No. 254 入眠時の脳活動パターンに基づく夢解読

ブレイン・デコーディング

Kamitani Lab, Kyoto University

「ブレイン・デコーディング」は、入眠時の脳活動パターンから“どんな夢を見ていたのか” を解読(デコード)する技術。ヒトが眠りに入る頃、脳は外部からの刺激に関係なく自発的に何らかのイメージを生み出すという。「ブレイン・デコーディング」は、こういった脳が作り出すイメージやイメージに登場した物体を予測することで、夢を客観的に評価する。

従来、心の状態や夢の内容というものは眠っている本人しか分かるはずのないものとされ、脳において夢がどう表現されているかは謎に包まれていた。一方「ブレイン・デコーディング」の登場によって、起きたまま特定の画像を見ているときの脳活動と夢の中で似たイメージや物体を見ているときの脳活動、ふたつの脳活動のパターンには共通点があるという事実が、世界で初めて突き止められることとなった。

将来的には、自発的に生じる脳活動の機能解明、心理状態の可視化、想像・幻覚の解読、不安・恐怖要因の分析を通じた精神疾患の診断など、幅広い応用に繋がると期待されている。

「ブレイン・デコーディング」によって夢を解読する実験の概要。
脳波計を装着した状態でfMRI装置の中で眠っている被験者について、脳活動を計測する。夢見に関連する特徴的な脳活動パターンを観測し、そのタイミングで被験者を起こして夢内容を報告してもらう。起こす前の高次視覚野の入眠時脳活動パターンから、夢に現れる物体や風景のカテゴリ(「本」「車」「女性」など20種類)を解読し、夢報告の内容と比較する。結果、脳内イメージの予測精度は70%以上の好成績を収めた。

夢で見た物体の形や色を再構成するわけではないが、その夢に“どのような種類の物体や風景が現れたか”を予測できるのが「ブレイン・デコーディング」の特徴だ。

実現プロジェクト

(c) 2018 Hanayuki Higashi

dissonant imaginary

音を聴いた時の脳内イメージを「ブレイン・デコーディング」で具現化した、真鍋大度氏(ライゾマティクス)と神谷之康研究室による共同作品。聴覚と視覚の相互作用、音と映像の関連性について着目し、音を聴くことで変化する視覚野・連合野の脳活動データから画像が再構成される様子を可視化する。脳活動と音・映像の関係性、クロスモーダル現象(*1)に関するアートプロジェクトを通じて制作された、オーディオビジュアルインスタレーションである。

(*1) クロスモーダル現象: 本来別々の知覚が互いに影響を及ぼし合う現象。赤色の甘味料が入った飲み物からイチゴ味を連想するなど。

「音楽は映像体験にどのような影響を与え、またその逆に映像によって音楽体験はどの様に変化するのであろうか。映画を観ただけで脳活動から音楽が自動で生成される、または音楽を聴いただけで映像が生成される未来はどの様な形で実現されるのだろうか。ブレイン・デコーディングを用いた本作品を通じて未来の音楽と映像の相互作用について考える。」

dissonant imaginary at Sonar Barcelona 2019 – Daito Manabe + Kamitani Lab, Kyoto University and ATR


なぜできるのか?

夢に物体が現れたか判定する「デコーダー」

脳血流の増減を画像にする装置(fMRI)内で、被験者に2,000枚ほどの画像を見せ、色や形への脳の反応を調べる。この調査データをもとに、物体が登場したかを脳活動パターンから予測する「デコーダー」をつくる。デコーダーは脳活動をパターン認識して、各物体の存在する度合いのスコアを表示する。

実験で明らかになった「夢の正体」

覚醒前9秒間の脳活動を計測し、夢報告に現れた物体を正しく検出できるか、デコーダーで調べた。結果、3人の被験者から好成績で検出できた。実験結果より、「ブレイン・デコーディング」が脳活動パターンから夢報告の物体を高精度で予測できることがわかった。

実体の掴めなかった夢を読めるように

「ブレイン・デコーディング」実現の上で非常に特徴的な点は、夢と現実とで脳活動を比較するために、カテゴリ名と紐づく画像データを、ウェブから大量に集めた点にある。これによって、コントロールが困難かつ不定形な夢を、客観的・定量的・高精度に扱えるようにしたのである。

相性のいい分野

エンターテインメント
見たい夢だけを見る「夢の録画&動画編集」
ライフスタイル
夢に対応する特定の脳活動パターンで脳を刺激することで、見られなくなった幼い頃の夢を見られる想起プログラム「あの素晴らしい夢をもう一度」
ブレインマシンインターフェース
脳活動パターンと夢の中のイメージが紐づくことを利用、食べたいものを強く想像することで脳の特定部位の活動を強め、これを検知したコンピュータに電源を入れさせるしくみ「豊かな想像力でスイッチON」
メンタルヘルス
脳からの夢解読内容と覚醒時の経験・行動とを比較、夢がどのように人間の経験・行動を形作っているのか手がかりを得る研究

知財情報

主な知財ホルダー: 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR)

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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知財ハンター

加藤 なつみ KatoNatsumi
Assistant Producer / Konel Inc.

群馬県富岡市出身。信州大学感性工学科主席卒業、イノベーション教育プログラムi.school修了生。人が持っている感性や想像力を引き出すものづくりを志し、プロダクトからサービスデザインまで、幅広く仲間と活動中。日本文化や美意識、感覚拡張、自然界の仕組みに高い関心がある。


知財ライティング: 小髙充弘