未来はいかにして現実となるのか?
深堀昂(avatarin株式会社)×田中邦裕(さくらインターネット株式会社)

昨年12月、知財図鑑にて初開催となった<知財番付2020>の結果発表が行われ、計10件の素晴らしい知財が選ばれた。その中で東西の横綱となったのが「avatarin(avatarin株式会社)」と「Tellus(さくらインターネット株式会社)」。この2つの技術に共通するのは、偶然にも宇宙に関わる技術であるということと、限りなくオープンなスタンスを貫いていることだ。周囲を巻き込みながらハイスピードで進化し続ける両社の“未来を現実に引き寄せる”秘訣について、深堀昂氏(avatarin代表)と田中邦裕氏(さくらインターネット代表)にお話いただいた。

▼大組織からスピンアウトして生まれたプロジェクト

―今回は横綱の受賞おめでとうございます。はじめにそれぞれの会社についてご紹介いただけますか?

深堀:このたびはありがとうございます。avatarin(アバターイン)は、2020年4月にANAホールディングスから独立したテックベンチャーです。人体の移動を伴わないアバターを使った“瞬間移動”を、次世代のモビリティとして社会インフラ化しようとしています。「newme」というアバターロボットを活用した遠隔地からの買い物や旅行体験、医療分野・自治体等との協業による実証実験を重ねているところです。パンデミックが起こってからは移動が大きく制限されていることもあり、アバターという領域は特に注目を浴びていますね。

コミュニケーション型のアバターロボット「newme」

田中:我々は今年で25年目のITインフラ企業で、国内に大規模なデータセンターを所有しながら、サーバレンタル等のサービスを提供しています。もともとはベンチャーとして立ち上げた会社で、IT業界では珍しく創業から事業内容も社名も変わっていません。とはいえさまざまな関連分野でのチャレンジを続けていまして、その一つが2018年度からスタートした衛星のデータプラットフォーム事業である「Tellus」です。

「Tellus」は衛星データを探す、使う、解析する、API等を売買するなどさまざまなことができる

 

―それぞれ “本業”とは別軸で動き始めたプロジェクトなんですね。「Tellus」はどんな経緯で始まったのでしょうか?

田中:「Tellus」は経済産業省の委託事業なのですが、実現の背景には大きく2つの流れがありました。ひとつは衛星データの民間利用を促進させる流れです。衛星を打ち上げ、研究を続けるには大きな予算が必要ですが、これまでは国のためだけにこの予算を使っているような状況で、研究で得られた大量データは民間ではほとんど使われず、宝の持ち腐れ状態になっていました。テレビの天気予報の衛星写真のクレジットはGoogle Earth等である場合が多いですよね?あれは国内の衛星データが民間で活用されていない証拠なんです。国が衛星開発を続けていくためにも、この状況を打破し、衛星データを研究開発+商用ベースという二軸で活用し経済合理性を満たしていくことが求められていました。

もうひとつは、膨大な量のデータを預けられるインフラが求められていたということです。数百メタバイトにもなるデータを、国が保管し維持するには大きなコストがかかりますが、民間で分担できれば状況は違ってくる。アメリカではAmazonなどがそのポジションにいるように、日本でも民間負担でサステナブルにデータを預かり活用できる事業者が必要だったんです。

さくらインターネット代表の田中邦裕さん(画像提供:Tellus)

―それらの流れに合致する事業者が、さくらインターネットさんだったわけですね。

田中:はい。データはあるが活用できていない国と、活用したくてもデータにアクセスできない民間との溝を埋めるために「Tellus」が機能しました。やるからには一般の人でも手軽に使えるよう、他のネットサービスと同じくらいの感覚で使えるUIにしています。結果、現在は2万件ものユーザー登録があり、幅広い方々に活用いただいています。

「Tellus」のマーケットには、ユーザーや運営側が作ったさまざまなマッシュアップデータが並ぶ(Tellusサイトより)

―「avatarin」が航空業界のANAから生まれたのには、どんな背景があるのでしょうか?

深堀:私はANAにエンジニア職で入社して、その後マーケターをやっていたんですが、2016年にXPRIZE財団がLAで開催した「10億人の生活を変えるコンセプト」を考える国際コンペがあり、これにどうしても出たくて当時同僚だった梶谷(avatarin共同創業者)と一緒にANAから応募したんです。その時に考えたのが「人間を瞬間移動させたら、多くの社会課題を解決できるのでは?」というコンセプトでした。世界中でさまざまな問題が起こっている中で、それを解決できる人がどこかにいるはずなのに、その瞬間その場にはいないから解決できない、ということが起きていますよね?でももし“瞬間移動”ができればこうした歯痒い場面がすべてなくせるはずだ、という考え方です。

それを外部のコンペで提案して、しかもANAの事業の軸である移動の概念すら変える考え方だったため、「お前はエアラインのインフラを壊すのか」なんて言われたこともありましたが(笑)。でもこのコンペではグランプリを獲得し、社内プロジェクトから発展して会社化され、現在に至ります。

avatarin代表の深堀昂さん(画像提供:avatarin)

―パンデミックの影響でモビリティ業界が大きな打撃を受けている中、アバターが注目を集めているところを見ると、実際に移動の概念が変わり始めているのを感じます。

深堀:コロナに限らずこれまでもSARS・MARS・自然災害などでモビリティは即座に止まってしまっていました。だからもうそろそろ物理的な移動をしなくても良い、新たなインフラが出てきても良い頃だろうと思うんです。“乗る”ではなく、アバターに“入る”(=アバターイン)ことで移動するという行為が、次の時代のインターネット的な存在になれば良いと考えています。

日本橋三越本店と行われたイベント。遠隔地からでもアバターを自分で操作しながら自由な視点でコミュニケーションすることが可能。(avatarinサイトより)

プロフィール

深堀昂   Akira Fukabori
avatarin株式会社 代表取締役CEO

田中邦裕   Kunihiro Tanaka
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長

関連企業

avatarin株式会社

「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく」というミッションを掲げ、2020年4月1日にANAホールディングス発の初めてのスタートアップとして設立された。社会課題解決のために考えた遠隔操作ロボット「アバター」を用いて、意識・技能・存在感を伝送させ、アバターの開発、アバター社会インフラの構築および社会実装の2点をメインとしてスピーディに行う。

さくらインターネット株式会社

1996年の創業以来、レンタルサーバー等のインターネットインフラを提供。2019年より、経済産業省事業として衛星データをクラウド上で分析できる日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus」の開発・運用も開始。「やりたいことをできるに変える」という企業理念のもと、ユーザーの挑戦を支援している。