No.796

2023.06.30

3Dプリントで生成する、自在な構造と機能を持つ人工素材

メタマテリアル by OPT Industries

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概要

「メタマテリアル by OPT Industries」とは、自然界や従来の素材にはない構造と機能を持たせることができる人工物質。角度によって水を受け流す素材や、哺乳類と爬虫類の間のような触り心地がするシートなど、自然物には存在し難い独特のフォルム構造と機能を持たせることができる。OPT Industriesは、独自の構造設計技術と3Dプリンター技術で、マイクロレベルの微細な形状を高精度に造形し、ロール印刷での長尺形態でもメタマテリアルの連続作製を実現している。アイデアベースからの素材構造の立案と、その構造を実際に印刷した構造体の製品化が可能なため、医療や美容分野、アパレル、建築材、製造設備など、幅広い領域での構造開発・活用が期待されている。

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なにがすごいのか?

  • これまでにない形状・機能構造の素材を高精度に3D印刷し具現化

  • 3Dプリンターでロール状にオブジェクトを出力することによる長尺対応

  • 微細な形状作製に適したポリマーの開発

なぜ生まれたのか?

OPT Industriesの創業者・CEOであるJifei Ou氏は設立前、米マサチューセッツ工科大学のメディアラボに在籍し、3Dプリンターなどを用いた変形可能な構造体の設計・製造の研究に従事していた。在籍中は3Dプリンターでは再現が難しいとされていた、毛髪のような構造を持つ形状の3Dプリント造形などを実現。7年ほど在籍した後、2019年にマサチューセッツ州でOPT Industriesを設立した。同社のミッションは素材設計・デザインと製造の進化による、業界を超えた製品課題の解決。20年には、新型コロナウイルスの検査用に高い吸水性と溶出性を持つ綿棒「InstaSwab」を開発し、その高い機能性から注目を集めた。22年3月にはシリーズAで1,500万ドル(約21.7億円)を資金調達。新規構造体の設計・生産需要へ対応できる体制整備を図っている。

妄想プロジェクト 妄想プロジェクト

お風呂に連れて行けるぬいぐるみ

ふわふわな毛なのに“濡れない”ぬいぐるみ「Waterproof BEAR」

メタマテリアルを応用すれば、お風呂で遊べる新しい子供用の玩具をつくることができるかもしれない。「Waterproof BEAR」は従来のぬいぐるみのような柔らかい毛の感触を再現しながらも、水を撥水・濾過させる機能を持たせたマイクロメッシュ素材のぬいぐるみ。屋内でも屋外でも、海でもお風呂でも、子供はお気に入りのぬいぐるみをシームレスに連れていくことが可能となる。玩具だけでなく、水陸両用のファッションアイテムなど、ハプティクスと機能性を掛け合わせた新しい素材展開もできるかもしれない。

妄想家 永井 歩

妄想家 永井 歩

妄想画家 YAMADA YUH

YAMADA YUH

妄想画家 YAMADA YUH

実現事例 実現プロジェクト

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InstaSwab

「InstaSwab」は、高い吸収性と溶出性を持つ綿棒。OPT Industriesが自社開発した積層造形システムを用いて、マイクロメッシュ配列で作製した(特許取得済み)。従来のコットン綿棒やフロック加工綿棒よりも液体の吸収が早くて、保持性能が高く、ガラス管などへ検体サンプルを多く放出できる。新型コロナウイルスの鼻腔検査キットを想定して開発され、20年3月頃から病院と協力して提供を開始。検査性能の高さが評価され、米国の非営利保険組織のKaiser Permanenteや医薬品販売会社などに提供範囲を拡げた。「InstaSwab」は先端のサイズや形状などを変更でき、用途などによりカスタマイズが可能。今後は、新型コロナウイルス以外の病気の検査キットや、医療用のサンプリングなどへの展開を予定している。

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Lumofil

「Lumofil」は、化粧品アプリケーターのユニークデザインと製造ができるソリューション。OPT Industriesが自社開発した積層造形システムを用いて、マスカラ、アイシャドウブラシ、リップグロスなどのアプリケーターを高精度に作製する。材料のポリマーには、化粧品に適した構造処方を開発して採用。軽量化や柔軟性、美的要素の追加などを可能にしている。例えばマスカラでは、「Lumofil」独自のモデリング技術で従来製品よりも細く柔らかい毛を実現。またマイクロレベルで高精度な形状調整ができるため、直毛や巻き毛、まばら、ふさふさなど、それぞれのまつ毛の特徴にあったアプリケーター開発が可能となっている。

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なぜできるのか?

自由度と実現性を備えた設計ソフト

独自開発のコンピュテーショナルデザインソフトウェアを用いて、素材構造の設計・デザインを行っている。機械学習アルゴリズムにより、出力可能な設計・デザインは数百に及ぶ。ソフトウェアでは、製品の視覚化やシミュレーション、試作なども実施可能。プロトタイプの反復が手軽にできるため、開発の迅速化にもつながる。

ロールtoロールの積層造形システム

独自の積層造形システムを開発し、3Dデータからシート状のオブジェクト作製を実現している。MITでの3Dプリント技術などの研究開発をベースに、ロールtoロールのプリンティングプラットフォームとしてデジタルフォトリソグラフィ技術「RAMP」を構築。長さ無制限で連続的な3Dプリント作製を可能にしている。

形状に適したポリマーの独自開発

素材の材料として用いるポリマーも独自開発。OPT Industriesの化学ラボでポリマーの配合を開発し、マイクロレベルでの微細な形状を実現できるよう配合率を最適化している。さらに、アイディアの製品化を行うプロジェクトにポリマーの専門家が参画し、用途や仕様に合わせて調整を行っている。

相性のいい産業分野

医療・福祉

ウイルスや微生物の高精度な採集・検査ができる医療用キットの開発

アート・エンターテインメント

個性を魅力的に見せるパーソナル化粧品アプリケーターの開発

製造業・メーカー

製造ラインの効率化につながるマットやコンベアなどの開発

食品・飲料

未知の歯ごたえや食感を楽しむ食体験を提供できる可食構造体の作製

官公庁・自治体

災害時に雨風をしのぎ雨水をろ過して飲料水を集める構造のテント・備品の開発

生活・文化

エアバックになる服などこれまでにない機能性を持つ服飾品の開発

この知財の情報・出典