No.705
2022.05.02
ヒトの身体機能を拡張する装着型サイボーグ
HAL(Hybrid Assistive Limb)
概要
HAL®(Hybrid Assistive Limb®)とは、身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる装着型サイボーグ。人は、体を動かそうとすると、その運動意思に従って脳から神経を通じて筋肉に信号が伝わり、その際、微弱な「生体電位信号」が体表に漏れ出す。HALは、独自に開発したセンサーを皮膚に貼り付けることで、装着者の「生体電位信号」を読み取り、装着者がどのような動作をしたいのか検出し、HALが意思に従って動く。また、HALを用いた動作が適切にアシストされた時、感覚のフィードバックが脳に送られる。この動作の情報のフィードバックのループにより次の動作につなげることで、過剰な負担をかけることなく体の不自由な人の機能改善、機能再生の促進が可能。福祉や医療分野の動作支援のほか、工場での重作業支援や、災害現場での復興支援活動など、幅広い応用が期待されている。
実現事例 実現プロジェクト
医療用HAL下肢タイプ
「HAL医療用下肢タイプ」(以下、HAL)とは、下肢部分に装着して人の歩行機能をアシスト化するサイボーグ技術。HAL(Hybrid Assistive Limb)は、脊髄を介して動作と神経系を相互につなぐインタラクティブ・バイオフィードバックを構成し、人工物であるHALを人と機能的に一体化させる。下肢タイプは、近年では進行性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する歩行機能改善効果が認められつつあり、今後も患者の機能改善など医療分野での活用、進展が期待される。
なぜできるのか?
HALと人の間で構築されるインタラクティブなフィードバック
HALは、生体電位信号を検出して人の動作を補助する。一般に、身体を動作させるのは、脳から脊髄、運動神経、筋肉へと伝達される動作意思を反映した生体電位信号。この信号と同期して人体の感覚神経系の情報が筋紡錘から感覚神経、脊髄、脳へと戻り、動作と神経系のループは相互にフィードバックする仕組みになっている。こうした実際に「動いた」という感覚のフィードバックが脳に戻ることによって、高齢化に伴い増加してくる脳・神経・筋系の疾患患者の機能改善が促進される。この機能改善の仕組みは、インタラクティブ・バイオ・フィードバック仮説(iBF:interactive Bio-Feedback仮説)に基づいている。HALは、人と一体化し、このインタラクティブ・バイオ・フィードバックを構成するため、この仮説を裏付ける技術として認められつつある。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する有効性
ALSは、脳や脊髄などの運動ニューロンが障害される進行性の神経変性疾患。運動ニューロンが障害されるため、四肢を動かしたり、呼吸したりする筋肉がやせ、筋力低下を引き起こす。治療薬はあるものの、その進行を止める治療法は現在のところ発見されていない。HALは、2018年にALSの歩行機能改善を目的とした治療に導入され、2019年にはALSと診断された患者を対象にした研究が行われた。その結果、患者の平均歩行距離が73.87mから89.94mに伸びるなどの改善が確認できた。
患者の生活の質などの改善
ALSがもたらす歩行機能障害は、患者が日常で最低限必要とする動作(ADL:Activities of Daily Living)や生活の質(QOL:Quality of Life)を低下させる。継続的にHALによる治療を施せば、歩行機能の維持や改善につながる可能性があり、ひいてはADLやQOLの向上、完全な治療は難しくとも生命予後の延長効果をもたらすことが期待できる。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top Image : © CYBERDYNE 株式会社