No.815
2023.11.16
3Dプリンターを用いて現代になじむ“畳”に編み直すプロジェクト
TATAMI ReFAB PROJECT
概要
「TATAMI ReFAB PROJECT」とは、使い終えた畳を現代の暮らしになじむ“畳”に編み直すプロジェクト。使い終わった畳と廃棄されるイグサを、生分解性樹脂と混ぜ合わせて加工し、大型3Dプリンターを用いて家具として組成する。生活様式の変化に伴って触れる機会が少なくなった畳から、テクスチャ・香りを活かした家具を新たに生み出して、畳の魅力を国内外に広く伝えている。畳再生の循環を生み出すだけでなく、日本の伝統工芸の可能性を拡げ、次世代に続く持続可能な工芸としての再構築を促すと期待される。
なにがすごいのか?
使い終わった畳や廃棄イグサから、テクスチャを活かした家具を制作
畳 / い草と生分解性樹脂の独自ブレンドによる配合
ペレット式大型3Dプリンターによる独自素材を用いた家具の組成
なぜ生まれたのか?
きっかけは、個人で3Dプリンターで出力できる畳ペレットを作ろうとしていたメンバーの1人が、ペレット式大型3Dプリンターによる制作活動や素材研究を行っていたExtraBoldと接点を持ったこと。その後は、同社運営の3Dプリンター技術などを研鑽するトレーニングジム「BOLD GYM」に参画し、GYMメンバーを加えた3名で、しばらくリサイクル素材を用いたプロダクト制作などをしていた。そんな折、メンバーの友人で「ミラノサローネ国際家具見本市 2023」の共同展示を考えていたデザイナーとの対話で、畳の素材を活用した3Dプリント家具を出展することが決定。有志のプロダクトデザイナーによるデザインラボ「HONOKA」が誕生した。開催まで半年を切っていたが、素材づくりから開発に着手した。
その後、イグサ製品を手がけているイケヒコ・コーポレーションと連携していたメンバーがHONOKAに参画し、原料を確保。ExtraBoldの大型3Dプリンターを用いて、畳テクスチャを活かした家具制作を実現した。ミラノサローネ2023には、テクスチャや形状、趣の異なる7種類のプロダクトを展示した。
実現事例 実現プロジェクト
SaloneSatellite Award 2023 1st PRIZE (ミラノサローネ国際家具見本市 2023)
「ミラノサローネ国際家具見本市 2023」は、イタリア・ミラノで2023年4月18日から6日間開催された、世界最大規模の国際的な家具見本市。毎年4月に開催しており、2023年は合計2,000を超える展示が行われ、6日間で181カ国から307,418人が来場した。「TATAMI ReFAB PROJECT」は、「SORI /MUKURI」「CHIGUSA」「TABA」「TACHIWAKI」「YOCELL」「AMI」「KOHSHI」の7種類のプロダクトを出展。展示は高い評価を受け、35歳以下のデザイナーにとって登竜門とされるサローネサテリテアワードにて、審査に通過した約600組のデザイナーの中から、グランプリの「SaloneSatellite Award 1st Prize」を受賞している。
SORI /MUKURI
畳樹脂を編んだ家具。日本の伝統的な造形とテクスチャを3Dプリンティングで再構築。独自に開発した網目構造により、適度な抜けによって見る角度で表情が変化。畳の含有量を変化させる手法で、生い茂るイグサを想起させる色彩にしている。
CHIGUSA
日本の伝統的な「千筋模様」をモチーフに、大型3Dプリンターで出力した立体的なパーツを1本ずつ組み合わせたスツール。線状の造形と畳を混合した強くしなやかな樹脂によって弾力のある座り心地を生み出している。
TABA
束ねたイグサをモチーフにした照明。大型3Dプリンターから垂らすように出力し、植物的な形状を造形。畳を混合した透明樹脂が、光を拡散しつつも、枝形状の隙間からは光がこぼれ落ちる。
TACHIWAKI
「立涌」という着物の柄をモチーフに本体を複数のストライプで構成した洗面台。畳を混合した樹脂を使用し、大型3Dプリンターの吐出量を制御する事で生まれるユニークな表情をバスルーム業界に提案している。
YOCELL
日本の伝統的な文様である「麻の葉」をモチーフにしたスツール。大型3Dプリンターによる積層跡を活かし、異なる向きに寄せ合わせることで魅力的な表情を生み出している。
AMI
日本の平面的な編み模様を立体的に再構築したスツールとランプシェード。畳を混合した樹脂を垂らしたり、宙に出力することで生まれる自然な造形を活用。見る角度によって変化する表情と、色のグラデーションを組み合わせて新しい編みの表現を目指している。
KOHSHI
生け花のようにあらゆる角度や位置に植物を差し込むことができる花器。日本建築を想起させる格子状の構造は見る角度により繊細に表情を変える。
なぜできるのか?
独自配合のオリジナル樹脂素材
使い終わった畳と廃棄イグサを砕いて粉末にし、生分解性樹脂である酢酸セルロースと混ぜ合わせて、家具を構築する畳ペレットを生成している。強度や柔軟性を保ちながら、畳の繊維が3Dプリンターを詰まらせないよう配慮し、また畳らしさを表現するために、少量の顔料で小数点以下の割合による繊細な色合い調整なども実施。畳と酢酸セルロースの最適な配合を研究して素材を開発した。完成したオリジナル素材は、3Dプリンターで加工がしやすいように、造粒機でペレット化して制作に用いた。
ペレット式大型3Dプリンター「EXF-12」
家具制作には、ExtraBoldが独自設計したペレット式大型3Dプリンター「EXF-12」を用いている。ペレットを熱しながら押し出して造形する仕様で、温度コントロールやセンサーを搭載して、安定した樹脂の吐出と高速造形を実現。フィラメントタイプの3Dプリンターでは難しい、オリジナルのペレットによる造形を可能にしている。また、国内メーカーの量産機では最大級となる1.7mx1.3mx1.0mの広い造形範囲を取っており、大型の造形物にも対応している。
BOLDGYMを通じたクリエイティブ土壌の醸成
プロダクト開発は、ExtraBoldが試行運営している、3Dプリンターの技術研鑽やデザイン研究などを行うコミュニティ「BOLDGYM」を起点に実現した。事業所スペースや保有機材を一部開放して、プロダクト開発や制作活動を支援。 GYMメンバーは、同社社員だけでなく、学生、フリーランス、アルバイトや他社からの出向者なども広く受け入れている。「TATAMI ReFAB PROJECT」も一部メンバーの自主活動から始まり、取り組みの輪を拡げながら「HONOKA」の結成と、プロダクト開発に至っている。
相性のいい産業分野
- 製造業・メーカー
畳のテクスチャ・香りなどを活かした家具・家電・小物の開発
- アート・エンターテインメント
自然と調和するアートの制作や、日本の工芸文化を伝える展示に利用
- 生活・文化
瞑想空間の設備やサウナの整い椅子として活用
- 教育・人材
日本の畳を知る・工芸技術を学ぶ教材の開発
- 住宅・不動産・建築
畳の風合いを感じられる壁や床、ブラインドなどの建材開発
この知財の情報・出典
材料企画・開発 / デザイン:HONOKA
製造協力:株式会社 ExtraBold
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © HONOKA