No.782
2023.02.08
光の吸収率99.98%以上の“世界一の黒い”素材
至高の暗黒シート
概要
「至高の暗黒シート」とは、99.98%以上の光を吸収できる黒色シート。触っても崩れない耐久性を有する素材としては世界一の黒さを有し、明るい場所でも沈む黒さで写真や映像での映り込みを防止する。従来、光の反射率が0.1%を下回る素材は脆弱な素材を使ったものに限られ、触ると性能が損なわれる場合があった。一方「至高の暗黒シート」は、一般環境でも使える高い耐久性を実現。写真や映像のコントラスト向上やサーモグラフィーなどでの熱赤外線の乱反射の防止のほか、新素材としての活用も期待されている。
なにがすごいのか?
暗黒シートと比べて可視光の反射率が一桁低く、レーザーポインターの光も消えて見える
凹凸構造を形成しくすみもぎらつきも少ない深い黒を実現
明るい場所でも沈む圧倒的な黒さにより、視覚表現にこれまでになく高いコントラストを提供
なぜ生まれたのか?
産総研では、光度や照度などの光の軽量標準に関する研究を行っており、これまでもLED光源や赤外線ビーム計測、光子1つが見える顕微鏡の開発を進めてきた。しかし、光のパワーをより正確に測定するには、極端に白い物質や黒い物質が軽量標準として必要となる。こういった背景から同社は使い勝手の良い黒い物質の開発に着手。「至高の暗黒シート」の開発に至った。
なぜできるのか?
高い吸収率を実現する「光閉じ込め構造」
「至高の暗黒シート」では、サイクロトロン加速器からの高エネルギーイオンビーム照射と化学エッチングにより、数十μメートル程度の円錐状の凹凸からなる「光閉じ込め構造」をシートの表面に形成。表面に入射した光は、壁面で何度も吸収と反射を繰り返すことで、反射率がゼロに近づいていく。これにより、99.98%という高い吸収率を実現できる。
カシューオイル黒色樹脂による「くすみ」の軽減
「至高の暗黒シート」では、内部からの散乱反射(くすみ)が少なく、漆の代用に用いられるカシューオイル黒色樹脂を素材に使用。シリコーンゴム製の旧来品「究極の暗黒シート」では困難だった素材表面の鏡面反射(ぎらつき)を抑え、可視光の反射率が従来比で一桁以上低い0.02%以下を実現した。
原盤の作成による量産化
産総研では、製造にあたり、基板表面に微細な微細な凹凸を印字した原盤を作成。この原盤からカシューオイル黒色樹脂に凹凸を繰り返し転写することで、量産性が期待できる。
相性のいい産業分野
- 製造業・メーカー
光の映り込みを完全に消すカメラレンズやレフ板への活用
- 医療・福祉
直射日光から薬剤を守る遮光薬袋
- メディア・コミュニケーション
看板やプロダクトなどに活用して極限まで目立たない・景観を崩さない仕様を設計
- 生活・文化
日傘に貼ることで太陽光を完全にシャットアウト
- 住宅・不動産・建築
映画館の壁に貼ることでスクリーンの光の反射を抑え没入感を向上
- アート・エンターテインメント
完全に闇夜に紛れる究極の黒い衣装や舞台装置
- 環境・エネルギー
低反射な黒色材料による太陽エネルギー利用
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top Image : © 国立研究開発法人 産業技術総合研究所