No.799
2023.08.25
多面体シートを加熱するだけで、どんな立体にも自動変形できる技術
Inkjet 4D Print
概要
「Inkjet 4D Print」とは、複雑な多面体パターンをプリントした折紙を加熱するだけで立体的なプロダクトに自動変形させる技術。最大で十万本以上の折り目と数万個の面を持つ折紙を、約70度〜100度のお湯などに入れるだけで数十秒で完成させることができる。汎用のUVプリンタと熱収縮するシート状の素材があれば実現できるため、従来の3Dプリントよりも造形時間が短く保管や運搬に優れた次世代のファブリケーション手法として幅広く応用されることが期待されている。
なにがすごいのか?
設計された1枚の折紙シートを約70〜100度で加熱するだけで狙った立体のプロダクトへ変形することが可能
最大で十万本以上の折り目と数万個の面を持つ複雑な折紙を「自己折り※」することが可能(※折紙を人手や機械からの外力で折るのではなく、素材自体が変形する内力で折る技術)
2次元の印刷で3次元の形状を実現できるので造形時間が短い
サポート材が一切発生しないことから環境負荷が小さく、変形前の状態で保管・運搬できることから省スペース
なぜ生まれたのか?
これまでも折紙構造を自動で折る「自己折り」の技術は存在していたが、自動で折れる折り線や面の数は最大で100程度しかなく、作れる形状に大きな制約があった。本研究では、インクジェット印刷の解像度を活用することにより、従来の1200倍以上の解像度を実現した。
折紙の研究分野では、理論上あらゆる多面体を1枚の紙から折れることが明らかになっているが、一方でそのような折紙パターンを手で折ると数時間から数十時間の作業が必要となる課題があった。本研究成果により、それらの非常に複雑な折紙パターンを数秒から数分で自己折りすることが可能に。これにより、実質的にはどんな立体形状でも2次元の製造プロセスと自動変形により実現できるようになった。
なぜできるのか?
独自の折紙設計ソフトウェア
研究チームはこれまでに、入力した任意の多面体を1枚の紙だけで折れることを証明したソフトウェア「Origamizer」、折紙パターンの変形シミュレーションや形状探索を実現した「Crane」を作成してきた。今回の研究ではこれらを拡張し、ユーザが自分で設計した折紙を印刷用のパターンに変換する機能と、ユーザが入力した多面体に折れるような印刷パターンを自動計算して出力する機能両方を実現した。ユーザが入力した任意の多面体を自己折りした成果は世界初である。
超・高解像度の「自己折り」
現状は、最大A2サイズのシートを最小3 mmの辺長で自己折り可能。つまり、最大で88,008個の面を自己折り可能であり、これは従来の自己折り技術の1200倍以上の値である。インクジェット印刷の精細さを活かして露出部の幅を0.1 mm程度のオーダで変化させると、それぞれの折り目の角度を0度から180度の範囲で制御することができる。
熱収縮シートの加熱で狙いのプロダクトを成形
設計した印刷パターンを熱収縮シート(ポリオレフィンのフィルムやポリエステルの布など)に印刷し、パターンが印刷されたシートを約70度から100度の範囲でお湯などで加熱。すると、シートが露出する部分が熱により収縮する一方、シートが露出していない部分の収縮はインク層により抑えられる。この結果、目標としている折紙の形状が完成。非常に複雑な折紙パターンでも、熱を与えるだけで数秒から数分で自己折りすることができる。
汎用的なUVプリンタを使用
プリントするフィルムも含め、UVプリンタも工場やFabLabなどで使用される汎用的なものを使用しているため技術の再現性・応用性が高い。UVプリンタに用いられるインクジェットプロセスは、従来の4Dプリントや自己折りの研究で使われてきた造形手法、例えばFused Deposition Modeling(FDM)方式の3Dプリンタなどに比べて、短時間・高解像度での印刷が可能なため、複雑なパターンのプリントが可能となった。
フルカラー印刷にも対応
UVプリンタがもともとはフルカラー印刷のための装置であることを利用して、形状と装飾を1回の印刷で同時に実現できる。これにより、プリーツのような構造と色の付いたノースリーブジャケット、さまざまな色や模様を個別に印刷できる花束のギフト、お湯をかけることによって変形しメッセージが読めるようになるインタラクティブなポストカードなど、複数のアプリケーション事例を示した。
相性のいい産業分野
- 製造業・メーカー
本来3次元で製造していたプロダクトを2次元で生産することで時間とコストを削減
- 流通・モビリティ
平面のシートの状態で大量にプロダクトを保管・移動できることによる輸送コストの削減
- アート・エンターテインメント
プリンターで出力して身につけることができる4次元アパレルグッズ
- メディア・コミュニケーション
時間や温度によってデザインや見た目が変わっていく4次元広告
- ロボティクス
自己折りで自動変形して自律し、宇宙や僻地を探索できるロボット
- 住宅・不動産・建築
災害時にスピーディに配布して組み立てることができる簡易テント
- 食品・飲料
熱湯を注ぐと容器も形状変化するカップ麺
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 東京大学 大学院工学系研究科
東京大学
大学院工学系研究科
鳴海 紘也(特任講師)
小山 和紀(修士課程)
野間 裕太(博士課程)
川原 圭博(教授)
大学院総合文化研究科
舘 知宏(教授)<大学院工学系研究科 兼担>
大学院情報理工学系研究科
五十嵐 健夫(教授)
宮城大学事業構想学群
佐藤 宏樹(准教授)
Nature Architects株式会社
須藤 海(取締役CRO 研究職として参画)
エレファンテック株式会社
杉本 雅明(取締役副社長 研究職として参画)