No. 170 表現力と開発効率を飛躍的に高めるプロシージャルCG

Houdini(フーディニ)

(c) Serjan Burlak

Houdini(フーディニ)は、コンピュータグラフィックス(CG)における手続記述型モデリング(Procedural modeling)のための代表的なソフトウェア。デジタイザやモーションキャプチャを使用して明示的に形状を記述する手法とは異なり、形・動き・色に現れる生成規則をプログラミング言語や数式を用いて論理的に表現することができる。将来的には、莫大な工数が必要とされるオープンワールドゲームの人工物・背景の自動生成や、古典的装飾様式の大量生産などへの応用が期待されている。

なにがすごいのか?

  • 高度なヴィジュアルエフェクト(VFX)を実現するソフトウェア
  • 他者とワークフローを共有することで開発効率が格段にアップ
  • プログラム実行毎に異なるCGを自動生成可能

なぜ生まれたのか?

CGの歴史の中で様々な言語やツールが開発されてきたが、「自然界の現象を再現するシステムを作る」という目的に関しては、これと言える決め手がなかった。たとえば、「Processing」は2次元のシミュレーションに強みがある一方で、複雑な3次元形状はモデリング機能の不足ゆえに作成が難しいし、「Maya」は複雑な3次元造形に強みがある一方で、数理的なコントロールは不得手だと言われている。

Houdiniは、こういった問題点を解決するものである。従来存在しなかったProcedural CGモデリングに特化したソフトウェア「PRISMS」(1987年)の後継として1996年に登場して以来、ハリウッド映画やビデオゲームでの活用事例が認知され、加えてパーソナルコンピュータの普及や3Dプリンターの民主化に伴うメイカー・ムーブメントを受け、徐々に知名度を上げてきた。現在もなお、主に建築分野で進展してきた「アルゴリズミック・デザイン」の手法を異分野に波及させ、よりバイオモーフィックな形態を実現できる手立てとして、ますます期待が高まっている。

Houdini 18 Sneak Peek

実現プロジェクト

(c) 2020 Masaharu Ijichi

龍が如く7 光と闇の行方

建物や道路は一定のルールに基づいて作られている。たとえば、建物は建築基準法などに則って、道路は昭和35年に国土交通省によって制定された法律に則って作られている。ゲーム『龍が如く7 光と闇の行方』(2020年1月発売)では、こういったルールに基づき、道路標識、区画線、道路標示、車線の数や幅、車線変更線、停止線、歩道、側溝に至るまでがアルゴリズム化された。

参考:上記ゲーム開発に携わったテクニカルアーティスト、伊地知正治氏は他にも、Houdini用いた自動ダンジョン生成の実験なども行っている。ランダムシードを変える度に異なるダンジョンが生成されるのが特徴だ。


Splendor (c) 2018 TAKAYAMA, Joe

Splendor

「美は論理で記述できるか?」
日本のCG黎明期に大きな役割を果たした研究者である、故・大平智弘氏はそう言った。しかし、あらゆる諸相が極めて写実的にCGとして表現できるようなった現在でも尚、人間が感性に基づき美を見出し造形表現する過程を自動化・手続化することは難しい。

このような状況の中、大平氏に師事した研究者、高山穣氏(武蔵野美術大学)は、大平氏の意思に従い、数式やプログラミングを用いたCGアート作品制作や、様式化された美としての古今東西における装飾文様のアルゴリズム化に取り組んでいる。この取り組みの特徴は、装飾美術の特性に着眼している点である。すなわち、装飾美術の多くが、文化・歴史・宗教など様々な背景に基づき社会的に発展してきたために、数理的なルールが明確である可能性が高いという特性である。これは、芸術家自身の感性に基づいて制作されるファインアートの特性とは対照的なものだ。高山氏の取り組みに関する具体的なものには、ゴシック様式特有の尖塔アーチに展開される装飾を自動生成させるアルゴリズムの開発、日本独自のガラス工芸である切子や、欄間などに見られる木工細工である組子に見られる装飾文様などといった日本伝統工芸の手続化などがある。

こういった取り組みによって生まれた作品の一つが「Splendor」であり、ここで使用されたソフトウェアこそ「Houdini」である。作りたい”絵面”からではなく美に潜む”仕組み”から制作されたという意味で、Houdiniの強みが最大限に活かされた例だと言えるだろう。

「Splendor」。アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA2018の大賞作品として注目を集めたことも記憶に新しい。


なぜできるのか?

ノードベースのワークフロー

あらゆる処理をノードに格納し、ノードをネットワーク状に配線する。ノードのもつ属性情報はネットワーク上を伝播していくため、プロシージュラルに結果を出力できる。

デジタルアセットを共有

ノードネットワークを共有可能なカスタムノードにカプセル化することで、コードを書くことなくデジタルアセットを作成し、他者と共有できるため、開発効率が向上する。

相性のいい分野

アート
SF映画における、論理で描ける未来的装飾・小道具・美術セットのデザイン
ライフスタイル
美の感覚のビックデータに基づいた、国民性の違いと感受性のマップ
VR
かつて無いレベルで鮮やかなデジタル世界を体験出来る、リアリティのある没入環境を創造

知財情報

主な知財ホルダー:Side Effects Software Inc.

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。

知財ハンター

小髙 充弘 Mitsuhiro Odaka
Media Artist / Konel Inc.

1991年生、神戸出身。学士(医学,理学)。広義の「感染」に関するメディアアート制作を行う。病原体、行動、モラル等が、複雑に跨ぎ合うつながり構造の上を拡散・極性化する現象に関心がある。その関心の下で、データによる予測可能性を超えた逸脱的な意味付けの内部に人間が人間たる規定要因を探したり、疎外された逸脱主体と他との交流の回復がありうるのか探ったりしている。