光で固まり、熱で液体に戻る光造形材料
完全再生型3Dプリンティング樹脂

概要
「完全再生型3Dプリンティング樹脂」とは、光で固まり、熱で液体に戻る光造形材料。「光造形」は、3Dプリント技術の中でも特に高精細な造形が可能で、非常に細かな形を作れる反面、従来の樹脂は一度固まると溶かして再利用することがほぼできず、材料の無駄や廃棄が問題となっていた。東京理科大学の向井理助教と横浜国立大学の丸尾昭二教授の研究グループは、光を当てると固まり、加熱すると再び液体になる材料を開発し、10回以上繰り返してリサイクルできることを実証した。髪の毛より細かい立体も作れるため、精密部品や医療用デバイスに応用でき、環境にも優しい光造形技術として期待されている。また、試作段階で大量に廃棄されてきた光造形樹脂の使用量を大幅に削減できる可能性があり、持続可能なものづくりへの貢献も期待できる。この研究成果は、2026年2月21日付で国際科学雑誌「ACS Omega」掲載され、ACS Editors' Choiceに選出された。


なぜできるのか?
光と熱のみで硬化と再液化を繰り返して使える材料
従来の光造形樹脂は一度固めると、再び溶かして使うことが困難だった。トライ&エラーを繰り返す研究開発では大量の未使用樹脂や廃棄物が生じ、材料コストの増大や環境負荷が課題となっていた。また、再利用を可能にするためには化学薬品の追加や特殊処理が必要で、材料の劣化、再利用するたびに色や強度が低下する、高精細造形に必要な強度を満たさないなども問題となっていた。研究チームが開発した材料は、アントラセン分子の光による可逆反応を利用することで、光で固まり、加熱で液体に戻る特性を持っている。光開始剤や再生用添加剤を一切必要とせず、光と熱のみで硬化と再液化を繰り返すことができる。実際に10回以上の造形と再生を繰り返しても、十分な強度があることが確認できた。
光を当てると固まり、熱を加えると離れるアントラセンで硬化・再液化の繰り返しを実現
アントラセンは、光を当てるとアントラセン部分が光で二量化して結合し、加熱すると二量体が解離して元の分子に戻るという光二量化反応と呼ばれる仕組みを持っている。この反応は、追加の薬品を必要とせず、光と熱だけで繰り返し行えるため、従来の再生可能樹脂で問題となっていた「添加剤による化学組成の変化」や「再利用のたびに進行する劣化」を避けることができる。研究グループは、これを利用したアントラセン材料をベースに、光造形に適した流動性・光反応性・強度を持つように適応させた。これにより、加熱すれば元の液体状態に戻り、硬化・再液化を繰り返すことが可能な材料を実現した。
高精細3Dプリントに必要な反応性・硬化安定性・形状再現性を実証
実際に高精度の光造形プロセスに耐えられるかを検証するため、二光子光造形による3D造形実証を行った。二光子光造形は、フェムト秒レーザーを一点に強く集光させることで、一般的な光造形よりもはるかに小さな領域にだけ反応を起こすことができ、サブミクロン(1µm未満)の非常に細かな3D構造を作り出せる技術。実験では、独自開発した二光子造形装置を使用して、材料にレーザーを走査しながら照射することで、理論上の最小線幅に近い0.6µmの細線構造を形成できることが確認できた。また、単純なラインパターンだけでなく、多様な三次元造形も実証した。これらの結果は、実際の高精細3Dプリントに必要な反応性・硬化安定性・形状再現性を十分に備えていることを示している。
強度劣化や脆さの増加もほとんどない安定した性能を維持
この材料が持つ最大の特長である「光で固まり、熱で元に戻る」という性質が実際の造形物の再利用プロセスとして機能するかどうかを検証する実験を実施。実験では、二光子光造形によって3Dモデルを作製し、未硬化樹脂を除去した後、その造形物を150℃で加熱して融解させ、融解後に再び樹脂として利用して新たな造形物を作製した。この作製した構造物の形状の再現性は良好で、造形プロセスに必要な流動性や光応答性も維持されていた。この「固化→溶融→再造形」のサイクルを複数回繰り返しても、造形物の表面性状や形状安定性に大きな変化はなかった。また、従来の再生可能樹脂で問題となっていた「強度劣化」や「脆さの増加」もほとんどない安定した性能を維持できた。さらに、文字を描いては溶かして消すという10回以上の書き換え実験でも、材料が高い再現性で硬化、溶融を繰り返し、光造形材料としての性能を保ち続けることも実証した。
相性のいい産業分野
- 製造業・メーカー
3Dプリントによる製品開発や試作品への活用
- 航空・宇宙
宇宙用の精密部品や構造物への応用
- 食品・飲料
再利用できるパッケージへの展開
- アート・エンターテインメント
3Dプリントによる造形作品やオブジェへの活用
- 環境・エネルギー
材料の再利用による環境への貢献
この知財の情報・出典
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