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2025.03.03

レポート

【日本橋地下実験場×千葉大学】クリエイターの熱量が次世代を照らす、Konelのオフィス見学レポート

Konel inc., 国立大学法人 千葉大学

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ものづくりに欠かすことのできない「実験」。最先端の機器や心を揺さぶる素材など、実験を通じた「ものづくり」はクリエイターの発想を刺激し、世の中にまだ見ぬプロダクトを生み出すきっかけをもたらしてくれます。

東レ株式会社×千葉大学×クリエイティブカンパニー Konelの共創により2024年7月に始動した産学連携プロジェクト「RAY TO Material」からのスピンオフイベントとして、産学連携プロジェクトに講師として登壇したKonelのプロダクトデザイナー 都 淳朗氏が、千葉大学の生徒ら約20名を、自身の制作環境である株式会社コネルの実験場オフィス「日本橋地下実験場」に招きました。

この記事では、単なる企業見学に留まらず、次世代の学生クリエイターたちに現役クリエイターらが創造の喜びと可能性を伝えた本イベントでの、学生たちが得た学びを追っていきます。

(取材・文・撮影:杉浦万丈)

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クリエイティブなオフィスとしての「日本橋地下実験場」

千葉大生らを制作の場に招き、主催の都氏は、自身が日々新しいプロダクトを生み出しているクリエイティブな制作環境を学生たちに紹介しました。コネル(Konel)のオフィス拠点「日本橋地下実験場」の最大の特徴は、従来の「オフィス」という概念を覆す、実験施設との融合にあります。すなわち、「業務として働く場所=オフィス」という発想とは異なり、「失敗を重ねながらも挑戦し続け、新たなクリエイティブを生み出す場所」=「実験場」という意味を持ちます。

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具体的には以下のような特徴を紹介しました。

  1. 実験場としての機能:単なる業務空間ではなく、新しいアイデアを生み出し、検証する場として設計されている

  2. 遊び心のある環境:創造性を高めるため、個性を発揮しやすく、リフレッシュできる要素が随所に配置されている

  3. クリエイティブなプロダクトの展示:「FUCHAT」、「BWTC」、「SOZAI RECORDS PLAYER」など、社内で開発された製品が並ぶ

  4. 機能的な空間構成:創造活動を支える最適な環境設計

DSC07669 都 淳朗(Konel Inc. Product designer/Producer)。1996年生まれ、徳島県出身。2021年千葉大学大学院(材料計画研究室)修了・株式会社コネル入社。テクノロジーや材料の特徴を活かし、コンセプトを体現する形をデザインし未来の体験を実装する。

まずは、「日本橋地下実験場」の1Fで学生らを出迎えます。1Fは、作業台の他、3Dスキャナー、3Dプリンター、レーザーカッターなど最新鋭の機材や素材が並び、まさに実験や研究を行う「Laboratory」施設の雰囲気。基盤があえて壁一面に配置されていたり、常時、3Dプリンターやレーザーカッターなど何かの機器が駆動していたり、開発と制作の最前線を体感できる環境が広がります。

DSC07875 「日本橋地下実験場」1Fでの一コマ。

続いてB1F。B1Fは、100平米ほどあるエンジニアリングスペースです。プロトタイプの実証が行われることが多く、人流のある検証もすることができる解放的スペースは、R&Dを実証する場所として最適な空間とのこと。

DSC07774 B1Fの様子。

ちょうどKonel新作の「SOZAI RECORDS PLAYER」が飾られていました。「SOZAI RECORDS PLAYER」は、様々な新素材をレコードにして、ターンテーブルに置いて回すと、AIがその素材の特性に合わせて生成した音楽を再生してくれるプロダクトです。

DSC07789 SOZAI RECORDS PLAYER

続いて、PCデスクが並ぶワーキングエリアとなっている5Fも見学することができました。PREDUCTS製の昇降テーブルや、メタルを基調としたデスクが並ぶ5Fフロアは、Konelがブランディングデザインを手がけたデザイン成果物などが、エリア中央や両側面の壁面ラックにディスプレイされています。

また、オフィス内には、サボテンなどの多肉植物が最適な光量と温度をモニタリングされながらディスプレイされていたり、アート作品や遊べるボードゲームなどがあったり、デスクワークフロアながらも遊び心が随所に散りばめられており、「欲望を形に」というコンセプトを掲げる“越境クリエイティブ集団”Konelらしさを感じることができました。

DSC07831 5Fの様子

クリエイターの熱量を伝えるプログラム

見学プログラムの後半は、Konelのクリエイターと学生たちの交流と、プロダクトのデモンストレーション、ブレインストーミングが盛り込まれ、一般的なオフィス見学に留まらず、創造することの楽しさを共有する場となっていました。

1. クリエイター同士の対話から始まる自己紹介

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Konelのクリエイターによる自己紹介は、学生たちの緊張をほぐすように和やかな雰囲気で行われました。プロダクトデザイナー、プロデューサー、PR、バックオフィスなど様々な業種のKonelのクリエイターが自己紹介し、一人ひとりが経歴を述べるだけでなく、クリエイター同士の掛け合いが場を盛り上げ、実験場という開放的な空間も相まって、学生たちが自然と話しやすい空気が生まれていました。

2. プロダクトやアイデアに触れる機会

DSC07795 “脳波買取センター”「BWTC」体験の様子

次に行われたのは、Konelがこれまで手掛けてきたプロダクトの紹介やデモンストレーション。

例えば、未来からのAIビデオレターが届くFUCHATでは、学生たちが実際に未来の自分からのメッセージを受け取るという実体験をしながら、そのコンセプトや開発プロセスを聞くことができました。プロダクトが持つデザイン上の工夫や、技術的に苦労した点など、開発現場ならではの裏話を聞くことができたのは大きな学びとなります。学生たちは興味を膨らませながら、次々に湧いてくる疑問や感想をクリエイターにぶつけていました。

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3.ピザを食べながら、 社員やインターンとの交流

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見学の合間には軽食を楽しむ時間が設けられ、そこでKonelの社員や、実際にKonelでインターンシップしている学生らとラフに話せる機会が用意されました。Konelのクリエイターたちは自らの学生時代の経験や、今後挑戦してみたい領域などを率直に語り、学生たちは、大学内で得たスキルを現場でどう活かせるのか、積極的に質問を投げかけていました。

4. アイデアを形にするブレインストーミング

最も盛り上がったのが、ブレインストーミングです。都氏は実践的な課題を出して、「具体的にどういうものを作りますか?」と学生たちに問いかけました。その問いかけに、学生たちは積極的に挑戦します。

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最初に参加者全員が共有スライドに課題を書き込みながら、それぞれのアイデアを互いに確認できるようにすることから始めます。完成した最終原稿を総評するのではなく、アイデアの卵のようなものから共有し、お互いに意見交換しながらアイデアを膨らませる手法は、発想の幅を広げるものだと感じました。

またアイデアがどんどん生まれていくなかで、他者のアイデアを基にした発展的な提案も許容します。あくまでチームとして、より良いものを作ることを目指し、そして生まれたアイデアを、技術的な議論から未来の実現可能性へと対話を深めます。

この手法では、お互いの“アイデアの卵”から得たインスピレーションや、対話からも新しいアイデアが生まれ続け、1時間で100案ものアイデアを生み出していたのが特徴的でした。

決して誰のアイデアも否定することなく、発展させていくためには何が必要なのかがアドバイスされます。新しいアイデアが次々に生まれ、そのアイデアをチームで一丸となって発展させていく過程は、実際のイノベーションの現場やアイデアソンのようで非常に刺激的でした。

イノベーションを担う次世代の育成

最後に、都氏は自身の開発経験や、これまでのプロジェクトに込める思いを学生たちに伝えました。都氏の熱意や実験場のプロダクトの数々に触れて、学生たちの気持ちも動かされたのではないでしょうか。ある学生は「最初は企業見学のつもりでした。でも今は自分の学んできたことを活かして、何を作り出せるのか考えたくなります」と語っていました。

都氏はイベントの後、このプログラムが特に重視したことは単なる企業見学に終わるものではなく、「創造の面白さを伝えること」だと述べました。創造への情熱を共有したいという先輩クリエイターからの真摯な思いが伝わってきます。

学生たちはKonelのオフィス見学やクリエイターとの交流によって、多くの気づきを得ることができた様子。現役クリエイターの生の声を聞き、最先端の開発環境に触れることで、学生たちはクリエイターとしてのキャリアの可能性を具体的にイメージできたと思います。さらに、試行錯誤を「実験」として積極的に楽しむ「日本橋地下実験場」の文化からは、失敗を恐れない挑戦的な姿勢を学ぶことができたのではないでしょうか。

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まとめと展望

Konelのオフィス見学は、一般的な見学プログラムを超えて、クリエイティブの情熱を次世代に伝える場だったように感じました。プログラムを主導した都淳朗氏はクリエイターとして、また自身も千葉大学出身として、母校の後輩たちに創造の面白さを伝えましたが、都氏自身が卒業からまだ数年という若手の近い距離感だったからこそ、学生たちにリアルなキャリアイメージが伝わったように見受けられました。

この取り組みを通じて、憧れだった現役クリエイターの世界が、学生たちにとって、より具体的で身近なものとなったのではないでしょうか。このような交流の場が広がることで、より多くの若者たちがクリエイティブの担い手として育っていくことが期待できるイベントだったように感じます。

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取材・文・撮影: 杉浦万丈 編集:福島由香


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