No.501

2021.11.18

潮流発電で「海の見える化」を実現する海洋ブイ

エナジーハーベスト型スマートブイ

エナジーハーベスト型スマートブイ

概要

「エナジーハーベスト型スマートブイ」とは、潮流で発電し海上で電力供給を行う、潮流発電システムを搭載した海洋ブイ。潮の満ち引きで安定的に生じる潮流によってローター・プロペラを回転させて発電し、通信デバイスやセンサーに電力供給しながら同時にバッテリーへ蓄電するため、長期間・安定的に電力を供給し、センサーからの継続的な気象データや海洋のデータ取得を可能にする。これまでも太陽光発電などによる海上発電システムはあったが、天候や環境に左右され、安定的な電力供給が難しかった。エナジーハーベスト型スマートブイは、地球温暖化に伴う海水温の上昇や海洋ゴミの増加などの定点観測や、通信システムへの活用などが想定されており、「海の見える化」を促進すると期待される。

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なぜできるのか?

潮流発電の知見と技術

エナジーハーベスト型スマートブイの潮流発電システムの開発には、長崎大学の研究技術や知見を活用。研究を牽引する長崎大学の海洋未来イノベーション機構 海洋エネルギー開発研究部門は、潮流・海流・波浪・温度差などの海洋エネルギーの中で、最もエネルギーポテンシャルの高い潮流発電に着目。これまで、五島海域で「潮流発電実証フィールド」の海洋環境調査や、同海域における環境省「潮流発電技術実用化推進事業」への協力・支援などを行ってきた。また五島海域ほど潮流速が大きくない海域でも、低コストで高効率な潮流発電ができる装置の研究開発にも取り組んでいる。

AIとアルゴリズムを活用したタービン設計

潮流発電を支える回転式機械である「タービン」は、AI(人工知能)と遺伝的アルゴリズム(生物の遺伝や突然変異・進化の仕組みを模した機械計算)を用いて設計。CFD(多目的最適化設計システム)に人工知能と遺伝的アルゴリズムを組み込み、コンピュータに最適解の探索を繰り返し行わせて、発電効率の高い2種類のタービンを設計した。

SLTTスマートブイの効率的な出力基盤

SLTT(水平分離型)は、浮体部と発電部を別々に設置したスマートブイ。浮体部内には、制御基盤や京セラのIoT端末「GPSマルチユニット」、バッテリーなどを配置している。発電部には、水平軸タービンと周囲から流れを引き込む効果のあるディフューザーを一体化させたタービンを実装。流れが低速でも効率的な発電を行うためにディフューザーを一体化しており、電力の最大出力は従来型の約5倍を実現している。

VTTスマートブイのコンパクト設計

VTT(垂直一体型)は、浮体部と発電部を一体化したスマートブイ。一体化によりSLTTよりもコンパクトな躯体を実現している。VTTには、潮流に対して垂直より約30度傾けたタービンを実装。従来のタービンは、流れに対して垂直で回転しにくく発電効率が悪かったが、最適な傾斜をつけて回りやすく効率の良いタービンを設計した。電力の最大出力は従来型より約3倍を実現している。

相性のいい産業分野

環境・エネルギー

海水温や海流変化、マイクロプラスチックの増加など海洋環境の定点観測

農業・林業・水産業

海洋養殖や生簀など漁場環境の観測・管理に活用

流通・モビリティ

海洋の気象悪化や海上が荒れた状況を検知・通知し船舶運航へ活用

IT・通信

海の状況をいつでも誰でも確認できるITインフラの構築

ロボティクス

ドローン飛行に活用できる通信環境の構築

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 京セラ 株式会社/国立大学法人 長崎大学