No.872
2024.07.31
湧水と大気の自然な温度差で発電する技術
湧水温度差発電
概要
「湧水温度差発電」とは、地下から湧き出した湧水と大気との自然な温度差を用いて発電する技術。年間を通してほぼ一定温度の湧水と、季節ごとに変化する気温との温度差を活用し、湧水に浸すだけで発電する装置を開発した。一般的な小水力発電に用いられる水車のような仕組みが不要で、水の流れがない水路でも発電可能。太陽光が届かない日影や夜間でも連続的に稼働し、設置場所を選ばない。湧水の新たな価値を創出して、再生可能エネルギーの可能性を拡げるとともに、地下資源である湧水の保全強化と持続的な活用を促すと期待されている。
(a) 開発した湧水温度差発電装置 / (b) 湧水温度差発電装置を上方から眺めた断面図と拡大図
なぜ生まれたのか?
2014年7月に施行された「水循環基本法」では、「健全な水循環の維持または回復」目標のもと、国や地方公共団体に対して、地下水管理を含む水循環保全に資する施策策定・実施の責務が明記された。一方で、行政機関の多くは、地下水の保全や管理に費やす予算や人員確保に課題を持つ。
そうした背景から、湧水の持つ熱エネルギーを利用した発電技術の研究開発に着手。ベースには、産総研が進めてきた、電気量の精密測定技術の開発、および水文学・水文地質学と地下の開発・利用に係る技術の開発と、茨城大学が長野県松本市で行ってきた、湧水などの地域資源を核とするデザイン手法の研究がある。また松本市は豊富な地下水を有し、市街地には井戸や水路などが多く存在する。
研究グループは、構築した「湧水温度差発電」装置を用いて、松本市の水路で、2022年5月・8月・11月、2023年1月・2月に実証実験を実施。各期間の1日の発電量平均値は、5月:3.1 mW(ミリワット=1/1,000W)、8月:4.2 mW、11月:1.1 mW、1月:14.5 mWを記録。年間通して、ワイヤレスの温度記録計を安定稼働させる電力を確保できることを実証した。気温が氷点下になり、温度差が最も大きくなる1月が最も発電効率が高かった。
なぜできるのか?
温度差を用いた熱電発電
電気を伝える導体に温度差がある場合に、電子の移動で電圧が発生する「熱電効果」を用いた発電技術「熱電発電」をベースにしている。導体の両端に温度差があると、温度が高い方の内部電子が活性化し、低温側に移動することで電気を流す。温度差が大きいほど高い電圧を得られる。「湧水温度差発電」では、地表の気温変化の影響を受けにくく、年間を通して約15℃と一定温度である湧水にフォーカス。季節によって変化する気温との温度差を用いて、湧水に浸すだけで電力に変換できる装置を構築した。
高効率に熱を伝える装置設計
熱の放出や吸収を行う「ヒートシンク」と、小さな電圧を増幅する「熱電モジュール」、各装置をつないで熱の流れを導く円柱型の伝熱棒をメインに構成している。「ヒートシンク」は、伝熱特性に優れた銅とアルミニウムで構築。湧水側(下部)には銅を用い、大気側(上部)はアルミニウムのシートを折り曲げて、魚のヒレを模したフィン形状にしている。フィン形状にすることで表面積を増やし、また装置に対して縦向きに配置し、対流による熱を捉えて、熱交換の効率を高めている。熱の移動を促す伝熱棒にも銅を活用。「熱電モジュール」には湾曲できる柔軟性を持たせ、円柱の伝熱棒に密着させて、効率的な熱伝導を可能にしている。
安定的な発電を支える補助装置
湧水と大気の温度差が小さい環境下での発電をサポートするため、電圧を高める「DC-DCコンバーター」を採用。さらに、温度記録計に安定的に給電できるよう「キャパシター」を設置した。「DC-DCコンバーター」では、温度差が小さい場合の熱電モジュールの出力電圧・数百mV(ミリボルト=1/1000ボルト)程度を、温度記録計が稼働する3Vまで増幅。回路に電気を充放電するデバイス「キャパシター」で、熱電モジュールが発電した電気を蓄え、安定的な電気の供給を可能にした。
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