No.911
Tech Direction Awards受賞作品
2024.08.27
機械式腕時計の正確な1秒を水滴で表す時間表現装置
時のしずく
概要
「時のしずく」とは、機械式腕時計の正確な1秒毎のリズムを音で拾い、水滴で表現した時間表現装置。時間という概念を水で捉え直すことで、分解可能な「1秒という単位」、加えて分解不可能な「時間の流れ」という時間の二つの性質を表現する。1秒を1滴で表す人工的な美しさだけでなく、排水の過程で制御できない水の持つ不定形な自然美が現れる。この今という瞬間、果てしなく流れゆく悠久な「時」に思いを馳せる美しい時間と共に、人々に「時間とは何か?」の問いを与える。
なにがすごいのか?
複雑な構造を持つ仕組みに対して、シンプルかつ美しいデザインの見た目
人工的に正確に刻まれる1秒を1滴のまとまりのある水滴で表現
排水を水が貯まり溢れていく過程で表すことで水の不定形な自然美を表現
正確な時計の音(6Hz)と連動して水滴を制御する機構
なぜ生まれたのか?
セイコーの機械式腕時計の特性と魅力を伝える展覧会、「からくりの森2023 機械式腕時計とAnimacy(生命感)の正体」(2023 /10/13〜2023/12/24)に向けて、「機械式腕時計をテーマに作品を作る」という依頼をsiroが受けて制作が始まった。
そこで機械式腕時計を調べていくうちに、「歩度測定器」というものに出会う。「歩度測定器」とは、時計を組み立てた時に、その進み具合(歩度)を調整する装置。この測定器は時計の振動を「音」に変えて計測をしている。心臓の音で健康状態を見るように、時計の音で周期を計測する魅力に着眼点を得て制作を開始。
さまざまなアイデア出しの中で、水を使って時間を考えていくアイデアが生まれる。刻々と生まれる水滴が時間の経過と共に一つになり貯まって流れていく。そのような「時を刻むもの」を作ってみようと制作された。
なぜできるのか?
時計の正確な1秒を1滴ずつ水滴で表現する工夫
水が置かれる天板に超撥水の塗料を使うことにより、水が集まろうとする性質が働き、水滴が綺麗な球の形状に。まとまりが崩れないように、0.1mmだけ凹みをつける設計を施す。1分を60粒の水滴で表すために、60個のチューブを使用。円状に1粒ずつ水滴が湧き出し、風を使って水滴を落とすことで、時計が時間を刻むように循環する仕組みに。
圧縮空気方式で水が湧き出す仕組みにすることで、シンプルなデザインを可能に
圧縮空気方式とは、空気を圧縮することで水を押し出す方式。空気と水の入ったタンクに、コンプレッサーで空気を追加していき、空気の体積を減少させ、圧力を上げる(圧縮)。圧縮された空気の元に戻ろうという性質により、穴から水が吹き出すようになる。その穴に電気弁をつなぐことで、水の噴き出しを制御する。このように圧縮空気で押し出す水を電気弁でコントロールすることで、正確な機械式時計の1秒と連動させ、水滴を湧き出させることが可能になる。
一滴ずつ水を落とすために風を回転させる仕組み
風で水滴を落とすために、風を出すノズルを回転させている。シンプルな見た目にするために、時計を置く真ん中の柱に配線を通したいが、空気を出すノズルを回さなければならない。それを、ロータリージョイントを使うことで解決。
排水過程で自然の曖昧な時間の流れを表現
中心(機械式腕時計)→水滴(秒)→水の貯まるお堀→排水という外に行くにつれ、人工的で正確な時間から、自然的で曖昧な時間へと表現が変化する。風で押し出された水滴は、水の貯まったお堀に落ちる。お堀に貯まった水が溢れると、排水されるかたちにデザイン。湧き出る水は正確だったが、排水部分は秒単位で決まって溢れるわけではなく、不定形に曖昧に振る舞う。「お堀に落ちる水の波」や「溢れ出る水」にコントロールできない自然美が現れる。
相性のいい産業分野
- 生活・文化
人工と自然の時間意識の違いの認識
- 教育・人材
「時間とは何か?」という問いを生み出す知育装置
- 製造業・メーカー
水を使って時間を表現する時計の開発
- アート・エンターテインメント
水滴を湧き出させ、動かす仕組みを使った新たな表現
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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