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2024.12.11
レポート
開発から顧客体験までを提案、先端テックのプロトタイプ展「IDEATIONS」レポート
インスタレーションやデジタルプロモーション、メディアづくりなど、先端的なテクノロジーを活かしてさまざまなクリエイティブ事業を手がける株式会社D2C ID。当社でエクスペリエンシャルテクノロジー領域を率いるIMG SRC STUDIOによるプロトタイプ展「IDEATIONS」、そのVol.3が今年11月に東京・汐留で開催された。
空間コンピューティングやバーチャルプロダクションなど新作のプロトタイプ6点を通して見えてきたのは、デジタルコンテンツがフィジカルな空間とシームレスに融合する世界観、そのさまを私たち自身の身体で実感するという新たな体験価値だ。
会場に繰り広げられた作品の数々、それらのコンセプトや展示会そのものの狙いについて話をうかがった。
(取材・文:長谷川智祥/撮影:川島悠輝)
「IDEATIONS Vol.3」 2024年11月19日(火)~ 11月22日(金) 11:30~19:30 @スタジオ ダ・ヴィンチ
バーチャルプロダクションの「ポップアップ化」―Immersive Movie Booth
さまざまな世界観に没入できる独創的なムービーブースとして、カメラやグリーンバック、PC機器を取りまとめたひとつのパッケージを提案する「Immersive Movie Booth」。ブース内の体験者の挙動に、背景となる3D CG空間が連動するシームレスなバーチャルプロダクション環境を構築したもので、撮影はロボットアームに搭載したカメラでも、人間が扱うハンディカムでも可能というもの。高品質かつユニークな映像を即興的にアウトプットし、また撮影後にはQRコードを通して完成映像をダウンロードできるようになっているなど、体験者の動きや興味を惹く仕掛けがなされている。
撮影そのものの体験はもちろんのこと、その体験を持ち帰り、伝えることのできる「シェアラブル」な要素も重要視されたプロトタイプ。撮影・編集機材、LEDウォールやトラッキングデバイスなど大掛かりな設備が必要とされているバーチャルプロダクションの「ポップアップ化」とも言える提案からは、リアルイベントの活用をはじめ、背景を自由に変えることのできる試着やメイクアップのシーン、作品世界に擬似的に没入する新たな映画鑑賞のかたちなどのアイデアが生まれている。
背景が融合された映像はリアルタイムで鑑賞できる。撮影終了時にすぐにダウンロードができるなど、UXにもプロトタイプ時点でサービス設計がなされている。
ブラウザ起動でXRコンテンツのスピード鑑賞を実現―Immediate XR - Web × VPS -
生活者が日常的に使用しているスマートフォンデバイス、そこでのブラウザを通して没入感の高いXR体験を提供する「Web XR」のプロトタイプが「Immediate XR」だ。SoVeC株式会社との協業のもと、VPS技術(Visual Positioning System:3Dマップデータと、スマートフォンに搭載されたカメラ越しの画像とを照合し、向きや方位を含む高精度な位置情報を特定する技術)を活用し、現実世界のオブジェクトや建物、空間に対して動的なCG表現を連動させている。会場ではデバイス内のビジュアル表現だけでなく、ネットワークされた香りを発生させるデバイスによる演出も連動するなど、五感を刺激する仕掛けが施されていた。
空間認識の精度や対象範囲の広さというだけでなく、2次元コードや非接触ICタグを介したブラウザ起動だけでXRコンテンツを鑑賞できるという即時的・簡易的なインタラクションも重要だ。街を舞台にしたユーザー参加型キャンペーンや、フィクションのモチーフとなった「聖地」を対象としたツアーコンテンツなど、身近なデバイスとユーザー自身の行動、そしてXR体験をつなぐアイデアがさまざまに生まれている。
タッチから専用ブラウザが開き使用できるまで、およそ待ち時間がないほどのスピード感で体験できる。ストアからのアプリダウンロードを必要とせず、エントリーのハードルを著しく簡易的にしていることが実感できた。
XR作品を背景として、カメラとの間の人物も認識可能。“推しのXRと一緒に写真が撮れる”などの展開も可能にしている。
現実と仮想、双方向のインタラクション表現―Spatial Interaction Hub for Apple Vision Pro
高精細なディスプレイと高い認識精度を持つApple Vision Proを活用した「Spatial Interaction Hub」。従来的なVR/AR体験は、現実の空間や設備にディスプレイ内の仮想コンテンツが連動して投影されるというものであったが、本作では、ブース内に仕掛けられた物理スイッチやアクチュエーターが現実と仮想の仲介をなすメディアとなり、現実から仮想へ、仮想から現実へといった双方向のインタラクションをシームレスに実現している。
Apple Vision Pro越しに見えるさまざなオブジェクト。ブース内に設置された物理的なスイッチを押すと、仮想上の大砲やシャボン玉が発せられる一方で、そのシャボン玉を指でつくと、今度はブース内の現実の射出台から新たな球が現れる。そのような仕掛けを通じて、XR体験がより自分ゴト化される、コンテンツへの能動的な関わりを誘発することを目指しているという。
家電や家具の操作方法への理解を促すツールや、伝統文化・技法の追体験、脱出ゲームやマインドスポーツといったエンターテインメントへの活用など、空間コンピューティングにおけるインタラクションを模索するプロトタイプだ。
ARグラスならではの身近な拡張体験―Unusual Traffic Signs
ARグラス「XREAL AIR」を用いて、道路標識のピクトグラムに干渉する体験をかたちにした「Unusual Traffic Signs」。視野が広く、両手が利用できる手軽なARグラスの特徴を活かし、仮想空間で動き回るピクトグラムをつまんだりスワイプする動きを通じて、日常的な風景をモチーフにした異空間体験をつくりあげた。
発想の原点は、ARだからこそ表現することのできる超能力や魔法といった空想的な世界観であったというが、日常的な風景やオブジェクトをモチーフにすることで、動的な屋外広告や道路標識といった現実への応用可能性も見えてきたという。商店街や都市で過ごすなかに自然なかたちでプロモーションキャンペーンを盛り込むこと、訪日外国人向けの映像やアニメーションによる交通案内、ユニバーサルデザインの実装などが模索されている。
技術の構造をアナロジーとして表現―Physical Control Ecosystem
プラレールやピンポン玉など誰もが触れたことのあるおもちゃが織りなす「オーケストラ」をインスタレーションとして表現した「Physical Control Ecosystem」。オブジェそのものの構造には手を加えず、それぞれのオブジェや動きが互いに影響し合うようなセンサーやアクチュエーターを施すことで、「電車が通ることでピンポン球が射出される」「球の振動が音に変換されエフェクトがかかったうえで再生される」といった立体的かつ連関的なさまをかたちにしたという。
再帰的に運動が続く情報化された「ピタゴラスイッチ」のようにも捉えられるだろうか。身近なモチーフと、それらが織りなす不思議な現象。そのギャップを目の前に、自分自身の生活や今後の人生のヒントを見出してもらえるような鑑賞体験をつくりたいという意図が開発者にはある。
AIをはじめとする情報技術がブラックボックス化するなかで、それら技術やサービス、現象がどのように自分自身と接続しているかがわからなくなっている現代。技術や仕組みの詳細はわからないにしても、その大まかな構造をアナロジーとして理解し自身に活かしていくことが求められているという。
バスケットボールやサッカーといった球技、エアホッケー、モータースポーツ、ゲームやeスポーツにおける選手の動きに連動した演出のある鑑賞体験の提案や、そこでの現象をモチーフにした作品づくりへの意欲が語られた。
検索体験をコンテンツ化する立体的なWeb UI―Snapshot of Historical Facts
歴史資料へのアクセスに直感性を取り込んだ新たなWebディスプレイ体験を提案する「Snapshot of Historical Facts」。著作権・知的財産権の保護を終えパブリックドメインとなった歴史資料をモチーフに、コラージュを活かしたビジュアライゼーションや、年代ごとに異なる音声を使った演出、タッチディスプレイ上でページを送る(スワイプする)際の独自のグラフィック表現とインタラクションなど、2Dと3Dを組み合せた新たなWeb UIをプロトタイプした。
WebGLを活用したサイトの制作はこれまでも実務で行われてきているが、近年は特に、掲載コンテンツだけでなく、Webサイトの滞在・使用体験そのものを刷新することで独自のブランディングやメッセージを訴求したいという声が多いという。ブラウザの中だけではない、投影メディアや身体も含めたスケール、さらにはVRゴールなども交えたインタラクションの設計が求められているなかで、直感性や情緒性を喚起するトリガーはどこにあるのか。好きなアーティストの楽曲を時系列で鑑賞できる音楽ライブラリや、社史や製品の変遷を辿ることのできるデジタルライブラリなどへの展開アイデアとともに、探求していくという。
既存のアイデアやテクノロジーの『バリエーション』を増やしていくだけでは、本質的な価値提供はできない―加藤雄也(IMG SRC STUDIOシニアマネージャー)
6つのプロトタイプそれぞれの作品を手がけたクリエイターたちに共通していたのは、テクノロジーやクリエイティブ表現そのものにとどまらない、新しい体験を開発、提案したいという姿勢だ。またそこにはユーザー(体験者や鑑賞者)だけでなく、パフォーマーやオペレーションに伴う体験設計まで含めてコンテンツや情報を捉えている姿も共通してうかがうことができた。
会場では、クリエイター自らが作品の前に立ち来場者と闊達に交流を重ねていた。
IDEATIONSを統括する加藤雄也(IMG SRC STUDIOシニアマネージャー)は、この状況こそが本展の価値であるという。
「CX CRAFTSというキーワードのもと、未来指向のテクノロジーでユーザー体験を加速させるというのがIMG SRC STUDIOのミッションです。未来的なテクノロジーを使ってものづくりをするといった技術紹介やデモではなく、新しい体験をどのようにつくり持ち帰っていただくかということにこだわっています。テクノロジーが進化するスピード、代替サイクルが年々早まっていくなかで、既存のアイデアやテクノロジーの『バリエーション』を増やしていくだけでは、本質的な価値提供はできません。ニーズが顕在化されたクライアントワークに取り組むこととはまた別の創造性を育む、自主的なリサーチや試行錯誤の場としてIDEATIONSが存在しています。エンジニアやデザイナーが体験者と直に交流し未来について語り合う機会が、新しい気づきや仲間づくりにもつながっています」(加藤)。
「新しいアイデアをひらめき、つくり、つたえる。」とメッセージを掲げる当社によるクリエイティブなR&D活動。ユーザーがコンテンツや情報を目の前にしたときの体験がこれからどのように発展していくのか、アイデアとともに広がる新しい共創のかたちにも期待したい。
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(取材・文:長谷川智祥/撮影:川島悠輝)