No.1236

麺もスープもなくてもラーメンをすすれる、香り・音・振動が生む食体験デバイス

吸うラーメン

吸うラーメン

概要

「吸うラーメン」とは、香り・音・振動を組み合わせることで、実際の麺やスープがなくてもラーメンをすすっているような感覚を味わえるデバイスだ。Dentsu Lab Tokyo(電通グループ横断のクリエイティブR&D組織)が開発した。香りの開発・提供は曽田香料株式会社が協力している。

醤油ラーメンのフレーバーを添加したデバイスを口にくわえて息を吸い込むと、香りが口から鼻へと抜ける。同時に、デバイス内のMEMSマイクが吸い込む動作を検知し、吸い口そばの振動スピーカーが麺をすする「ずるずる」という振動を唇に伝える。動作に連動した映像も表示され、複数の感覚が同時に刺激されることで、ラーメンを食べているような感覚を生み出す。カロリーも塩分もゼロのまま、ラーメンの「らしさ」を体験できる。

OPEN LAB 2025(2025年12月、電通ホール)では2日間で200名以上が体験。CEATEC 2026(2026年10月13日〜16日、幕張メッセ)には加熱しないタイプが出展された。

デバイスの仕組み (出典:Ginger Design Studio)
OPEN DAY 2025では200吸い以上をふるまったという。

なにがすごいのか?

  • 麺もスープも使わずに、香り・振動・音・映像の組み合わせだけでラーメンをすする感覚を再現できる

  • デバイスの吸い込み動作をMEMSマイクで検知し、振動スピーカーがリアルタイムで唇にすすり感を返す仕組みを実現できる

  • 「五感の相互作用(クロスモーダル知覚)」という学術的知見をベースに設計されており、将来的には嚥下障害のある人へ食の楽しみを届ける応用が期待できる

なぜ生まれたのか?

2025年に結成されたDLT3部が、チームビルディングを兼ねてR&Dにチャレンジしようとアイデア出しをした際、最も共感を集めたのはコミュニケーション・プランナーの五十嵐氏が差し出した1枚の紙だった。「ラーメンを一生すすりたい。だけど塩分とカロリーが気になる。」

実際に塩分制限があるというクリエイティブ・ディレクターの須田氏がリーダーとなり、プロジェクトがスタートした。Dentsu Lab Tokyoが掲げる「Ramen & Development」——遊び心のある問いから、テクノロジーで本気の答えを出す姿勢が、このプロジェクトの出発点だ。

開発チームはまず、ラーメンを食べているときに人が感じる要素を分解した。見た目・香り・湯気・すすり心地——可食部以外にラーメンらしさを構成する要素を洗い出し、それぞれを既存技術で再現するアプローチをとった。同時に、嚥下障害を持つ方が「食の楽しみを感じたい」という声が医療・介護の現場に少なくないことも、開発チームの視野に入っている。

なぜできるのか?

クロスモーダル知覚という学術的基盤

「吸うラーメン」の設計思想の核心は、味覚・嗅覚・触覚など五感が相互に影響し合う「クロスモーダル知覚」という知覚現象にある。かき氷が香りと色だけでいちご味やメロン味として感じられるのと同じ原理で、複数の感覚チャンネルを同時に刺激することで、脳が「ラーメンを食べている」という状況を組み立てる。開発にあたっては、「Tag Candy(慶應義塾大学)」「SUI(稲見研究室)」「Phantom Snack(電通)」など食とクロスモーダルに関する先行研究を丁寧にリサーチしたうえで、香り×振動×温度の組み合わせに独自性を見出した。

MEMSマイクによる吸気検知と振動スピーカーの同期

デバイスに息を吸い込むと、内部の吸気経路を空気が流れる。この気流がMEMSマイクに当たることで吸気に特徴的な音響パターンが発生し、それを検知して吸い口そばの振動スピーカーがすすり音と振動を再生する。フレーバーを吸い込むのとほぼ同時に唇にすすり感が届く設計だ。すすり音の録音はPYRAMID FILM QUADRAが、吸い口と吸い込み機構の試作はGinger Design Studioが協力した。

曽田香料による「口から感じる香り」の設計

香りの開発を担ったのは、口から感じるレトロネーザルアロマ(口腔内から鼻へ抜ける香り)の研究を進める曽田香料株式会社だ。醤油ラーメンのフレーバーは、鼻からだけでなく口から香っておいしくなる設計で開発された。香りが口から鼻へ広がり、ラーメンのらしさを増幅させる。

Step 1:吸い口をくわえ、麺をすするように何度かに分けて軽く吸う。
Step 2:香り・すすり心地・連動する映像から、ラーメンらしさを体験する。

相性のいい産業分野

医療・福祉

嚥下障害や食事制限のある患者に対して、実際に食べずに食の楽しみを体験として提供でき、QOLの向上に貢献

食品・飲料

新商品の香りや食感の試食体験をデバイスで代替することで、サンプル不要のプロモーション体験を設計

生活・文化

ダイエット中や健康管理中の人が、カロリー・塩分ゼロのまま好きな食体験を楽しめるウェルネスデバイスとして展開

アート・エンターテインメント

テーマパーク・ゲームセンターなどで、架空の料理や存在しない食べ物の体験を提供するアトラクションとして活用

航空・宇宙

制限の多い宇宙食の食事時間を、故郷の味の記憶と重ねて楽しめるホームシック・ケアデバイスとして機能

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。 詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。 Top Image : © Dentsu Lab Tokyo

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