Pickup

Sponsored

2021.10.25

インタビュー | 石井 健一

「トイレ」の空間体験を再定義する─医療DXのイノベーター・ネクイノが挑む社会実装

株式会社 ネクイノ

12 ネクイノ

世界で急速に拡大を続けているフェムテック市場。しかし、日本における日常生活の中でそれらのサービスやプロダクトを体感できる機会はまだまだ少ないというのが実情だ。そんな中、「世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)する」をミッションに掲げる株式会社ネクイノが、2022年3月の提供開始を想定した「生理用ナプキンを無料受け取りできるデバイス」の開発を発表した。今回のプロジェクトの鍵となるのは、パーソナル空間の最小単位とも言える場所「トイレ」。同社の代表取締役・石井健一氏に、本プロジェクトの開発背景と、ネクイノが思い描くメディカル・コミュニケーションの未来について話を伺った。

医療体験のアップデートを担う、ネクイノの軌跡

—今回のプロジェクトは、これまでオンラインによる医療DXを推進してきたネクイノが、リアルな場での「社会実装」にまで踏み込んだ新しいアプローチかと思います。前回のインタビューでも触れさせていただいていますが、まずはネクイノがどのようなミッションのもと成長を遂げてきたのか、改めてお聞かせください。

石井

はい、私たち「株式会社ネクイノ」は2016年に設立した会社で、医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)を事業内容に掲げています。ちょうど立ち上げの前年、2015年に日本でオンライン診察、いわゆる遠隔医療が解禁となりまして、医療DXを推進するにあたりまずは一番身近な“診察”からデジタル化しようということで、2年ほどかけて医療DX分野のプラットフォームとなるための動きをしてきました。

02 2016年に株式会社ネクイノ(旧ネクストイノベーション株式会社)を創設した、石井健一氏。

—知財図鑑でも、オンライン診察でピルを処方するアプリ「smaluna(スマルナ)」や、マイナンバーカードと健康保険証をリンクさせるテクノロジー「メディコネクト」は知財として注目しています。ネクイノは、オンライン医療のイノベーションに取り組まれているという印象です。

石井

ありがとうございます。現在、事業の柱になっているのはご紹介いただいた「スマルナ」で、2018年のサービス開始から今は60万人を超えるユーザーさんにご利用いただいており、国内最大級のオンライン診察プラットフォームになっています。このサービスをもとに、診察のデジタル化と検査のデジタル化、あとは「メディコネクト」のようにID(個人情報)をいかに医療に組み込むかという3つのテーマのもとサービスを展開しています。ネクイノという会社のミッションとしては「世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)する」ということを変わらず掲げており、戦後から形成されてきた従来の日本の医療体験を今後10年・20年で新しいものにアップデートしていきたいと考えています。

03 オンライン診察でピルを処方するアプリ「smaluna(スマルナ)」。ピルの受け取りだけでなく、生理や避妊で悩む人と医師をオンライン上で直接つなぎ、医療相談をすることができる。

ネクイノが提唱する、性と生殖に関する健康と権利「SRHR」

—今回発表されたプロジェクト、「トイレで生理用ナプキンを無料受け取りできるデバイスの開発」についてお聞かせください。まずはこのプロダクトの着想に至った背景から教えていただけますでしょうか?

石井

今回の事業の発想は、サービスとしての「スマルナ」のコンセプトと、会社としての「ネクイノ」のコンセプトがリンクして生まれたと言えます。まずはスマルナを起点としてお話しさせていただくと、そもそもの開発背景には「SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights:性と生殖に関する健康と権利)」という考え方があります。これは、いかなる人もセクシャルな満足や幸福を追い求めることを否定されるべきではないし、妊娠や出産など「生殖」にまつわるすべての権利を自らに持てるようにしようというスローガンです。西欧諸国では文化的背景も含めてすでに社会実装されているところもありますが、日本ではあまり浸透していません。
例えば、日本だと結婚した後は子供を産むべきという風潮があったり、結婚式の時に「お子さんは何人欲しいですか?」という質問が普通に面前でされたり、子どもがいない夫婦が親に「孫はまだか」と言われたり、というシーンは日常的に存在していますよね。

—確かに家庭や個人に差はあれど、「あるある」な風景としてイメージできます。

石井

職場でも、上司に「生理ぐらいで仕事休むなよ」と言われたり思われたりするフィジカルエリートの論理は日本の社会の中にはまだまだ残っているように思います。でも、生理は文字通り生理現象で、そもそも個人がコントロールできる問題じゃないはず。ただ日本では、こういった問題について社会全体で考えようという動きはあまりなかったというか、後回しにしてきたという印象があります。

—生理という一部分に着目しても「SRHR」が自然とないがしろにされている土壌やムードのようなものが、日本にはあらゆるシーンであると。

石井

このような考え方を是正して、SRHRの理念を社会に根付かせるというコンセプトが「スマルナ」にはありました。SRHRの中には、「生理(月経)に関する課題」というものも含まれています。ピルというものは避妊薬でもあるんですけど、同時に生理日のコントロールがしやすくなったりと、女性のライフスタイルを充実させるソリューションの側面もありますよね。そして、私たちはスマルナを通してこれまで世の中に一石を投じてきましたが、それでも生理についてはまだまだ未解決の問題というのがいくつかあるなということも同時に見えてきました。

—スマルナによる生理に対する課題解決の一方で、また新たな課題も現れてきた。

石井

はい、例えばスマルナユーザーに対するアンケート調査でも、「予定日と関係なく生理が突然始まってしまう」「出先で生理用品を持ち歩くのを忘れてしまう」「恥ずかしいので、他人に分からないように生理用品を持ち運ばなければならない」といった"pain”が存在していることは明らかになっています。生理日をコントロールしやすくできるスマルナがそれらの課題解決を担えている部分もありますが、「生理用品へのアクセス」という課題に対してはまた新たなアプローチが必要だと感じました。

04 スマルナユーザー2,428名が回答した生理用品についてのアンケート。「ナプキンの金銭的負担を感じる」が55%、「手元になくて困った経験がある」が74%となった。

—それらの課題につながるのが今回の「ナプキンの無料受け取り」のプロジェクトということでしょうか。

石井

そうです。まず、自宅以外のトイレの中だとトイレットペーパーは基本的に無料で設置されていますよね。いわば「インフラ」のようなものです。ですが、生理用ナプキンは女性が自分で購入しないといけないことが当たり前になっている。オムツの無償化の動きなどはニュースなどで目にすることもありますが、生理用ナプキンに関してはそこがスルーされています。そこで、生理用品がいつでも誰でも簡単に手に入る状況をつくるということはネクイノが「SRHR」の実現に貢献する上で大切なミッションなのではないかという思いに至りました。

—それが「スマルナ」のコンセプトを起点に着想された部分ということですね。もう一つの「ネクイノ」のコンセプトから着想されたのはどのようなところでしょう?

石井

ネクイノという会社のコンセプトである「医療空間と体験のサイテイギ」に照らし合わせると、トイレという空間を「新しい医療体験の場」に進化させることは私たちのミッションなのではないか? と考えました。今では排泄物をセンシングするスマートトイレなども登場し、トイレがヘルスケアの接点になるという議論はありながらも、社会実装には至ってないというのが現状です。しかし、一人で自分の身体と向き合うことができる「トイレ」というプライベートな空間が、医療体験の場に置き換えられる可能性は十分にあるのではないかと。

05 「ネクスト イノベーション カンパニー」を冠するネクイノ。「Re▷design(サイテイギ)」というワードはネクイノの指針を表す上での重要なワードの一つだ。

—確かに、トイレというのは非常にパーソナルで、自分自身の健康状態と確実に向き合う時間が生まれる空間ですよね。

石井

例えばトイレは、生理が始まってしまった時に駆け込む最初の場所であったり、そこで生理であることに気づいたりする場所でもあるので、トイレの中で自分の体の状態と向き合う機会というのはとても多いはず。トイレは健康状態やバイオリズムを測る上で最適な空間だと思っています。ネクイノとしては、医療体験を再定義するというミッションの上で、やはり病気の予防や早期発見を大前提にしたい。だから、例えばお腹の調子が悪いとか尿から血が出るとか性器に違和感があるとか、そういう自分自身の体のサインを知る場所であるトイレは、個人と医療をつなぐ架け橋になりえます。

「トイレ」というコミュニケーション空間の再定義と、そこに実装されるべきプロダクト

—生理用ナプキンのアクセス課題を考える中で「トイレ」という空間の可能性に着目したということですが、実際にはトイレの中でどのようなサービスやプロダクトの展開を想定されているのでしょうか?

石井

具体的には、専用アプリをダウンロードしたスマートフォンをかざすだけで生理用ナプキンをトイレの中で受け取ることができるデバイスの開発をしようと考えています。トイレという個室空間の特性を活かし、画面を通じたユーザーとプロダクトの双方向のコミュニケーションの接点をこのプロダクトには実装できればと考えています。

—ただトイレの中でナプキンが無償で受け取れるだけの装置ではなく、トイレの中でユーザーが何かしらの情報をキャッチできるデバイスになるということでしょうか?

石井

はい、このプロダクトはクラウドを通じて持続的に機能をアップデートさせていくIoTデバイスになることを想定しています。女性の生活を豊かにする情報や、女性の生声を社会に届ける「意見箱」のような機能も予定しています。ただ、一方通行的に健康情報を発信するということではなく、どちらかというとユーザーのライフスタイルや人生観にアプローチできるようなコミュニケーションを考えています。
例えば素晴らしい製品やサービスを持っている企業さんに広告の場として活用していただいたり、健康に関する情報を提供してスマートフォンからフィードバックするプラットフォームとして活用したり、設置された施設側とユーザーとの情報交換の場として活用したり、あとはオフィスビルの場合だと従業員の健康を管理するためのデバイスとして活用したり。トイレというプライバシー空間で「一人」対してアプローチできる利点を活かした設計にするつもりです。

06

—場所とそこを利用するユーザーによって、届けられる情報がカスタマイズできるということですね。

石井

はい、現段階ではさまざまな施設への適用を考えていますが、おっしゃる通り場所によってユーザー属性が異なるので、どのような機能をそれぞれに割り当てていくのかという部分は腕の見せ所だと思っています。例えば学校とコラボレーションする場合には広告よりも学習に関する情報の比率は増えてくるでしょうし、商業施設の場合は施設内のイベント情報をどう魅力的に織り交ぜていくかというデザインが重要になりそうです。

—つまり、トイレの施設側とユーザーが相互にコミュニケーションでき、なおかつ生理用ナプキンを当たり前にそこで受け取ることができるプロダクト・サービスということでしょうか。

石井

そうですね、この事業は生理用ナプキンの無料受け取りという部分がフォーカスされがちだとは思うのですが、どちらかというと「トイレを今までなかったコミュニケーションの場所にしたい」というのが私たちの本懐です。トイレをヘルスケアについてのコミュニケーションができる場所に、という譲れない想いが軸としてあって、その一環でユーザーがインセンティブとして生理用品を受け取ることができる。私たちのサービスやプロジェクトにユーザーさんが乗ってくるだけで勝手に健康になる、勝手にハッピーになるという世界が一番の理想で、そうした仕掛けをこれからつくっていきたいと思っています。
さらに言うと、トイレの中でしかコミュニケーションが生まれないという形は本意ではなくて、例えば専用アプリと連動する形でどこにいても情報をキャッチできたり、ポイントが積み上がってなんらかの製品と交換できたりなど、さまざまな拡張の可能性がまだまだ考えられますよね。

07 大阪市北区にオフィスを構える株式会社ネクイノ。

—そうしたハードとソフト、オンラインとリアルを横断するような設計となると、医療DXに注力してきたネクイノさんならではの強みや個性が表れそうです。

石井

やはり「スマルナ」と、それに伴う相談サービスを運営してきたという経験が非常に大きくて、トイレの中で繰り広げられる悩みに対する想像力はネクイノが一歩二歩先を行っているという自負はあります。最近だとフェムテック分野でIoTデバイスの開発は広がってはいるのですが、日本国内では医療インフラ自体がかなり整備されているためか、測定型よりはコミュニケーション型のサービスが先行している感覚があります。
ネクイノはグローバルレベルで最新のフェムテックの動向を追っているので、国内の医療の成熟度や医療インフラとのコミュニケーションのあり方、そういったところを最重視しています。そんなネクイノだからこそ、ユーザーの悩みに寄り添う設計をしていく必要があるし、できるのではないかと考えています。

プロジェクトを推進させるための、対話とコラボレーション

—このサービスを拡大していく中でさまざまなパートナーと連携していくことになると思うのですが、現段階での実装に向けてリサーチしたりヒアリングした反応などはいかがでしょうか?

石井

先にお話ししたスマルナユーザーのアンケートもですが、まず入り口として女性の方々にヒアリングをした際にはほぼ全ての方から好意的な意見を頂いていまして、一つ目の山はクリアしたのかなと。一方で、トイレという空間が本当にコミュニケーションに適しているのか、どういった体験がトイレの中でのコミュニケーションを活性化させるのか、というところについてはまだまだ検討の余地があります。企業や施設、ユーザーやパートナーの方との対話を繰り返しながら、イメージをすり合わせていけたらと思っています。

—今後この事業を発展させていくために、どういった方とコラボレーションできると心強い、などはありますか?

石井

一緒にコラボレーションしたい方としては、やはりハードの部分に精通している方ですね。また、コミュニケーションの中身を司るクリエイティブの方々とも密度の高いコミュニケーションを交わしていく必要があると思っています。次に、世の中にプロダクトを配置していくプロセスも重要になって来ると思いますが、商業施設と学校、自治体、企業と4者でもコラボレーターとしての思惑が変わってくると思うので、うまくミックスしながら社会実装を進めていく形を整えることが必要ですね。

—この生理ナプキンの無料受け取りデバイスは2022年の3月の提供開始を目指すと伺っています。最後に、開発に向けた意気込みやメッセージなどありましたらお願いします。

石井

ネクイノが今回は再定義しようとしているのはトイレという3,000年以上の歴史を持つ場所です。この“箱”を起点に、最もミニマムなユーザーに対する新たなコミュニケーションの体験を一緒に考えていただける方は、ぜひ私たちネクイノにお声かけください。

■本サービス設置についてのお問い合わせ
株式会社ネクイノ PR戦略部 
pr@nextinnovation-inc.co.jp

Interview:松岡真吾/Text:柴田悠

石井 健一

石井 健一

株式会社ネクイノ CEO

薬剤師・経営管理学修士(MBA)。1978年生まれ。2001年帝京大学薬学部卒業後、アストラゼネカ株式会社入社。2005年からノバルティスファーマ株式会社にて、医療情報担当者として臓器移植のプロジェクトなどに従事。2013年関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科院卒業。2013年医療系コンサルティングファーム株式会社メディノベーションラボの代表取締役を経て、2016年株式会社ネクイノ(旧ネクストイノベーション株式会社)を創設。医療機関の経営改革や新規事業開発が専門領域。

広告