Pickup

Sponsored

2024.10.02

インタビュー | 能登 紀喜×出村 光世

“個”の行動が世界を救う― スキルと経験を可視化する、 NTT comの「RPG特許」とは?

5 A6132

デジタルゲームは長い間、娯楽として世界中の人に愛されてきた。プレイヤーはキャラクターを操作し、スキルを向上させながらゴールを目指す。目標が明確で、能力値が可視化されるため、成長する喜びを味わえることも大きな魅力だろう。その「ゲーム的」な要素が、今や社会課題の解決や企業の価値創造にも応用されている。

NTTコミュニケーションズ株式会社(以下NTT Com)が取得した「ユーザ評価システム、ユーザ評価方法及びコンピュータプログラム(特許7280752)」に関する特許は、ロールプレイングゲーム(RPG)に着想を得たものだ。個人の経験や社会貢献をポイントとして可視化し、ゲーム内の能力として表現することで、企業や自治体を横断した評価やコミュニケーションの基盤として活用することを見込んでいる。

この特許を発案したメンバーの1人である能登紀喜氏は、営業職としてキャリアを築いてきた人物。どこまでも現場のニーズに耳を傾ける姿勢から「RPG特許」のアイデアが生まれたという。自身もRPGの大ファンであるという能登氏に話を伺うと、NTT Comという企業だからこそ可能な、日常をゲームプラットフォーム化する未来が見えてきた。

営業として、クライアントと研究部門を「本音」でつなぐ

5 A5914 能登紀喜 氏(NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部)。岩手県釜石市出身。趣味のプロレス観戦は大学4年間で100回以上。

―まず、能登さんのバックボーンやキャリアについて教えてください。

能登

NTTには技術職として採用されましたが、希望して営業職に転向してからもう30年以上が経ちます。法人営業として長期間同じクライアントとお付き合いする中で、いろんな売り方を試したり、会話の中から新しいアイデアが生まれたりする経験をしてきました。今回の「RPG特許」も、そうした営業活動の中から発想が生まれたものです。

―NTT Comの営業では、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

能登

最初は電話機を飛び込みで売るような営業をしていましたね。今もグループ会社としてスマートフォンや業務用タブレットを販売することもありますが、ネットワーク環境やセキュリティなど、目には見えないけれど仕事に欠かせない「仕組み」の提案がほとんどです。セキュリティは日々対策が更新されるし、ハードウェアや通信環境も常に変わり続けています。通信の世界に現状維持はありませんから、こちら側から変化を提案することが重要です。競合他社も多い中で選んでもらうためには、ただの「物売り」ではなくトータルで付加価値を提供する必要があります。情報システムや総務部門のみならず、実際に店頭でシステムを利用する店員さんなど、多くの人と直接話す中で課題や需要をサーベイすることも欠かせません。

5 A5919 インタビューの聞き手を務めた、Konel/知財図鑑 代表・出村光世


―ただ商品を売るだけでなく、現場の声を聞くことこそ本来的な営業の仕事かもしれませんね。

能登

あるとき、研究部門が開発した技術をユーザーに試してもらう機会を設けたことがありました。反応は良かったのですが、最後は他社に先を越されてしまったんです。この経験から、技術が完成してから売るのでは遅いと感じました。それ以来「完成した技術を売る」のではなく、開発段階から現場の声をフィードバックすることが大事だと考えるようになり、今では営業と研究部門の間で情報交換を行う機会を積極的につくり、顧客のリアルな声を研究チームへ共有しています。営業・研究間でのコミュニケーションでは、本音で遠慮せずに言うことを意識しています。技術に関して自分が素人だからこそ、「これでは遅い」「売れないかもしれない」といったお客さんの声を正直に伝えられるんです。

―新しい技術やアイデアに忖度は不要で、むしろ「いかに突っ込まれるか」が大事。理由や根拠を添えて、共感や批判を伝えてくれる相手には愛を感じますよね。

5 A6171 能登氏のトレードマークであるネクタイコレクションは140本を超える。

個人の貢献を数値に換算、ユーザー評価システム「RPG特許」

スクリーンショット 2024-10-02 2.17.42 特許「ユーザ評価システム、ユーザ評価方法及びコンピュータプログラム」の概要

―NTT Comが取得した特許「ユーザ評価システム、ユーザ評価方法及びコンピュータプログラム」は「ユーザの行動に応じた、ユーザを評価する新たな仕組みを実現することが可能な技術の発明」という概要が付記されていますが、社内では通称「RPG特許」と呼ばれているそうですね。

能登

はい、非公式な言い方ですが社長も含めて「RPGモデル」と呼んでいます(笑)。以前、営業部で業務アイデアを出し合う機会があり、私たちのチームのテーマが「SDGsに貢献する」だったんです。SDGsという世界共通の目標に対して、個人ができる小さな行動を集積する仕組みを作れたら、それはまるでRPGの経験値のようだと話が盛り上がりました。メンバーの多くがRPGファンだったこともあってアイデアが膨らみ、知財部も交えて特許化を進めていきました。

5 A5967


―知財の名前はどうしても説明的になりがちなので、愛称をつけることで営業や研究者、経営者の間でのコミュニケーションを円滑にする効果もありそうですね。では、「RPG特許」について改めて詳しく教えていただけますか?

能登

SDGsへの取り組みは組織で行われることが多いですが、私たちはそれを個人単位でも可視化することを目指しています。個人の小さな行動でも、世界中80億人の力を集めて可視化すれば、世界に大きな変化をもたらせるはずです。献血やゴミ拾い、あるいは資格取得など、これらの行動をRPGのステータスのように可視化することで、個々人の社会貢献が一目で分かるプラットフォームを作りたいと考えています。

―具体的にはどのような行動や経歴が可視化されるのでしょうか?

能登

農業や教育など、SDGsの各分野に対応したミッションを設定し、それを達成するとポイントが貯まるようなイメージです。他にも資格を取得したり、ボランティア活動に参加したりと、その人の経験や社会貢献に関する取り組みのポイント化を想定しています。最近では食品残渣を持ち込んでバイオマスに変えたり、不要な衣服を回収したりといった取り組みも増えていますが、その効果を個人で実感するのは簡単ではありません。私たちの特許を用いれば、個人が行動を起こしたこと自体を社会貢献として見える化できるんです。例えば、交通整理を手伝ったり、バスで席を譲ったりといった、直接SDGsに関連しない行動でも「これって社会貢献だったんだ」と気づけるような広い視点を提供したいですね。

―フードロス防止は購買データ、交通整理は位置情報データなど、ポイントを算出するためのデータにもいろいろな評価軸がありそうですね。行動のセンシングにもNTT Comさんが保有するネットワークが活躍しそうです。

能登

そうですね。センシングには既存の位置情報アプリやメッセージアプリ、ヘルスケアアプリとの連携を考えています。新しいものを作るよりも、既存のプラットフォームの方が親しみやすいですから。他社の管理するデータやプラットフォームを活用しながら、私たちの特許や技術で付加価値を生み出したいと考えています。

産業を横断する未来のプラットフォームへ

5 A6086

能登

「RPG特許」はビジネスモデル特許として多くの可能性がありますが、具体的な取り組みがなければただの空想で終わってしまいます。今はこの知財を必要とする企業パートナーさんと一緒に、具体的なプロジェクトに落とし込むための準備を進めています。

―どのような業界からの相談が寄せられているのでしょうか?

能登

例えばヘルスケア領域では、慢性的な献血不足が問題視されています。献血への貢献の可視化や、予防接種やマスク着用を評価するなど、日常の衛生行動をポイント化することが考えられます。また、病院に行くタイミングがわからないユーザーに対して、ゲームの中で通院を促す仕組みも作れそうですよね。さらに、病院の待ち時間をただ過ごすのではなく、他の患者さんとコミュニケーションを取る行為を社会貢献として捉えられるかもしれません。運輸業界ではドライバー不足が長年の課題です。運転のスキルが可視化できれば、ベテランドライバーはもちろん、ドライバー経験がなくても無事故で運転を続けている人や、副業としてドライバーを目指す人にもチャンスが広がります。ドライバー同士の横のつながりや、口コミを通じて人を集めている現状に対して、採用や面接のハードルを低くし、適切な人材発掘の一助となることが期待されています。

スクリーンショット 2024-10-02 2.18.34 NTT Comが取得した特許「人員採用支援システム、人員採用支援方法及びコンピュータプログラム」では、人員採用支援にポイントを活用する仕組みが提案されている。

能登

観光業でも地域活性化への期待が寄せられています。例えば、地域でゴミ拾いを続けているような方が、同じ地域のお店や公園を訪れるきっかけを生み出せれば、地域内の活動や繋がりが活性化し良い循環が生まれるでしょう。最近では、様々なサービスのポイントを活用した金融や投資の取り組みが増え、自動車や不動産など大きなものから少額投資に至るまで、投資の幅が広がっています。これをゲームに取り入れることで、若者にもお金の仕組みを学んでもらえるかもしれません。後継者不足で放置された金融資産を、私たちがポイントを活用してマッチングするような可能性もあります。

―たくさんの分野で「RPG特許」の仕組みが活躍しそうですね。産業分野ごとのアプリケーションが集積し、最終的には大きなプラットフォームで運営されるというビジョンにも、NTT Comならではの安心感がありそうです。

能登

ありがとうございます。NTT Comはメーカー色が薄いので、良い意味で八方美人に、どの業界ともフラットな関係を築ける強みがあります。また、通信業者としてセキュリティやデータの匿名化にも取り組んできましたから、生活に密着した、信頼性の高いプラットフォームを提供できると考えています。

5 B9781

特許を軸に、世界規模のスケールメリットを狙う

―「RPG特許」は社会全体での行動変容に繋がる可能性を秘めていますね。そしてビジネスに端を発した社会貢献を行う際に、特許は企業間の連携における重要な鍵となりそうです

能登

そうですね、特許は非常にわかりやすい強みになります。企業の実績やブランド力だけでなく、他社にはない独自の特許があることで、ビジネスパートナーとして選ばれる際に大きな安心感を与えられますから。

5 A6103


―特許を活かして個人や企業に広くメリットをもたらそうという思いが感じられますが、ビジネス面での価格設定についてはどうお考えですか? 

能登

システム全体を一括で購入していただくのではなく、ユーザーからごく少額の利用料を広く集める仕組みを想定しています。たとえば、1日1円でも日本全体では1億円、世界規模なら80億円規模の収益が見込めます。少額の募金のように、誰にも痛みがなくメリットがあるようなイメージです。また、ゲーム内での課金モデルも視野に入れています。今では誰もがスマホや家庭用ゲーム機でゲームを楽しんでいますし、ゲームという媒体がこのビジネスの大きなカギになります。海外市場はまだまだ成長の余地があり、特にインドをはじめとする人口の多い地域に向けて大きな可能性が広がっていると感じています。

5 A6107

―「RPG特許」のシステムが発展した先の未来をどう描いていますか?

能登

CO2排出削減のタイムラインには2030年という大きな節目があるので、このシステムをゼロカーボンの取り組みと連携させ、活動の可視化を通じて成果を出したいですね。CO2削減に貢献する行動、たとえば残渣の持ち込みやリユースでの電気代削減など、行動を数値として見える化することで「皆さんの参加があったからこそ達成できました!」と言える社会を目指したいです。

5 B9803

―自分のためにシステムやサービスを使うことは一般的になりましたが、誰かや社会のための利他的な行為の可視化には、まだまだ余白がありそうですね。そのメディアやメタファーとしてのゲームには、非常に大きな可能性を感じました。

能登

ゲームを通じて社会貢献ができ、その結果、企業にも収益が生まれ全ての関係者が潤う。これによって、みんながハッピーになる世界ができれば、戦争すらなくなるかもしれないと考えています。世界平和は大袈裟かもしれませんが、このゲームを通じて日本や世界がつながって、一人の行動が世界を変えるきっかけになれば嬉しいです。

5 A6146

NTT comの「RPG特許」について問い合わせる

この特許を活用したい・話を聞いてみたい方は、知財図鑑コンタクトの「公開中の知財について知りたい」まで

TEXT:Yoshihiro Asano/PHOTO/Shoichi Fukumori

能登 紀喜

能登 紀喜

NTTコミュニケーションズ株式会社 NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 第四ビジネスソリューション部 流通・サービスグループ 担当部長

新日鉄釜石社会人ラグビー 7連覇で有名になった岩手県釜石市出身。プロレス観戦のため「東京ドーム」「武道館」「後楽園ホール」に近い大学を選び、4年間で100回以上観戦する。入社~ 6年間はNTT青森支店技術系採用で工事部門だったが、 研修中に営業に目覚め営業職へ配置願いを出す。その後、法人営業でメガバンクグループのお客様を12年間、小売業・金融系のお客様を14年間担当。こだわりのネクタイコレクションは2024年時点で約141本あり。

出村 光世

出村 光世

Konel Inc. Producer

1985年石川県金沢市生まれ。早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。アート/プロダクト/マーケティングなど領域に縛られずにさまざまなプロジェクトを推進。プロトタイピングに特化した「日本橋地下実験場」を拠点に制作活動を行い、国内外のエキシビションにて作品を発表している。自然現象とバイオテクノロジーに高い関心がある。

広告