オンライン診療のイノベーター「ネクイノ」がもたらす、医療DXの未来
-INNOVATOR INTERVIEW- 石井健一 (株式会社ネクイノ/代表取締役)

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、特別措置として初診のオンライン診療が規制緩和されるなど、医療現場のDXが進められている。この分野の最前線に立ち、ピルのオンライン診察サービス「スマルナ」をはじめとするさまざまな事業を展開し、医療の現場にイノベーションをもたらそうとしているのが、石井健一氏が率いるネクイノだ。同社は2020年12月に、スマートフォンを通じてマイナンバーカードと健康保険証の紐づけを行う新サービス「メディコネクト」をリリースした。このサービスを、日本における喫緊の課題である医療DXを推進していくための大きな一歩と位置づけているネクイノは、どんな医療の未来を描いているのだろうか。知財図鑑代表・出村が話を伺った。

▼現場で感じた遠隔診療の必要性

出村:まずは、石井さんが医療というフィールドに興味を持った経緯をお聞かせ頂けますか?

石井:もともと強い思い入れがあったり、子どもの頃に医療で命を救われたような経験があったわけではなく、高校時代にお付き合いしていた方が医学部に進んだのがきっかけでした(笑)。僕自身は薬学部に入ったのですが、当時、薬学部を出た後の進路は薬剤師か研究者、製薬会社くらいしかなくて、消去法で製薬会社を選び、そこで初めて真剣に医療という分野に向き合うことになりました。

出村:製薬会社では、どんな仕事をされてきたのですか?

石井:外資系の製薬会社に就職し、医師や薬剤師に自社の薬の情報を伝えるMRの仕事をするようになったのですが、いくら良い薬だということを説明しても、それだけではなかなか使ってくれないんですね。多くの薬には一長一短があり、患者さんへの説明など新しい薬に切り替えることで生じるコストは少なくないので、なかなか新しい薬を処方するという判断につながりにくいんです。そこで、ある時から薬の説明以上に先生の困りごとの解決に注力するようになり、マーケティングのお手伝いのようなことを始めたのですが、その結果、担当していた病院を利用する患者さんが増え、薬も売れるようになったんです。それまでは良い製品を患者さんに届けたいという思いが強かったのですが、売上を高めるためには先生のマインドシェアを取ることが大切だということが徐々にわかってきました。

出村:起業を考えるようになったのはいつ頃だったのですか?

石井:その後、臓器移植領域にドメインを持つ製薬会社に転職したのですが、地方の患者さんなどが臓器移植の手術ができる病院まで飛行機で行き、メンテナンスの度に同じ病院に通っている状況を見て、遠隔診療の可能性を考えるようになりました。その頃から独立を考え始めて大学院に通うようになり、2013年に医療系コンサルティングファームとして「メディノベーションラボ」を立ち上げました。

▼医療のデジタル化で世界を変える

出村:創業当時の石井さんにはどんな問題意識があったのでしょうか?

石井:大学院の修士論文でなぜ医者が忙しいのかということを研究したのですが、その原因は患者の知識不足と、本来医師がやらなくていい仕事が多すぎることの2つに集約されることがわかりました。例えば、歯科クリニックに通っているとブラッシングの仕方を教えてもらったりして、患者さんにナレッジが蓄積されていきますよね。でも、現在の医療制度はこうした本来起こるべき知識の蓄積を妨げていて、単に毎回同じ薬が処方されるだけで5年経っても患者さんの知識が更新されないことがほとんどです。そこで、最初の会社では患者さんの受療行動を変え、知識不足を解消することを掲げて事業を展開していました。そして、2015年8月に厚生労働省の事務連絡により、遠隔医療が事実上解禁されたことを受け、2016年に「世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)する」をミッションに掲げ、ネクイノを新たに立ち上げました。

出村:ネクイノではどんな事業を展開しているのですか?

石井:2018年6月にピルのオンライン診察サービス「スマルナ」を立ち上げ、これが現在の主力事業になっています。ネクイノの事業領域は、このオンライン診察のプラットフォームを含めて全部で3つあり、2つ目は検査のデジタル化です。すでに北米では、病院以外の場所で臨床検査を実施する「POCT(Point Of Care Testing)」が広がっていますが、日本ではまだ浸透していません。例えば、CTやMRI、胃カメラなど高度な医療機器を必要とする検査は難しいですが、指先から採血をしたり、新型コロナウイルス関連の検査をする程度なら十分可能ですし、今後はこうした領域の事業を進めていきたいと考えています。そして3つ目が、IDリレーション事業です。ネクイノでは、急速に進むマイナンバーへの各種データ突合時代に備え、オンライン上でマイナンバーカードと健康保険証をリンクさせ、各医療機関で共用することができるセキュアな個人認証システム「メディコネクト」という新サービスを2020年12月に立ち上げました。

プロフィール

石井健一   Kenichi Ishii
株式会社ネクイノ

薬剤師・経営管理学修士(MBA)。1978年生まれ。2001年帝京大学薬学部卒業後、アストラゼネカ株式会社入社。2005年からノバルティスファーマ株式会社にて、医療情報担当者として臓器移植のプロジェクトなどに従事。2013年関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科院卒業。2013年医療系コンサルティングファーム株式会社メディノベーションラボの代表取締役を経て、2016年株式会社ネクイノ(旧ネクストイノベーション株式会社)を創設。医療機関の経営改革や新規事業開発が専門領域。

関連企業

株式会社ネクイノ

インターネットを用いた遠隔医療サービスの企画及び運営を行い、世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)するメディカル・コミュニケーションカンパニー。優れたテクノロジーとUXを「コミュニケーション」を軸に活用し、イノベーションを起こしている。生理や避妊で悩む患者と医師をオンライン上で直接つなぎピルを届ける「smaluna(スマルナ)」や、マイナンバーカードと健康保険証をリンクさせるサービス「メディコネクト」を運営。

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