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2024.08.30

知財ニュース

味の素、電気で味を増強するウェアラブルデバイス「電気調味料」の開発を推進―塩味やうま味を持続的に増強

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ウェアラブルデバイスの電気刺激で味を変える。味の素がそんな「電気調味料(電気刺激による味増強デバイス)」の開発を進めている。装着したデバイスから微弱な電気を流して味覚を刺激。塩分制限(減塩)していても塩味を強く感じられ、“おいしい食事”を楽しめる。

電気刺激で味覚を変える研究自体はこれまでも行われており、カトラリーやお椀などの食器型デバイスの開発が主流となっている。最近では、キリンと明治大学総合数理学部の宮下芳明研究室が、塩味を増強するスプーン型デバイスを共同開発。2024年5月に「エレキソルト スプーン」として販売を開始し話題となった。

味の素のデバイス「電気調味料」は、頭部に装着する。首の後ろとあごの位置に電極を搭載。下あごの前側から首の後ろに向けて電気を流し、口内・味覚を刺激する。現時点では、塩化ナトリウム(食塩)やグルタミン酸ナトリウム(うま味成分)など、水に溶けると電気を通す電解質(イオン)系の成分を増強できるという。

最大の特徴は、食事中、常に味の増強効果を得られる点にある。一般的な食器型デバイスでは、食事の過程でデバイスの金属部分が舌から離れるタイミングがあり、味覚が変わらない時間が生じる。ウェアラブル型では、咀嚼中や食べ物を飲み込む際なども、味を増強できる。

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デバイス開発のベースには、2020年度から味の素が取り組んでいる新規事業創出ための社内公募制度「A-STARTERS」がある。採択アイデアのブラッシュアップ・テストマーケティングを経て事業に育て、会社の新規事業として大きく展開することを目指している。

発案者はもともと、病気で減塩などが必要になっても「最期の瞬間まで食の楽しさを失わない社会を実現したい」との想いから、味覚の基礎研究をしていた。その中で、電気刺激で味覚を変える技術を発見。2021年度の「A-STARTERS」にアイデアが採択され、デバイス開発に着手した。

当初は食器型デバイスの開発を目指していたが、デバイスが口から離れる前述の課題に気づき方向転換。共同研究者の中村裕美准教授(現東京都市大学)の論文などを参考に、ウェアラブルデバイスの開発に至ったという。

デバイス設計やプロトタイプ開発には、ロボティクスベンチャー企業のユカイ工学が参画。プロトタイピングを重ね、現在はヘッドホンのような装着しやすい耳掛けタイプの開発も進めている。

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社会実装を目指し今も開発途上だが、減塩食で生活している人や味の素社内の専門家による効果検証の結果も良好。2024年3月には、学術団体である日本農芸化学会の2024年度大会で、トピックス賞を受賞した。

今後の展開にあたっては、デバイス単体の販売だけでなく、「電気調味料」の装着を前提とした食品開発も検討中。医療機関と連携した「減塩外来」や、電子デバイスであることを活用して「電気調味料」のレシピのデータを国内外で共有する構想もある。さらに、デバイスの電気制御で味を感じる位置を変え、味覚の変化を楽しむ新たな食体験の創造も見据えている。

味の素「電気調味料」に関する活動レポートはこちら
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Top Image : © 味の素 株式会社

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