No.1151
2026.07.08
大阪・関西万博での実証に成功、32℃を超える高温環境下でも動作するセンサーシステム
体温と外気の温度差で動作する無線脳波伝送システム

概要
「体温と外気の温度差で動作する無線脳波伝送システム」とは、体温と夏の屋外の高温での温度差で得られたエネルギーだけで動作する無線脳波伝送システム。近年、ウェアラブル機器やIoTデバイスの実用化が進む中で、バッテリー寿命や充電の手間が大きな課題となっている。特に、高精度な信号計測を省エネで実現することは難しく、技術的なブレイクスルーが求められてきた。こうした背景を受け、より省エネで動作し、さらには外部電源に頼らずエナジーハーベスター(光・熱・振動・無線電波など環境エネルギーを電力に変換する発電素子)で半永久的に動作するセンシングシステムの確立が強く期待されている。このシステムは、熱電発電素子と呼ばれるデバイスに手のひらを当て、体温と外気温(32℃台)の温度差から得られる電力のみで動作する。大阪大学大学院工学研究科の兼本大輔准教授の研究グループが開発し、大阪・関西万博の屋外で実証実験を実施したところ、32℃を超える高温環境下でも動作することが確認できた。外の気温が人の体温に近づくにつれて得ることができるエネルギー量は減少するが、今回の研究結果では、温度差がわずか数度であっても、連続的な無線脳波伝送が可能であることが示された。
なぜできるのか?
体温と外気の温度差で得られたエネルギーで動作する省エネシステム
体温と外気のわずかな温度差で得られたエネルギーだけで動作する無線脳波伝送システム。ウェアラブル機器やIoTデバイスの実用化の中で、バッテリー寿命や充電の手間が大きな課題なっており、高精度な信号計測を省エネで実現することは難しかった。大阪大学大学院工学研究科の兼本大輔准教授の研究グループは、過去の計測で得た波形に潜む「似た特徴(類似性)」を手がかりに、少ないデータからでも高精度に波形を計測するシステムを構築し、少ないデータから波形を高い再現性で得られ、省エネと高精度の両立を達成した。同グループは、この波形類似性に基づく復元手法を圧縮センシングに組み込み、熱電発電素子を備えた無線脳波伝送システムを構築。圧縮センシングとはわずかな観測データから元の波形を復元する信号処理手法の一つで、これにより、信号を間引きながら取得することで、センサー側の大幅な省エネ化を図りつつ、波形類似性に基づく復元により高精度な波形再構成を可能とする無線脳波伝送システムを実装した。特別な専用機器を必要としないため、産業応用へ展開しやすい構成になっている。
大阪・関西万博での実証実験に成功
大阪・関西万博の屋外で、実証実験を実施。32℃を超える高温環境下でも、システムは正常に動作し続け、外部電源や送風装置は一切必要なかった。実証では、熱電発電素子に手のひらを当て、体温と外気温(32℃台)の温度差から得られる電力のみでセンサー側(送信側)を駆動した。その結果、センサー側で圧縮した脳波を無線送信でき、受信側で高精度に復元できることが確認できた。この結果は、高温の屋外環境で体温と外気温の温度差が小さく発電量が限られる状況でも、簡単な発電デバイスで得られるわずかなエネルギーでセンサー側が動作し、無線送信と受信側での復元が成立することを示している。この成果は、充電や電池交換が難しい状況でも、生体信号を連続的に取得・送信できる可能性を示すもの。研究チームの長期的な目標は、メンテナンス不要で半永久的に稼働できるセンシングシステムを開発することであり、外部電源を必要としない無線脳波伝送システムは、実用的でメンテナンスフリーのセンシング技術に向けた重要な一歩だとしている。
医療から災害時まで幅広い展開が可能
医療・介護現場での計測、屋外活動中の連続計測に基づく健康管理や、災害時・避難時のモニタリングへの展開、脳波に限らず各種センサーのバッテリーフリー化にも展開が期待できる。例えば、設置後に電池交換を要さず長期にわたり故障兆候を監視するインフラセンサーや、自然災害の兆候を早期に捉えるセンシングへの応用が挙げられる。今後、エナジーハーベスティングを活用したバッテリーフリー計測技術として発展させることで、運用負担・コスト低減と電池廃棄の削減を同時に進め、センシングのあり方を大きく変えることが期待される。
大輔准教授によるバッテリーレスセンシングがCOOL Chips 29で受賞
国際会議 IEEE Symposium on Low-Power and High-Speed Chips and Systems(COOL Chips 29)において、兼本准教授によるバッテリーレスセンシングのデモ発表がFeatured Poster Awardを受賞した。この発表では、無線脳波伝送の実機デモと従来のセンシング技術との比較を通じて、限られた環境エネルギーで動作するセンシング技術の有効性、省エネ性、および実用可能性を示した。
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