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2026.03.03

インタビュー | 齋藤 真琴×望月 善太×横山 賢志

生まれ変わるまち・橋本は未来の実験場へ。 駅に現れた植物発電生物「Botac」とは?

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リニア中央新幹線の開業を見据え、まちの再編が進む神奈川県相模原市・橋本。市は「リニアでつながる 一歩先の未来を叶えるまち橋本」を掲げ、駅とまちを一体で整備していく構想を打ち出している。

そんな未来を見据えるなかで始動したのが、京王電鉄、グリーンディスプレイ、Konelによる共同プロジェクト「Botac(ボタック)」だ。植物発電という技術を軸に、人々が行き交う駅という空間を、市民の関与によって変化する環境として捉え直す。橋本を“未来の実験場”へと変えていく、その象徴的な取り組みである。

20260302 0336 のコピー PHOTO:Yusuke Kon

botac 通行者は中央のボタンを押すことで、プランターに水を与えることができる。水が注がれると、土壌内の微生物が活性化し、植物発電によって微弱な電力が生まれる仕組みだ。発電量や土壌の水分状態はセンサーで取得され、ディスプレイ上のドット絵キャラクターに反映される。水やりの状況や発電の状態が成長や表情の変化として可視化されるため、植物のコンディションを直感的に把握できる。市民の行為をデータとして捉え、公共空間の植栽管理や都市のエネルギー活用へと接続する可能性を探る実証装置である。PHOTO:Yusuke Kon

なぜ彼らは、駅という公共空間を“実験の場”に選んだのか。そして、数ある先端技術のなかで、なぜ植物発電だったのか。場と技術、そして体験の設計を掛け合わせることで、橋本の未来にどのような可能性を示そうとしているのか。

知財図鑑では、「Botac」の開発に携わった京王電鉄の齋藤真琴氏、グリーンディスプレイ代表の望月善太氏、Konel横山賢志氏に話を聞いた。プロジェクト誕生の背景からプロトタイプの設計思想、そして今後の展望までを紐解いていく。

P1246121 左から、Konel・横山 賢志氏、京王電鉄・齋藤 真琴氏、グリーンディスプレイ・望月 善太氏。インタビューは東京・三宿のグリーンディスプレイ本社にて行われた。

リニアのまち・橋本は、先端技術が集まる実験都市へ

―今回、2026年3月から1ヶ月の期間限定で橋本駅でスタートした実証プロジェクト「Botac」。京王電鉄、グリーンディスプレイ、Konelの三社共同による取り組みですが、それぞれどのような立ち位置で関わったのでしょうか。

齋藤

私は京王電鉄で橋本駅周辺のまちづくりを担当しています。2025年度からは、当社が実施するエリアを起点に地域の課題解決や価値創出を目指すオープンイノベーションプログラム「ROOOT(ルート)」を、橋本エリアで開始しました。社外の方と協業しながら新しい事業やサービスを生み出していく取り組みで、その流れのなかでまずグリーンディスプレイさんにお声掛けいただきました。その後、実証をどう形にするかを考える段階で、体験設計と実装を担えるKonelさんにも加わっていただいた、という経緯です。

P1245824 京王電鉄・齋藤 真琴氏

望月

京王電鉄さんと知り合ったきっかけは、「HOME/WORK VILLAGE」(2025年に東京・池尻にグランドオープンした複合施設)での展示会でしたね。我々は都市緑化という分野で事業を行っており、壁面緑化や室内緑化、クリスマスツリーなどのシーズンディスプレイを手がけるほか、得意とする「人と自然のつながりの翻訳」を軸に、さまざまな取り組みをしている会社です。今回のプロジェクトは、植物が電気を作れるのではないかという発想から生まれた、植物発電技術「ボタニカルライト」を起点にスタートしました。

横山

京王電鉄さんとは「ミカン下北」(東京・下北沢の複合施設)のクリエイティブをKonelが手がけた縁があり、今回のプロジェクトにも声をかけていただきました。Konelは本プロジェクトにおいて、コンセプト設計から体験設計、プロダクトデザイン、UI表現、空間構成、そして実装までを一貫して担当しています。植物発電という技術を、駅という公共空間でどのように体験へ翻訳するか。その全体設計を担う立場として関わっています。

―3社が協業することに、どのような可能性を感じていましたか?

齋藤

最初に望月さんとお話ししたとき、植物発電技術「ボタニカルライト」をはじめ、これまで手がけてこられたさまざまな取り組みについて伺いました。対話を重ねるうちに、単に面白い技術を持つ植物の会社というだけでなく、そこから拡張した都市のあり方まで語れるほど、まちづくりに対する深い見識をお持ちだと感じたんです。そこでぜひ一緒に橋本のまちづくりに取り組みたいと思いました。まず2社で神奈川県のオープンイノベーションプログラム「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」に応募したところ提案事業が採択され、協業を具体的に進められる環境が整いました。

P1246010 グリーンディスプレイ・望月 善太氏

望月

京王電鉄さんとご一緒することで都市緑化のあり方についてはまだまだ気づいていない視点が多くあることに気づかされました。そうした中で私たちとは全く違うアプローチで多くの体験の翻訳をされておられるKonelさんが加わったことで可能性が大きく広がりました。Konelさんが加わったことで、技術をどう体験へ翻訳するかを一緒に考えられるようになり、「こんなこともできるかもしれない」とプロジェクトの幅が一気に広がりました。

―リニア中央新幹線の開業を見据え、橋本駅南口ではまちづくりが進められています。そのなかで、このプロジェクトはどのような位置づけなのでしょうか。

齋藤

橋本駅は京王相模原線の終点駅です。リニア開業を見据え、橋本を京王電鉄の西の拠点へと育てていきたい。そのためには、現状のベッドタウンというイメージを超えて、産業拠点として人が集まる都市へと転換していく必要があります。まちが完成するまでには時間がありますが、その時間をどう活かすが大切だと思っています。現在は、オープンイノベーションを通じてトライアンドエラーを重ね、「橋本で何かがポジティブなことが起きている」と感じてもらえる空気をつくりたい。その第一歩として位置づけているのが、このプロジェクトです。

20260302 0048 2026年3月現在の橋本駅前の様子。リニアの開業に向けて、駅の南口を中心としたエリアでまちの再開発が行われる。PHOTO:Yusuke Kon

―橋本駅を第二の拠点とするうえで、どのような点にポテンシャルがあると感じていますか?

齋藤

交通利便性の高さは大きな強みです。京王相模原線、JR横浜線、相模線が交差し、圏央道などの道路ネットワークも整っています。リニアが開業すれば品川まで約10分、名古屋まで約60分と、アクセス圏は一気に広がります。加えて、三菱重工やJAXA相模原キャンパスなど先端技術を持つ企業・研究機関が集積している点も特徴です。一方で、相模川や丹沢の自然も近い。都市機能と自然環境がバランスよく共存していることが、橋本のポテンシャルだと考えています。

まちの人にまず触れて欲しいのは、微弱で優しい技術

―数あるテクノロジーの中で、今回「植物発電」という技術にスポットが当たった理由はなんでしょう?

齋藤

相模原市が作成したリニア駅周辺まちづくりガイドラインでは、「テクノロジー」「プラットフォーム」「グリーンライフ」という三つの軸を大切にしています。植物発電は、そのなかの「テクノロジー」と「グリーンライフ」を同時に体現できる象徴的な技術だと感じました。行政が掲げるコンセプトは、市民にとっては抽象的に映ることもあります。そこで、駅舎という1日に数万人が利用するインフラを持つ私たちが、こうした技術に挑戦しすることで、駅を利用する方に、先端技術を身近に、身の回りの植物に愛着を持ってもらうことができるのではないかと思いました。それらの体験から生まれ変わる橋本を感じてもらいたいです。

P1256296 PHOTO:Yusuke Kon

―ここで気になるのが、植物発電の技術についてです。望月さん、詳しく教えていただけますか?

望月

「植物発電」、僕たちグリーンディスプレイは「ボタニカルライト」と呼んでいますが、実際に電気を生み出しているのは植物そのものというわけではなく、植物とその根の周囲にいる微生物たちや土と水といった複数の環境条件、これらの働きを利用した発電システムと言えます。一定の条件が整えば、時間はかかりますが単三電池を充電できる程度の電力を生み出すことができます。微生物は常に活動しているため、発電も24時間続きます。自然の営みそのものがエネルギーに変わる、という点がこの技術の特徴です。ただ私たちは、この技術を「発電量の大きさ」で評価しているわけではありません。微細な発電の変化を通じて、植物や環境の状態を読み取りながら、それを人が使える装置として活用できることに価値があると考えています。いわば、私たちと植物とのコミュニケーションはお互いの営みにもっと役に立つと考えているんです。

botanical botanical light(ボタニカルライト)は、植物と共存する微生物が生命活動をする際に、土や水の中で放出される電子を利用して発電する。植物が育つ土壌や水辺に電極を挿しておくだけで電源がなくても、植物が元気に育つ環境があれば電力を得ることができる。

―この技術を駅という公共空間で使うことに、どのような意義があるのでしょうか。

望月

最先端技術は数多くありますが、ボタニカルライトは“効率的な強いエネルギー”を生む技術ではありません。だからこそ、環境の変化をやさしく・やわらかく伝えることができる。駅は誰のものでもない、みんなの場所です。そこに圧を感じさせない、微弱なエネルギー技術を実装することに意義や適性があると思っています。

―今回のプロトタイプ「Botac」では、具体的にどのような実証をしようとしているのでしょうか?

望月

駅というフィールドの特性を利用して、どのような人数がどのような頻度で関われば発電が安定するのか、一ヶ月の実証期間でどれくらいのエネルギーが発生され、それをどこまで遠隔センシングが可能かを検証したいと考えています。同時に、不特定多数の人が行き交う空間で植物の状態変化を可視化したとき、人はどう感じ、どの程度「お世話したい」と感じて関わるのか。心理的な影響や参加率も含めて探っていきたいです。

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齋藤

このプロジェクトは神奈川県の補助事業(BAK)にも採択されているため、実証だけで終わらせるのではなく、事業化を視野に入れています。たとえば、市民参加と遠隔センシングによって公共空間の植栽管理が効率化できれば、従来週2回だった維持管理を週1回にできるかもしれない。ランニングコストの削減につながれば、様々なシーンでの活用可能性が生まれます。植物発電は様々な使い道があるので、その一例として示すことができれば、更なる展開が生まれると思います。技術を都市の運用にどう組み込めるかをこの「Botac」で検証できれば面白いですね。

目指したのは、駅で飼われている「デジタルペット」

―続いて、Konelが手がけたプロトタイプの設計思想について伺います。横山さんは、このプロジェクトをどのような体験へと翻訳しようと考えましたか。

P1256354 Konel・横山 賢志氏

横山

ボタニカルライトの面白さは、人が水をあげると、植物から電力という目にみえるかたちでフィードバックが返ってくる点にあります。通常の植物はある程度の時間をかけて成長しますが、すぐに反応が返ってくることはありません。この“即時性のあるインタラクション”をどう体験に組み込むかが出発点でした。そこで、「ボタンを押す」「水をあげられる」というシンプルな行為を体験の中心に据えました。電気を生み出すためにはどう関わればいいのか、その因果関係を体験として直感的に理解できる構造にしたかったんです。同時に、環境の状態をやさしく伝える技術として活用することも意識しました。

―企画初期段階からその体験のコンセプトは定まっていましたか?

横山

初期段階では、「発電で温まる苔のソファー」や「植物に電極を刺して音を聴く体験」など、電力のアウトプットを別のエネルギー出力に変換する案も検討していました。ただ最終的には、技術の本質が伝わる形に絞り込み、「自分が何をしたら電気が生まれたか」を直感的に体験できる設計に集約しました。なお、生まれた電気は単なる演出ではなく、土壌の情報を取得するセンサーの駆動やクラウドへのデータ送信、展示用ライトの点灯や蓄電にも使われています。微弱とはいえ、電力の循環がプロダクト内部で最大限回る設計にしています。

20260302 0416 PHOTO:Yusuke Kon

moniter クラウドでのモニタリング画面。遠隔で植物の土壌の状態や発電量のチェックが可能。センシングの動力は植物発電のエネルギーでまかなわれている。

―微生物が電気を生み出す現象を、数値ではなくキャラクターで表現した理由は何でしょうか。

横山

ワット数などの数値をそのまま表示しても、直感的には伝わりませんし、そもそもこの植物発電の仕組みを知らない人に対し、水やり回数・微生物の活性度・そこから生まれる発電量の関係値を一目で理解してもらうのは困難です。そこで、発電量や水分状態を全てキャラクターの成長や表情に置き換えることにしました。毎日駅を利用する人が、「今日はどんな調子かな」と自然に気にかけられる存在にしたかったんです。数字を見るのではなく、みんなで一緒に育てる感覚を持ってもらう。そのほうが、駅という公共空間にもなじむと考えました。

ui 260302 white 水やりの回数と発電量に応じて成長するドット絵のデジタル生物。発電量や土壌状態を数値ではなく視覚的な変化で表現することで、植物のコンディションを直感的に理解できる設計となっている。

―ドット絵のような表現にすることで、かわいらしさと想像の余白が生まれますね。キャラクターデザインはどのように決まったのでしょうか。

横山

最初は、もっとグラフィカルでミニマルなデザインを考えていました。ただ、駅という不特定多数の人が行き交う場所で、小学生から高齢者まで違和感なく受け入れられるものにするには、もう少し有機的で“生き物らしさ”のある表現がいいのではないかとチームで考え直しました。そこで着目したのが、昔のビデオゲームや携帯育成型のデジタルペット、モンスター育成ゲームのようなドット絵の世界観です。世代を問わずどこか懐かしさを感じられ、同時に今の若い世代にもキャッチーに受け入れられる。そんな存在にしたかった。目指したのは、駅にいる“看板犬”や“看板猫”のような存在です。通り過ぎるだけでなく、いつも横目で気にかけてもらえる存在。そのために、コンセプトを「みんなで育てるデジタルペット」へと転換しました。

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みんなで育てる緑から、みんなで関わる未来の街へ

―みなさんにとって、このプロジェクトはどのようなチャレンジになりますか。また、今後どのような展開を期待していますか。

横山

これまでは普段はギャラリーや施設など、ある程度目的や人流がコントロールされた空間での体験設計が比較的多かったのですが、駅のようなさまざまな人が日常的に行き交う場所にプロダクトを設置するのは初めての挑戦です。だからこそ、人とまちと植物のあいだにどんな心理的な関係が生まれるのか、このプロジェクトで確かめたいと思っています。設計した通りに受け取られるのか、それとも思いがけない関わり方が生まれるのか。そうした予測できない反応も含めて見ていきたいですね。

望月

私は、まちにある植物でも、人の意識や行動に働きかけられるのかを確かめたいと思っています。公共の場にある植物に触れたことはあるでしょうか?多くの場合、無意識のうちに「見るもの」として距離を置いているのではないかと思うんです。関わり方が少し変わるだけで、人はどれほど植物に興味を持ち、愛着を抱くのか。その愛着が、やがて駅やまちそのものへの愛着に広がっていくとしたら、都市緑化の意味も変わってくるはず。景観として置かれる緑ではなく、関わることで育つ緑になることに可能性を感じています。

20260302 0497 PHOTO:Yusuke Kon

20260302 0287 2 -1 PHOTO:Yusuke Kon

齋藤

橋本駅にあえて少し異質な展示を置くことで、「ここで何かが起きている」という期待や違和感を生み出したいと考えています。それが積み重なれば、リニアが来る前から橋本は面白いエリアという空気が醸成されていくはずです。こうした実証を単発で終わらせず、継続していくことで、挑戦が当たり前のまちへと変えていきたい。結果として、新しいことを始める企業や人材が自然と集まり、次の実験が生まれる循環ができることを期待しています。

―最後に、記事を読んで体験される方にメッセージをお願いします。

齋藤

植物発電という技術と「Botac」という不思議な生き物をきっかけに、「こんなこともできるのでは」と想像を広げてもらえたら嬉しいです。橋本というまちの未来を、少しでも楽しく自分ごととして考えるきっかけになればと思います。一緒に植物発電や橋本エリアを面白がってくれる仲間を募集しているのでいつでも連絡待っています!(プロジェクトへの問い合わせ:rooot.hashimoto@keio.co.jp)

望月

身近な自然の見え方は一つではありません。植物にも、こんな関わり方があるのだと感じてもらえたら、それだけで十分です。そこから、まちとの関係も少しずつ変わっていくのではないかと思います。

横山

キャラクターを見て「今日は元気かな」と思ってもらえるだけでも嬉しいですが、ぜひボタンを押して水をあげてみてください。その小さな行為が、発電という反応になって返ってきます。もし面白いと感じたら、「橋本駅に面白いデジタルペットがいるよ」と誰かに伝えてもらえたら。そうやって関わりが広がっていくことを願っています。

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【展示概要】
期間:2026年3月3日(火)〜3月30日(月)
場所:京王相模原線 橋本駅南口 京王クラウン街 1階改札外
お問い合わせ:rooot.hashimoto@keio.co.jp

TEXT:Eri Ujita

齋藤 真琴

齋藤 真琴

京王電鉄株式会社 課長補佐

1991年神奈川県相模原市出身。一級建築士。駅舎の計画・工事管理・維持管理等を担当して、2023年から橋本エリアの開発を担当。2025年からエリア起点のオープンイノベーションプログラム「ROOOT」を橋本で開始し複数の企業との共創を推進している。

望月 善太

望月 善太

株式会社グリーンディスプレイ 代表取締役社長

1970年東京生まれ。大手ハウスメーカーでの営業や音楽制作会社での共同経営、花卉(かき)業界の卸業務やフローリストであるダニエル・オスト氏に師事するなどを経て、2000年株式会社グリーンディスプレイ入社。2011年に取締役、2013年に常務取締役、2018年に代表取締役社長に就任。現在は、マーケティングに関する講義に登壇するなども行なっている。

横山 賢志

横山 賢志

Konel Inc. Product Designer / Producer

2000年山梨県昭和町出身。修士号。 プロダクトデザインを専門としており修士研究のテーマは「自然現象を活用したインタラクションの研究」自然現象の持つ精神疲労効果を活用したプロダクトを製作した。

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