No.757
2022.09.26
水を垂らしてインクを溶かすだけで電力を供給
紙電池
概要
「紙電池(Water activated disposable paper battery)」とは、紙から作られた環境に優しい電池。印字されたインク部分に水を数滴垂らすと紙に練り込まれた塩が溶けて通電し、1.2V(炭酸型乾電池は1.5V)の電圧を発生する。従来、使い捨て電池はその多くが埋め立てられ、有害物質を含む電子廃棄物(E-waste)の環境への影響が世界的に問題視されてきた。しかし、「紙電池」は紙や亜鉛といった生分解性の素材を使用しており、リサイクルが容易に可能。従来の電池に代わるサステナブルな電池として、多分野での活用が期待されている。
なぜできるのか?
塩の特性を活かした構造
水に溶けると電気を通す塩の原理を応用。湿らせた時のみ、紙全体に練り込まれた塩が電解質(電気を通す物質)として働き、電荷を持ったイオンを放出することで電池を活性化する。
金属片入りのインクによる発電
紙と電線が基材として使用されている。紙には、片面に亜鉛片を含むインクが、もう片面に黒鉛片(グラファイト)を含むインクが、両方のインクの上にカーボンブラックと黒鉛片を含むインクがそれぞれ印刷されている。通電時には、亜鉛片を含むインクが負極、黒鉛片を含むインクが正極として作用。負極から放出された電子が電線を伝って正極に移動し、周囲の空気中の酸素に移動することで、電流が発生する。
低電力電子機器への給電
低電力電子機器への給電が可能。液晶ディスプレイ付きの目覚まし時計を用いた電気供給実験では、2滴の水を加えると20秒以内に電池が作動して目覚まし時計に電力供給が行えた。なお実験では、1時間経過した時点で紙が乾燥し、電池の性能が大きく低下したが、2滴の水を加えることでさらに1時間以上、0.5ボルトの安定した動作電圧を維持できた。
亜鉛の量で調整できる電池容量
インクに使用する亜鉛の量を最小限に抑えることで、電池の持続可能性を高めることが可能。また、亜鉛の量を調整することで、電池が生成する電力の量を精密に制御できる。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top images:© Empa(Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)