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2022.11.15
コラム | 地財探訪
伝統磁器「伊万里・有田焼」を知財情報から探ってみた【地財探訪 No.11】
本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)
(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)
例えば昔に出願された特許等の情報には、職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、数百年の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。
地財探訪第11弾は佐賀県「伊万里・有田焼(いまり・ありたやき)」。
歴史を振り返りながら、関連技術や作品を特許文献・意匠文献から拝見していく。
<過去のコラム>
第1弾 青森県「津軽塗」、第2弾 沖縄県「琉球びんがた」、第3弾 秋田県「大館曲げわっぱ」、第4弾 岩手県「南部鉄器」、第5弾 福井県「越前和紙」、第6弾 愛知県「常滑焼」、第7弾 宮城県「雄勝硯」、第8弾 和歌山県「紀州へら竿」、第9弾 東京都「江戸切子」、第10弾 兵庫県「吹き戻し」
01 伊万里・有田焼の概要
「伊万里・有田焼」は、佐賀県の伊万里・有田地方に伝わる日本最古の磁器である。発祥は江戸時代初期(1616年)。朝鮮半島出身の陶工「李参平」によって白磁器焼成に成功したことが始まりとされる。佐賀藩(鍋島藩)直轄の窯元で作陶されたものは鍋島直茂公への献上品として重宝したことから、伊万里・有田焼における三つの系譜の1つには「鍋島様式」がある。(他の系譜:「古伊万里様式」「柿右衛門様式」)
そして伊万里港から海を渡り、日本各地や欧州の人々を魅了した。
「伊万里・有田焼」には、大きく分けて4つの製造工程がある。
各画像は 佐賀県陶磁器工業協同組合公式サイト より
原料:熊本県「天草陶石」の使用率が約99%を占める。天草陶石は世界的にも貴重な陶石であり、他の土や原料を配合せずに単独で磁器を製造することができる点が特徴。
成形:例えばろくろの遠心力で陶土を挽き上げる。文様や複雑な形状を施す場合は「型打ち」を行う。
加飾:呉須(ごす)と呼ばれるコバルト顔料で染付(*)を行う。釉薬(**)をかけ本焼成を終えた後には、「上絵付け」と呼ばれる多彩な絵付けを行う。
焼成:素焼き焼成(900℃前後×約10時間)、本焼成(1,200℃前後×約12時間)、上絵本焼成(約800℃前後)の3種類の焼成を経て、陶土に伊万里・有田焼としての命が吹き込まれる。
(*) 染付を行わず純白さが際立つ「白磁」と呼ばれる作品群もある。(参考:井上萬二窯|人間国宝 井上萬二の白磁)
(**) ゆうやく。焼き物の表面をガラス質で覆うための釉(うわぐすり)。強度が増すだけでなく、色合い・光沢・風合い等の視覚的要素や、触覚的要素にも影響し、磁器に多彩な表情を宿すことができる。
アリタモノノス|aritamononosu より引用
02 伊万里・有田焼の特徴
原料である天草陶石は焼き上がりが硬く、「濁りのない白色」となる。
400年の歴史があり、日本最古の磁器としての「風格」「気高さ」を備える。
「ろくろ」「下絵付け」「上絵付け」という3種の技巧が結集することで作品が仕上がることから、「高度な調和」という意味合いを醸し出す。
03 知財出願情報からみる伊万里・有田焼
特許権や意匠権の情報から、伊万里・有田焼の用途例を眺めていく。
【幸楽窯】実公平01-37482:醤油注ぎ
出願日:1984.8.1 出願人:徳永陶磁器株式会社 J-PlatPat リンク
実公平01-37482
川蝉形状の醤油差しについて、幸楽窯 徳永隆一 四代目社長によって考案されたもの。現在もなお製品販売され愛されている逸品である。図面にて、実製品が忠実に再現されている。
<参考>2019年|後引きしない 可愛い醤油差し|金賞|受賞一覧|OMOTENASHI Selection
【伊万里色鍋島】特許第3506869号:郵送可能な磁器製の小皿を飾ることができる包装容器
出願日:1997.2.24 権利者:有限会社 伊万里色鍋島 J-PlatPat リンク
特許第3506869号
破損し易い焼き物を郵送するにあたり、簡便にポストへ投函できるようにする包装容器についての発明である。透明な外箱1に設けられた指示部4にて小皿3を保持することで、緩衝材が不要であり、かつ中身が見える状態で郵送することが可能となる。
<参考>ぽすとめーる色鍋島|有限会社 伊万里色鍋島HP
【大拓窯】意匠登録第1414322号:洗面台及び手洗い器排水口カバー
出願日:2010.2.4 権利者:個人 J-PlatPat リンク
意匠登録第1414322号
排水口カバーに関する意匠登録。有田焼の白みが際立つ作品の他、大拓窯においては、様々な加飾を施した製品を多く手掛けている。
【39arita】特許第6431175号:飲料用セラミックフィルタ及び該飲料用セラミックフィルタの製造方法
出願日:2017.12.28 権利者:個人 J-PlatPat リンク
特許第6431175号
有田焼の技術を用いて製造される珈琲フィルターに関する特許。目詰まりが起こりにくく、風味に優れた飲料が得られるとのこと。珈琲以外にも、お白湯や緑茶等にも活用できる。
【岩尾磁器工業】商標登録第5314622号:白磁のあかり
登録日:2010.4.9 権利者:岩尾磁器工業株式会社 J-PlatPat リンク
商標登録第5314622号(第20類:陶磁器製ネームプレート及び標札)
白磁のあかり|岩尾磁器工業株式会社HP より引用
透光性がある白磁を用いた標札「白磁のあかり」という製品。光を灯すことで文様が浮かぶ。気品ある有田の魅力が伝わってくるその名前は、ネームプレート分野において商標登録されている。
04 特許情報からみる伊万里・有田焼の周辺技術
最後に、伊万里・有田焼を更に彩るメタリック調の加飾技術「光彩上絵」について紹介する。
特許第6635610号:上絵加飾材料、陶磁器製品、陶磁器製品の製造方法
出願日:2018.1.19 権利者:佐賀県 J-PlatPat リンク
特許第6635610号
所定の配合割合で製造された光輝顔料を用いることで、メタリック調の質感を有する上絵加飾を施すことができる発明。400年の歴史がある伊万里・有田焼の優美さを更に際立たせる技術となりそうだ。佐賀県庁の表札や各種アクセサリ等への実用化が進んでいる。
光彩上絵による陶磁器|幸楽窯 HP より引用
<参考>
・県庁の表札、ラメ調の有田焼に 県の特許技術キラリ|朝日新聞デジタル, 2022.5.19
・光彩上絵(MSG)|佐賀県窯業技術センター(PDF資料)
【あとがき】伊万里・有田焼を紐解いてみて
日本最古の磁器「伊万里・有田焼」について、その概要を学びながら知的財産権の情報を調べてみました。「ろくろ」「下絵付」「上絵付」という複数の技巧が組み合わされることで優美な磁器が誕生する点が印象的です。そして上絵付については、佐賀県の新たな特許技術を活用することでメタリック調の加飾が可能となり、今後も新たな作品の誕生が期待されます。
伝統的工芸品は、その機能的価値だけでなく、歴史を通じた情緒的な価値がある唯一無二のもの。それは、地域や日本にとって代替できぬ「地財」であり、後世へと伝えていきたいものです。
お気に入りの地域や作品があれば、今後も勉強しながら生活に取り入れていきたいと思います。
特許第6431175号に関連する珈琲フィルターで飲む白湯が美味しい。(マグカップは小樽焼)
なお、歴史溢れる地域ブランドについて、商標権をはじめとする知的財産権の保護を検討される場合は、是非お近くの弁理士さんへご相談ください。例えば佐賀県においては、以下のセミナーが随時開催されているようです。
kakeruIP 弁理士法人 HP より
「佐賀県の地域ブランドを育てる!知財活用セミナー」のご案内|kakeruIP 弁理士法人
参考情報
佐賀県陶磁器工業協同組合|伝統的工芸品、伊万里焼・有田焼窯元の組合公式サイト
伊万里陶磁器工業協同組合公式サイト
伊万里焼 絵付師 川副 隆彦|明日への扉 by アットホーム
有田焼作家 井上 祐希|明日への扉 by アットホーム
ライティング:知財ライターUchida
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