No.1178
2026.08.04
先端科学と「輸送反応」を利用し、赤ちゃんの寝かしつけを科学でサポートするアプリ
SciBaby(サイベビー)

概要
「SciBaby(サイベビー)」とは、赤ちゃんの寝かしつけを科学でサポートするアプリ。先端科学と「輸送反応」を利用し、親子の眠りをサポートする。東京科学大学 Science Tokyo 生命理工学院 黒田研究室が赤ちゃんの泣きと睡眠を研究する目的で作成したアプリで、開発には科学技術振興機構の支援を受けている。腕時計型光学式センサー「Polar VeritySense」とアプリを連携し、赤ちゃんのふくらはぎ、または太ももにセンサーを取り付けることで赤ちゃんの心拍数をモニタリングすることができる。動作原理は理化学研究所より特許を取得している(国際特許番号 PCT/JP2023/008805)。
なぜできるのか?
「輸送反応」や実証による基礎研究をもとに開発されたアプリ
東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系の黒田公美教授、原地絢斗研究員、情報理工学院 情報理工学系の吉村奈津江教授らの共同研究グループによって開発されたアプリ。黒田研究室は、哺乳類の乳児が抱っこして運ばれるとリラックスし泣き止む「輸送反応」を2013年に発見した。このアプリはこの「輸送反応」という現象に基づいたもの。また、2022年に研究チームは、5分間の連続歩行の後、8分間座らせて抱っこすることが、睡眠を誘発するのに非常に効果的であることを実証した。これらの基礎研究をもとに、アプリでは、保護者が5分間の抱き歩きとその後の抱き座りによって乳児の自然な眠りを誘導するのを助ける。さらにSciBabyは乳児の足に装着した腕時計型脈拍センサからデータを取得し、乳児の睡眠を予測するAI開発に貢献する。
3つのモードとPolar VeritySenseを用いた心拍数のモニタリング
「抱き歩き」、「お試し版 抱き歩き」、「記録データ」の3つのモードが用意されている。「抱き歩き」モードは、 Polar社製の腕時計型光学式センサー「Polar Verity Sense」とアプリを連携させ、このセンサーを赤ちゃんのふくらはぎ、または太ももに取り付け、赤ちゃんの抱き歩きをすることで、赤ちゃんの心拍数をモニタリングすることができる。アプリが理想的な歩行テンポの音楽を流し、歩行から座る、そして就寝へと移行するタイミングを知らせてくれる。「お試し版 抱き歩き」は、簡易版の寝かしつけモードとして用意されており、脈拍数などの本格的な記録はできないが、センサー不要で使用することができる。「記録データ」モードでは、各モードの計測時刻、赤ちゃんの状態とメモを一覧で確認することが可能となっている。
30人の乳児を対象とした300回の試行を実施
30人の乳児を対象とした300回の試行の中間結果によると、泣いていた乳児の84.4%が5分間の歩行後に泣き止んだ。さらに、その後の8分間の座った状態での抱っこでは終わりまでに58.4%が眠りについた。89人の乳児を対象としたより大規模な実証実験では、5分間の歩行後に89.7%、10分後に93.6%が泣き止んだことが確認された。しかし、乳児の約20%はベッドに寝かせると目を覚ましてしまうため、研究チームはPolar Verity Senseセンサーで収集したデータを用いて、ベッドへの移行に最適なタイミングを正確に予測できるAIを開発している。
科学的根拠に基づいたツールの提供
日常的な育児の代わりとなるアプリではないが、親が不在の場合や家族が外出している場合など、困難な状況において科学的根拠に基づいたツールを提供する。個々の乳児に最適な落ち着かせ方を特定することで、この研究は家庭だけでなく、保育園や病院にも役立つ可能性を秘めている。さらに、抱っこが不可能な状況に対応するため、研究チームはCombi Corporationと協力して電動ベビーラックの有効性を検証している。Android版のアプリは2025年2月にリリースされ、2026年4月にiOS版と英語版が正式にリリース。今後のアップデートでは、AIを活用したパーソナライズされた睡眠時間アラートや、夜間の睡眠の質を評価するツールなどが追加され、小児睡眠障害の診断に役立つ可能性が期待されている。
乳児の夜間睡眠を評価する目的にも活用
現在、東京科学大学では、SciBabyシステムを乳児の夜間睡眠を評価する目的にも拡張するための研究を行っている。現在、家庭での乳児の泣きや睡眠を生体情報などの客観的な指標に基づいて定量する方法はほとんどなく、自分の子どもの泣きや睡眠が正常範囲なのか、心配になってしまう保護者もいるのだという。SciBabyとウェアラブルセンサで手軽に乳児の生体情報を測定、解析できるようになれば、このような育児の悩みや、将来的には医学的に問題となる小児睡眠障害の診断にも役立つ可能性がある。このような研究には実際の乳児とその保護者の協力が必要で、SciBabyは家庭と研究者のWin-Winな関係を通じ、科学的に根拠のある育児支援の実現を目指している。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
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Top Image : © 東京科学大学 生命理工学院 黒田研究室
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