No.1031
2025.04.23
光技術を活用した6G時代の革新的な通信インフラ構想
IOWN(アイオン)

概要
「IOWN(アイオン)」とは、NTTが開発する最先端の光技術を活用した次世代情報通信基盤の構想。フォトニクス(光)ベースの技術をネットワークからコンピューターまで導入し、従来のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では達成困難な情報処理基盤の飛躍的な向上を実現する。「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」「デジタルツインコンピューティング(DTC)」「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」の3つの要素で構成され、2030年までに電力効率を100倍、データ伝送容量を125倍、通信遅延を200分の1にすることを目標としている。次世代の6Gが目指す「超高速・超大容量通信」「超低遅延」「超低消費電力」の実現を支えるインフラ基盤として、また高度な未来予測と精緻なデータ収集を可能にする技術として、持続可能で発展的な社会の構築に寄与すると期待されている。
※IOWN(アイオン)は、Innovative Optical & Wireless Networkの略。
なぜ生まれたのか?
IOWNの誕生の背景には、情報通信技術の発展によって深刻化する膨大な電力消費の課題がある。現在、世界のデータセンタのデータ量と消費電力は大幅に増加し続けている。世界全体のデータ量は2010年から2025年にかけて約90倍に増加すると予測され、さらにAIやIoTの進展による電力量の増大も問題となっている。このままでは地球環境への負荷が限界を迎え、ICT産業自体の持続可能性も危ぶまれる重大な事態になり得る。
加えて、現代社会では、自然災害、社会的分断、気候変動など、人類の安寧を脅かすリスクが増大している。また、ICTの発展により個人の生活は便利になったものの、情報や時間に追われ、心のゆとりを失っているという指摘もある。
こうした世界的課題や生活レベルの問題を解決し、Well-beingな世界を実現するためには、社会をより深く理解する必要がある。そのためには、多種多様な情報を精緻に観測・収集・分析し、未来を予測できる技術や仕組みが不可欠である。このような考えから、次世代情報通信基盤をもとにWell-beingな世界の実現を目指すIOWN構想が誕生した。
なぜできるのか?
次世代の通信インフラを築くオールフォトニクス・ネットワーク(APN: All-Photonics Network)
「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」とは、ICT基盤の全てに(コンピュータ内部まで)光ベースの技術を導入する革新的なネットワーク構想。コア技術である「光電融合技術」は電子回路と光回路を統合する技術で、エレクトロニクスの問題である熱発生によるエネルギー損失と速度低下を解決する。従来、質量のない光を電子と同様に微細な領域に閉じ込めることは非常に難しい技術であった。しかし、NTTは屈折率が周期的に変化する「フォトニック結晶」構造によって光を小さな領域に閉じ込めることに成功した。APNが実現すれば、データ容量や消費電力の増大といった課題が解決されるだけでなく、超高速・低遅延・大容量の通信で、革新的な技術やサービスが誕生するきっかけとなるだろう。
高精度の未来予測を仮想空間で行えるデジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
「デジタルツインコンピューティング(DTC)」は、実世界を高精度なデジタル情報として再現し、モノやヒトの情報を自在に組み合わせる新しい計算パラダイム。従来のデジタルツインが個々の対象を単体で分析・予測するのに対し、DTCは多様な産業・モノ・ヒトのデジタル情報を組み合わせることで、都市内の複雑な相互作用を高精度に再現し分析する。実際に、地理空間情報にセンシングデータを統合し、緯度・経度・高さ・時刻の4Dデータを提供する「4Dデジタル基盤™」は実用化が進み、リアルタイムかつ高精度なシミュレーションに成功している。さらに、ヒトの内面や思考のデジタル表現にも取り組み、個々人の特徴を反映した多様性のある相互作用を目指している。
複雑なICTリソースを自律管理するコグニティブ・ファウンデーション®(CF: Cognitive Foundation®)
「コグニティブ・ファウンデーション®(CF)」は、ICTリソースを全体最適に調和させ、ネットワーク内で必要な情報を円滑に流通させるための基盤技術。CFを支えるキー・テクノロジーである「マルチオーケストレータ」は、クラウドやエッジ、ネットワーク、端末まで含めたレイヤの異なる複数のICTリソースを最適に統合し、管理・運用を一元的に実施する。全てのICTリソースを柔軟に制御し、調和させるためのポイントは「自己進化」と「最適化」にある。それを可能にするのが、「自己進化型サービスライフサイクルマネジメント」。これは多様な情報を基にシステムが自ら考え最適化し、未来予測を用いて進化し続ける仕組みである。これら技術が成功し、CFが実用化されれば、ICTリソースの飛躍的な増大に対応でき、企業の枠を超えた広範な世界でのリソース連携が可能になるだろう。
相性のいい産業分野
- 製造業・メーカー
工場にDTCを用いて、仮想空間で異常の早期検知や危険な場所へロボット派遣を行う
- 流通・モビリティ
膨大な交通データの低遅延統合・解析により、MaaSや公共協調運転などの高度な自動運転を実現する
- 資源・マテリアル
資源探査にDTCを用いることで、最適な採掘ポイントを予測し、資源開発の環境負荷を最小化する
- 医療・福祉
低遅延通信による専門医の遠隔手術やリハビリ指導で「どこでも高度医療」を実現
- 農業・林業・水産業
無人農機導入による労働力不足解消や、環境条件に応じた農作業のリアルタイムの最適化による「スマート農業」の実現
- 旅行・観光
旅先の混雑状況や気象情報をリアルタイムで統合し、観光客一人ひとりに最適プランを提案するデジタルツイン・ツアーガイドを制作
- アート・エンターテインメント
演奏者間の遠隔リアルタイムセッションや大規模eスポーツ大会の開催
- 官公庁・自治体
災害時、DTCとCFで被害予測と通信網の再構築を行い、避難誘導や物資配給を最適化する
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top Image : © 日本電信電話株式会社
この記事のタグ