェクトがいっぱいある状態になっています。しかし、学生さんと話しながら、「なるほど、こういうことをやっているラボなんだ」ということが分かるように作っています。綺麗にパッケージングされた展示は多いですが、そうではない、ごちゃごちゃした中に人がいて、会話しながら展示を読み解くというものが面白いと考えています。

IMG 1704s

脱人間中心の系譜、マタギドライブとヌルの旅

GsA076iXAAAiWxZs

「私の世界では,桜は秒速5センチメートルでしか散らないんだ」——そんな一言から始まるプロジェクトもあります.想像が現実を超える時,創造の原動力となるのが「マタギドライブ」です.本章では,この「マタギドライブ」とあてもなく彷徨う「ヌルの旅」の観点から,これまでの多様なプロジェクトを再構築し,文化や歴史の枠を越え,好奇心のままに動き出す私たちの実践を振り返ります.
筑波大学デジタルネイチャー研究室|10周年展覧会プロジェクト 案内文より引用

落合 研究室には変なものがたくさんあります。

ヌルのたび:

DSC09489

DSC09583

落合 万博の私のサイトにヌルヌルのたび. 「null²」の世界を舞台にした絵本というのが載っているのですが、それを研究室の学生さんがAIとの文章を書き直して作ったものです。元ネタは私の本なのですが、この絵本の表現でこの辺とか良くて、「蝶がそっとささやきました。「ぼくは計算機の森でうまれた」「むかし、ひとは火をひろい、森と話し、土をうがち、季節と話し、機械をつくり、時間と話した」。

人類の歴史における重要な要素として、火、森、土、季節、機械、時間といったものが重要なポイントですが、今や人類は何かと話すのではなく、計算機と話しながら生きている様子が物語られています。

さらに絵本は、「もう誰とも話していないよ。シンボルは計算機に渡って、僕の言葉はただの夢になったんだ」という言葉で締めくくられています。この「人間が話している言葉よりも計算機同士が話している言葉の方が多くなっている」という現状を踏まえ、「その世界観で行ってしまっていいのではないか」という視点が、この物語の背景にある考え方として語られています。

GPUで沸かされたGP湯のジオラマ:

GsAxzhLXQAAe-tRs

落合 こっちは計算機で熱持ったGPUで「温泉作ろう」というアイデアですね。

御朱印のデータセット:

DSC09635s

落合 御朱印の最大のデータセットは実は私たちの研究室にあります。各出版社や各地域から御朱印を集めてくる学生がいて、日本中の御朱印を集めたことがあるためです。なぜか御朱印が一番データ量が多い分野の一つになっています。

日本語のLLMで一番大きいのは2020年頃まではうちの研究室のものでした。みんながLLMに興味がなかったため、研究室で小説を書きたい学生がひたすら日本語を集めて構築していました。

深層学習による服のデザイン:

GsA1c9xWUAAGLvQs

落合 ディープラーニングで作ったスケッチからデザイナーと共同して作る服というのも2016年頃にやっていました。

ホログラム:

unnamed (14) 2024年 Floating on the Boundary

落合 ホログラムを作りたいという学生もいます。ホログラムがあると物が動いたり、発色を出したり、バーチャルリアリティに使うものができるため、その基礎的な計算をせずにハードウェアで位置を制御することで波面を変える、といった基礎技術の研究をしています。

ゴキブリによる般若心経:

GsA1Vc2WMAE8AjZs

落合 謎の書道作品は、ゴキブリが書いた般若心経です。
AIで制御されて鳴くセミを作りました。それを録音してかけると機械音のような油ゼミの音になります。

視覚障害者ボクシング:

DSC09657s

落合 視覚障害者同士がボクシングをする研究もしています。障害があるとボクシングは基本できませんが、強力な光を当てると視力ゼロの人でも光が少し分かることがあるので、それを使ってやっています。視覚障害者の有酸素運動の研究は重要で、実は視覚障害の人は移動が苦手で美術館などに行ってもあまり楽しめないため、美味しいものを食べることが趣味な人が多いです。体重移動が苦手で食べ物が好きな人は体重が増えがちなので、有酸素運動の研究は重要ですが、安全にできたり楽しんでできる研究は少ないため、スポーツを作るという発想になりました。

GsA1TfFWcAAnPbNs

落合 こうした研究は、みんなが想像しない、わけのわからない着地をしても大丈夫という雰囲気があるから生まれます。

IMG 1662s

アート、サイエンス、AI、創造性について

──アートとサイエンス、創造性、計算機科学のバランスをどのように考えていますか?

落合 研究室としては、デジタルネイチャーの思想に近いもの、つまり物が動いているか、物語や写真といったコアがあって、計算機が発展した時にそれがどうなって文化が変わるのか、といったことをやっています。単純なセキュリティだけをやりたいといった人は入ってきません。

AIにおいてアーティストの創造性はどう変わっていくか、という点については、アーティストは何でも作れるようになります。ただ、自分でキュレーションできないものは作れません。DJと作曲と音楽好きの区別がつかないようなものです。AIが自由に音楽を作れるようになると、作曲は具体的なビジョンがあればいい曲を出せるし、DJもいい曲を選べるし、音楽好きがいい曲を選んできても全部同じクリエーションだったりします。結局は、センスが重要になります。

落合 これは酒造りと一緒です。「酒杜氏」は自分で酒を全部作るわけではなく、温度調整などをするだけで、本質的にクリエーションしているのは発酵物です。しかし、なぜ酒杜氏がすごいかというと、味が分かるからです。「こんな味にしたい」というビジョンがあるのが残る要素です。味噌や醤油といった発酵系も同様で、最後の味がちゃんと分かっている人が一番良いクリエーターになります。

そうなると、今まで楽器がうまいとか、何かのセンスがいいといった人が残っていましたが、これからはそうではなくなります。楽器の練習ができない人は演奏には慣れませんが、小説を読むのが好きな人が書けるかというと書けません。書くのには引き出しの多さが必要ですが、AIが作ってくれたものを見て「これめっちゃいい」と見つけ、続きをAIに作らせ続ける人がいれば、ちゃんと小説家になれるはずです。

つまり、目がいいとか、耳がいいとか、お話の面白さを摘み取れる人がアーティストとして残っていくのではないでしょうか。そして、そのようなセンスをどう味わうかという点では、最近はちょっとぐちゃぐちゃな方が良いと思うようになりました。

DSC09667s

人類と技術の進化

落合 この10年間で感じた人類の方の進化は、動画を見て学ぶということが面白く、一番変わった点です。私の世代はトラブルがあったら詳しい人に聞きに行こうとなりますが、今の若い世代は動画で対象物の雰囲気や学問を勉強し、チュートリアル経由で何かを始めることが増えました。これはこの10年間の世代交代で顕著になった点です。次はもっとAIっぽくなるのでしょう。AIと喋りながら、色々なものを直したり作ったりするようになるのかなと思います。

テクノロジーで一番大きく変わったのは、LLM以降、テクニカルに教えることがなくなったということです。ハードウェアの異変や怪しさは訓練で分かりますが、ソフトウェアのライブラリの癖といった話は人間よりAIの方が詳しいので、教えることがなくなりました。

また、10年で変わったのは、研究室の中にあった実験設備やソースコードといった「秘伝のタレ」を学べば論文が通る、という時代から変わってきたことです。今は、新しいトピックをみんながどう面白がるか面白さをちゃんと定義できるかどうかが研究としてすごく大切になっています。未知の面白さとは何だろう、という点で、そんな考え方でそんな変なことをするのか、そんな変な実験をしてみるのか、といった面白がり方が多様になったのが、この10年の変化だと思います。

現在の興味と今後の展望

DSC09541s

──今後の展望を教えてください。例えば今、何が一番面白いと感じていますか?

落合 今一番面白いのは寿司ですかね。というのは、食べることの研究をしている人が少ないからです。寿司研究者は日本に1人か2人しかおらず、そのほとんどが高齢だったり海外にいたりします。寿司産業は2兆円もの規模があるのに、研究者がいないのです。論文の8割か9割は海外の人が書いています。

寿司以外にも、日本の中で培われてきた伝統文化(茶道や禅など)で、日本国内では研究文脈が絶滅し、海外の人が注目している、という分野がたくさんあります。そういうのをAIを使って、どうやったら研究コミュニティをもう一度育て上げていくか、ということに研究者として興味があります。研究が空白化することが結構あるのです。例えば3Dプリンターはデザイン分野などでよく見ますが、産業規模は500億とか600億程度です。寿司は2兆円です。他にも、伝統的にやったり、食べ物、体を動かすスポーツといった分野には研究の要素があるのに、研究者が絶滅してできなかったものが、AI時代にもう一度できるようになる、という機会が見えています。

AIが使えてコンピューターが得意で、多様なことをやってきた経験がある人たちが新しいことをやるのは得意なので、そのようなことを始める研究室がそれを始めるのだろうと考えています。私たちの研究室は年間50〜60個の新しいわけのわからないことをやるので、新しいことをやる時にどうしたらいいかを見てきています。そこが強みだと思っています。

今後の10年で確実に起こることとしては、文化科学と計算機科学、工学の融合、そしてデザイン学なども加わってくるでしょう。最終的なアウトプットである論文はもうAIしか読まないようになるかもしれません。実験したことはAIがあれば論文に変換できるので、「実験したんだから論文にできるだろう」という感覚になります。

しかし、展覧会や彫刻は少し違うかもしれません。データがあれば彫刻にできるかもしれませんが、少し癖があると感じます。そうすると、何かをしっかり研究して分かったことができた時に、もちろん論文は自動生成されるとしても、それを社会に届ける方法はもっと多様で良いと思うのです。文学にしてもいいし、展覧会にしてもいいし、レストランを開いても、スポーツ大会を開いても、歌にしても、推しにしてもいいわけです。そういった届け方が多様になった10年が面白いと思っています。

そうすると、デザインの人だろうが、文学の人だろうが、アートの人だろうが、計算機科学の人だろうが、好きな対象物をどういうアウトプットで見せるかに多分垣根がなくなるでしょう。そして、その中でAIが大抵のことができるようになるので、本当に研究とか新しいものを作るのが好きな人だけがアカデミックに残るだろうというイメージがあります。研究するのが好きで、好きだからずっとやっているタイプの人はやれることが増えて楽しいでしょうが、これまでの「お守り」をするのが仕事だった人は大変になると思います。10年するとそこがもっと明確になってくるでしょう。

DSC09558s

落合 私自身の個人的な興味としては、最初の5年間は映像と物質の問題、次の5年間はAIクリエーション、コミュニティ、多様性といったことをやってきましたが、今は改めてもっと自然に戻ってきている感覚があり、自然、宗教、文化あたりに興味があります。文化というものを広く捉えたエコシステムを、計算機と自然がどうミックスしながら変わっていくのか、研究者が一人もいないお茶学会をどうやって作るのか、といったことです。学会をやるとしても、論文は自動生成してもらい、寿司は食べた方がいい、となったらアカデミックのあり方が全然違ってくるでしょう。そういったことをやっていくのが面白いなと思っています。

DSC09637s


3f4d164c5928e3dbb9cf296afb327f9f-1024x574re

「シンギュラってコンヴィヴィ:ポストユビキタスからデジタルネイチャーの10年,計算機自然の森で踊れ,さよならホモサピエンス」

会期

2025年5月28日(水)〜 6月2日(月)
10:00~19:00 ※但し、5月28日は12:00〜19:00まで、6月2日は10:00〜15:00まで
入場無料

会場: AXIS Gallery

〒106-0032 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
Google Map: https://maps.app.goo.gl/BsbQbuyGcuyW2Vhn6
アクセス情報: https://center.axisinc.co.jp/access/

最終日には,会場でスペシャルトークイベントを開催します.

トークテーマ「ポストAGIの人類」※AGI: Artificial general intelligence

開催日|2025年6月2日(月)13:00〜15:00

登壇者|安宅和人氏(慶應義塾大学 環境情報学部 教授 / 慶應SFC研究所),落合陽一(筑波大学准教授 / デジタルネイチャー研究室主宰)

プレスリリースはこちら

クラウドファンディングページ

筑波大学デジタルネイチャー研究室公式サイト

取材、文:福島由香

広告