No.1044

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2025.06.10

認知症やがんの治療薬を脳や患部に確実に届ける

血管を開放することによる薬剤の送達技術

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概要

「血管を開放することによる薬剤の送達技術」とは、末梢血管に陰圧波を照射することで、タイトジャンクションを一時的に開放し、血管内の薬剤などの内容物を狙った部位に漏出させる新しいドラッグデリバリーシステム(DDS)である。陰圧波を用いて非侵襲的かつ高精度に血管透過性を制御できるのが特徴で、従来のFUS+マイクロバブル法に依存せず、単独で血管開放を実現した。陰圧波+マイクロバブルによる血液脳関門(BBB)の開放による認知症や、がん組織におけるEPR効果の増強による抗がん剤送達の最適化といった応用が期待されており、副作用の軽減や治療効果の飛躍的な向上につながる可能性がある。

スクリーンショット 2025-06-05 18.04.36 マウスの右耳に陰圧波を照射して開放する実験の写真。陰圧波を照射した部位から、エバンスブルーが漏出していることが確認できる。マイクロバブル等を併用せずに、陰圧波単独で血管の開放に成功した初めての事例である。

なにがすごいのか?

  • 陰圧波を発生させることが可能

  • 発生させた陰圧波を末梢血管に照射して血管を開放

  • 認知症や癌など、患部を栄養している末梢血管を開放して薬剤を患部に送達可能

なぜ生まれたのか?

認知症には根本的な治療法が存在せず、患者数は年々増加し、社会的な問題となっている。認知症治療薬が十分な効果を発揮しない主な要因に、薬剤が脳に到達しないことがある。脳には血液脳関門(BBB)と呼ばれる強固なバリアが存在し、大半の薬剤はこの関門を通過できない。そのため、BBBを一時的に開放し、薬剤を脳内に確実に送達する手段が確立されれば、認知症の治療が可能となる可能性がある。

また、がんの三大治療法の一つである化学療法においても、抗がん剤をがん組織に効率よく送達することは極めて困難である。そのため、現在の癌化学療法では補助的な治療にとどまっており、癌の局所的な治療も行われていない。主な理由は、抗がん剤の送達がEPR(Enhanced Permeability and Retention)効果に依存していることにある。

EPR効果は、がん組織の血管に存在する微細な隙間を利用して薬剤を送り込む仕組みであるが、この効果には限界がある。もし、がんを栄養する血管を意図的に開放し、より大きな隙間を形成できれば、抗がん剤の送達効率を大幅に高めることが可能となる。たとえば、血管の開放によって薬剤の送達量を10倍にできれば、抗がん剤の投与量を1/10に抑えながらも、同等の治療効果が期待できる。これは、副作用の大幅な軽減と治療の質の向上を同時に実現しうる新たな治療戦略となり得る。

このように、本技術は、認知症およびがん治療における「薬が届かない」という本質的課題を解決するために開発されたものであり、既存の治療法を根本から刷新する可能性を秘めている。

なぜできるのか?

一般的な超音波の発生原理と限界

超音波を発生させる場合、圧電素子に正電圧を連続的に印加し、素子が伸び縮みを繰り返すことで圧力波を発生させる。素子が伸びる際には陽圧波が、収縮する際には陰圧波が生じ、この交互の圧力波が数十万回毎秒の音波となって伝播し、超音波となる。通常の超音波にも陰圧波は含まれているが、陰圧波のみを分離・制御することは不可能であり、医療応用などにおける陰圧波の単独利用には限界があった。

陰圧波を単独で発生させる独自技術

この技術では、圧電素子に逆電圧を単発的に印加することで、陰圧波のみを強調して発生させることに成功している。逆電圧が印加された圧電素子は収縮し、その結果として陰圧波が最大の圧力波として照射される。この逆電圧は、圧電素子の振動が完全に停止した後に次のパルスを印加するため、音波エネルギーが熱に変換されることがなく、周囲の組織を損傷することもない。さらに、発生した陰圧波は空間的に集束され、焦点において爆発的な引っ張り圧力を生じさせることが可能である。

相性のいい産業分野

医療・福祉

認知症やがんの革新的治療法

生活・文化

高齢者の健康寿命延伸に貢献

製造業・メーカー

医療機器や超音波装置の製造応用

官公庁・自治体

高齢者向け地域医療政策への活用

IT・通信

脳波連携型ヘルステックとの統合

この知財の情報・出典

特許番号:特許第7572744号
発明の名称:血管壁の透過性亢進装置
特許権者:有限会社ユーマンネットワーク
代表者名:運天 記代子
発明者:運天 満